≪4≫モバイル・サービス市場
モバイルWiMAXは、以上のような特性・位置付けを持ち、またライセンス(免許必要)・バンドでのサービスであるため、通信事業者主導で推進されている。図3は、市場とモビリティの軸から見たモバイル・サービスとそれぞれのサービスで利用が期待されているモバイルWiMAX端末の位置づけを示している。
〔1〕コンシューマ向けサービス市場
モバイルWiMAXによるモバイル・サービス市場では、まずはモバイルWiMAX PC(/Express)カード/USBドングルを装着したPCでの移動インターネット・アクセスからの利用がスタートすると考えられる。PCについては、WiMAXカードを標準搭載したモデルへと進んでいくだろう。また、すでに一般に広く普及しているWi-Fiを搭載したPCなどの機器で、WiMAXを介したブロードバンド通信を可能とするWiMAX-Wi-Fi GW(Gateway)なども発表されている(*2)。今後、図4に示したような機器が登場することによって、携帯ゲーム機、携帯プレーヤやPDA・スマートフォンでのインターネット・アクセス、オンラインゲーム、動画・音楽ストリーミング視聴等が可能になる。
さらにWiMAXカードの小型化・低消費電力化が進み、デュアル(3G/モバイルWiMAX)携帯電話機やWiMAX機能を内蔵した携帯ゲーム機、携帯プレーヤやPDA・スマートフォンが登場してくると予想される。
また、モバイルWiMAXが定額で利用できるようになれば、今まで速度や料金の問題でネットワークに接続されなかったいろいろな機器においても、ブロードバンド・サービスの利用が進展していくとみられている。例えば、自動車に搭載されているさまざまな情報機器は有力なモバイル端末で、例えば、図5に示すように、カーナビゲーション・システムとWiMAX通信機能が組み合わさることによって、地図情報更新、インターネット・アクセス、情報検索・配信、インターネット電話等の利用や、ホームサーバとの連携でコンテンツの共有等が可能となる。また、速度情報、位置情報やワイパー動作情報等を送信し、渋滞・事故情報や天候情報などの交通情報の生成に利用すること等ができる。
さらに、電車、バス、タクシーなどの公共の乗り物内での公衆無線LANスポットサービスも登場するであろう。
〔2〕エンタープライズ市場
モバイルWiMAXは、映像の伝送、例えば移動しながらのモニタリングや臨時に設置するカメラ監視・TV局の中継、屋外での臨時ネットワーク・アクセス等に利用されるだろう。さらに、広告表示装置への動画コンテンツのリアルタイム更新、例えばバスやタクシーでの乗客や路上の人への動画広告や移動式電子ポスターでの利用、自動販売機での街頭広告等のM to M(Machine to Machine)通信が拡大すると考えられる。
また、ワークスタイルの変化によって、在宅勤務やモバイル・ワーカー向けの企業イントラへのリモート手段としても期待される。
〔3〕公共サービス市場
地方自治体では、住民への広報サービス・保健福祉情報等の情報提供サービスでの利用やデジタル・デバイド解消が考えられている。さらに、防災の見回りや災害把握時の業務連絡・住民への動画像による緊急連絡での利用も考えられる。
≪5≫モバイル・ブロードバンド通信とセキュリティ
『第2回 無線LANの安全性を支える標準技術「802.11i」』でも説明したように、無線ネットワークは、セキュリティが大きな課題となっているが、モバイルWiMAXの場合のセキュリティはどうなっているのだろうか。
モバイルWiMAXは、接続時に端末(デバイス)認証・ユーザー認証が行われ、その結果に従って無線区間は強固な暗号化が行われる。また、アクセス・ネットワーク(ASN(※)、CSN(※))では、通信事業者内の保護されたネットワーク上にトンネルがはられて通信が行われる(図6)。このため、モバイルWiMAXによるアクセス・ネットワークは、セキュアなネットワークとなっている。
※ ASN:Access Service Networ
※ CSN:Connectivity Service Network
しかし、WiMAXの通信において、WiMAXネットワーク内はセキュリティが確保されていたとしても、セキュリティがそれほど高くないインターネット側からのアクセスについては考慮する必要がある。特に、エンタープライズや公共サービスでの利用においてはセキュリティが重要となるため、WiMAXを利用する端末や企業側においてはファイアウォールなどのセキュリティの対処が必要となる。
携帯電話によって、生活スタイルやワークスタイルが劇的に変化したように、モバイルWiMAXの登場によってネットワーク・アクセスの機会・場所が広がり、社会環境はさらに変化していく可能性が高い。その分、悪意のアクセスに遭遇する可能性も高くなり、よりセキュリティの確保が重要となる。端末メーカーは、より小型化・高機能化していくことはもちろんであるが、セキュリティへの対処を行うことが重要となる。また、ユーザーにおいても、セキュリティへの意識を十分に持ち、利用する通信形態に合わせてセキュリティ機能を有した機器の選択を行う必要がある。
一方、携帯電話の流れから、第3.9世代といわれるLTE(Long Term Evolution、3Gの長期的な高度化システム)などの開発も活発化しており、モバイルWiMAXとともに大きな注目と期待が寄せられている。
参考文献
*1 庄納 崇:「WiMAX教科書」2008年7月、インプレスR&D発行
*2 林雅彦他:「次世代のモバイル・サービスWiMAXによるブロードバンド無線アクセス」沖テクニカルレビュー第210号Vol.74、2007年4月
プロフィール
林 雅彦(はやし まさひこ)
現職:沖電気工業株式会社(OKI)
ネットワークシステムカンパニー ユビキタスサービス本部 ワイヤレスソリューション部
担当部長
1980年 沖電気工業株式会社 入社。パソコン通信用アナログモデム、ISDN TA、ADSLルータ、Wi-Fiルータ、VoIP Gateway等の企画・開発を経て、現在、VoWLAN用Wi-FiアクセスポイントやWiMAX端末の プロダクトマネージメントに従事中。