[特集]

中国の最新インターネット事情(1):中国発の3Gサービス「TD-SCDMA」の展開

2008/08/06
(水)
陶 一智

中国では、急速な経済成長を背景に、すでに携帯電話利用者は5億人を超え、さらにインターネット利用者数は、2008年6月末で2億5千300万人に達しています。これは、2億1千500万の米国を超えて、世界第1位の数字です。この連載では、中国のインターネットの歴史や特徴、社会に与える影響など、最新の情報に焦点を当てます。
連載第1回目の今回は、北京オリンピック(2008年8月8日~24日まで開催)を目前に中国が開始した、中国国産の3Gサービス「TD-SCDMA」の概要を紹介します。

北京オリンピック開催記念連載! 第1回

≪1≫TD-SCDMA標準化の経緯

2008年現在、中国の携帯電話の利用者はすでに5億人を越えています。このほとんどが、第2世代のGSM(Global System for Mobile Communications)とCDMA(Code Division Multiple Access)方式の携帯電話です。オリンピックを迎えて、中国は第3世代の携帯電話方式として、国産のTD-SCDMA(Time Division - Synchronous Code Division Multiple Access)方式での商用試験サービスを開始しました。

通話方式の標準化は、まず各国の標準化団体や業界のコンソーシアム(※1)で推進することが多いのですが、最終的には、ITU(国際電気通信連合)で行われます。携帯電話に限りませんが、標準化では、特許問題を避けて通ることができません。特に、第2世代(2G)から携帯電話に使われているCDMA(Code Division Multiple Access)方式の技術や半導体を提供してきた米国クアルコム社が、携帯電話から基地局への送信電力の制御、ソフトハンドオーバー、同期・セルサーチなどの基本的な特許の多くをもっています。

クアルコム社は自社でもCDMA用半導体チップや開発用プラットフォームを製造・販売しますが、CDMA用の半導体を製造する他社に特許のライセンス料を課し、さらに、それを使用して製造された携帯電話にもライセンスを課すというビジネスモデルで収益を上げています。これらの特許は、第3世代(3G)の携帯電話の標準化にも大きな影響を及ぼしました。第3世代方式の1つである、日本およびヨーロッパなどが推進してきたW-CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)方式の標準化では、クアルコム社との特許の相互利用交渉が膠着状態に陥り、1999年3月25日になって合意に達したという経緯があります。

通常、多くの企業が個別に特許を持つような技術の標準化を行う場合には、その利用にあたってライセンスを個別に得なければならないという複雑さを避けるため、特許を共同でプールしてライセンスする会社や組織を設立します。第3世代携帯の場合には、これは3G3P(3G Patent Platform Partnership)にあたります。しかし、クアルコム社はこれに参加していません(なお、3GとはThe third Generationのことで、第3世代の携帯電話をさします)。

さて、中国の科学技術部の統計によると、現在、中国が支払っている携帯電話の特許使用料は、売上高の20%にも上っています。これは、携帯電話の中核となる技術が国内に不足していたからです。このような問題を逓減するため、中国では、第3世代の携帯電話の標準化にあたって、国家戦略として独自の方式TD-SCDMAを開発することとしました。これは、中国の大唐通信(大唐通信科技産業集団、Datang Telecom Technology、ダタン・テレコム)とドイツのシーメンス社が中心となって開発を行い、2000年に国際電気通信連盟(ITU)にも第3世代の携帯電話方式の1つとして正式に認可されました。標準化された他の第3世代の方式は、日本とヨーロッパが推進したW-CDMA方式と、クアルコム社が中心となって推進したCDMA2000方式など5つの方式がありましたが、最近(2007年10月)では、モバイルWiMAXも第6番目の標準として認可されています。

※1 携帯電話の標準化団体としては、例えば、W- CDMAなどの標準化を行う3GPP(Third Generation Partnership Project)、CDMA2000などの標準化を行う3GPP2(Third Generation Partnership Project 2)があります。

≪2≫TD-SCDMA標準化と実用化の歩み

1997年7月、中国政府の郵電省は次世代のモバイル通信技術の開発に向けて、第3世代の移動通信方式の評価と調整のためのグループChEG(China IMT-2000 Radio Transmission Technology Evaluation and Coordination Group)を設立し、1998年に新方式の提案を募集しました。これに対し、大唐通信が、TD-SCDMA技術に基づいた提案を行い、政府はこれをITUに提案しました。また、情報産業省では、CWTS(China Wireless Telecommunication Standard Group)という国内の標準化機構を設置しました。このCWTSは、各国の標準化機構が参加して第3世代の携帯電話仕様の検討、作成を行う団体3GPPや3GPP2に参加しました。

中国政府はTD-SCDMA技術の開発を後押しするために、TD-SCDMA産業連盟、TD-SCDMA技術フォーラム、TD-SCDMA技術専門グループの3つの組織を設立しました。まず、産業連盟は、TD-SCDMAの研究開発および実用化に当たり、各組織の調整連絡などを行う組織です。次の技術フォーラムは、国際技術協力と交流を推進する組織です。そして、技術専門グループは方式の決定、標準化、試験などに関する研究を担当します。

2004年2月、中国国家発展改革委員会、科学部、情報産業部は、TD-SCDMAの実用化を加速するため、"TD-SCDMA研究・開発・産業化のための国家プロジェクト"をスタートさせました。このプロジェクトには、7.08億元(約113億円)の予算が振り向けられ、これは、システム、半導体チップ、ソフトウェア、端末、アンテナ、無線などを開発する企業に投資されました。この成果は、2004年11月に、システム関連企業4社、チップメーカー4社、端末製造企業12社が参加して北京と上海で行われたTD-SCDMAの技術テストで披露されました。

2006年2月には実用化に向けたフィールド・テストが行われました。中国電信(China Telecom)(※2)、中国網通(China Netcom)(※3)、中国移動(China Mobile)(※4)の3社は、北京や上海で実験を行ったうえ、その結果を踏まえて、保定、青島、厦門(アモイ)でそれぞれ100余りの基地局を建設し、5000個のテスト用端末を使った試験ネットワークを構築しました。なお、上記各通信会社のサービス提供地域やサービス種別については、本WBB Forumに連載された「中国ケータイ最前線」の第1回を参照してください。ここに中国での携帯電話の歴史やサービス地域の地図を掲載しています。

TD-SCDMAの大規模なテストが行われるようになったのは、2007年に入ってからです。中国移動、中国電信、中国網通の3社が、北京、上海、天津、広州、深セン(センは土ヘンに川)、厦門(アモイ)、秦皇島、瀋陽、青島、保定の10の都市でTD-SCDMAの大規模なネットワークを構築し、試験を行ったのです。

以上に述べたTD-SCDMAの標準化と商用試験サービス開始までの経緯を表1にまとめます。

※2 中国電信:中国南部21省市自治区の固定電話とPHS、DSLなどのデータ通信、国際電話の業務を行う
※3 中国網通:中国北部10省市自治区の固定電話とPHS、DSLなどのデータ通信、国際電話の業務を行う
※4 中国移動:全国の携帯電話(GSM、GPRS)の業務を行う


表1 TD-SCDMA方式の標準化と商用試験サービス開始までの経緯(クリックで拡大)


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