≪2≫H.264/SVCでの双方向通信システム-Vidyo
これまで説明してきた内容は、配信側⇒受信側という片方向のシステムについてでした。
これを双方向にすると、今までの説明では現実的には不足しているところがあります。
例えば、図3に示すように、拠点Aが700kbpsでHD720p@30fpsの映像を拠点Bに配信していたとします。
拠点Bは、300kbpsしかネットワーク的に受ける環境にありません。700kbpsのうち300kbpsのデータしか受け取れていないので、この場合、拡張レイヤのデータをどのように選択しようと考えても、欠落のほうが多い(すなわち、700kbps-300kbps=400kbpsが欠落)ので、どのレイヤも穴だらけ状態となり、データの再構成は非常に難しくなります。高信頼性チャネルのデータも、保護はされているものの相応のダメージを受けることになります。
H.264/SVCだけでは、ネットワークの低いレイヤでの動向については対応しきれないところがある、というのも事実です。H.264/SVCを採用したテレビ会議メーカーである米Vidyo社では、ネットワーク・プロトコルをカスタマイズすることによってこの問題を解決しました。
Vidyoでは、図4に示すように、端末と端末の間にVidyoRouterという装置を置く構成をとります。VidyoRouterは、入力パケットのコピーを作り、対地ごとに必要なパケットを配送します。
このとき Vidyo 受信端末は、図5に示すように、現在のネットワークや自分の再生能力をリアルタイムでVidyoRouterにレポートします。
これを元にして、VidyoRouterは、図6に示すように、独自のアルゴリズムで発信側からきている拡張レイヤのデータ量を優先的に減らしつつ、ベース・レイヤのデータはすべて送信することで、受信側が適切に受信できるように調整して送信します(なお、配信側はVidyoRouterに対して配信するデータ量を減らしません)。
こうすることで、VidyoRouterから受信側端末への帯域を絞りますので、帯域を有効に活用することができます。受信側からVidyoRouterへのレポートは、逐次送信されます。
受信側が、例えば帯域がもっと大きくてもかまわない場合、そのようにVidyoRouterにレポートします(図7)。VidyoRouterは、その情報をもとに、受信側への帯域を増やして送信します(図8)。
これはもちろん、帯域だけでなく、受信側の再生解像度を変更する場合([前半]≪2≫H.264/SVCのメリットの具体例 〔3〕例3:画像精細度の変化に対する動的な対応を参照)にも有効です。
なお、Vidyo社の製品の詳細については、販売代理店であるVTVのサイトをご参照ください。(http://www.vtv.co.jp/product/product/h264svc.html)
――終わり――
画像圧縮技術レポート【前編】H.264/AVCの拡張標準「SVC」と世界初のテレビ会議システム
参考文献
(1)大久保榮監修『改訂三版H.264/AVC教科書』(インプレスR&D)
(2)ITU-Tにおける映像・音声符号化の標準化動向
http://www.ntt.co.jp/journal/0801/files/jn200801080.html
(3)Tutorial: The H.264 Scalable Video Codec (SVC)
http://www.dspdesignline.com/howto/206902266
プロフィール
仲田 智彦(なかだ ともひこ)
VTVジャパン株式会社 技術部 リーダー。テレビ会議開発メーカーより2004年にVTVジャパンへ入社し、現在技術部リーダーとして活躍中。
栢野 正典(かやの まさのり)
VTVジャパン株式会社 代表取締役。1996年VTVジャパン代表取締役に就任し、日本初のビジュアルコミュンケーション専門会社として、VTVジャパンを立ち上げる。
大久保 榮(おおくぼ さかえ)
NTT、アスキー、TAO(通信・放送機構)を経て1999年から早稲田大学国際情報通信研究センター・客員教授、2006年からVTVジャパン株式会社顧問。映像符号化、テレビ会議システムの研究とその国際標準化に従事。