[スペシャルインタビュー]

NEDOのスマートグリッド戦略を聞く!(3):「リアルタイム料金」と「デマンド・レスポンス」

2010/04/02
(金)
SmartGridニューズレター編集部

エネルギー・環境問題やスマートグリッドに取り組む日本最大の研究機関である経済産業省所轄のNEDO(ネド。独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が、いよいよ本格的にスマートグリッドの実証実験に動き出した。NEDOは、さる2010年1月末、米国ニューメキシコ州政府が、州内5カ所で行うスマートグリッド実証プロジェクトのうち、ロスアラモス郡とアルバカーキ市の2カ所と連携し、スマートグリッドに関する実証を展開すると発表。来年度開始する実証事業のための「事前調査」を行う企業として31社を決定した。その実証期間は2010年度から2013年度末までの4年間で、実証の総事業費は約30億円(2010年度は約18億円)である。ここでは、NEDOの新エネルギー技術開発部 系統連系技術グループ 主任研究員の諸住 哲(もろずみさとし)氏に、日本の電力事情と米国の電力事情の違いや、ニューメキシコ州におけるスマートグリッドの実証試験の内容や、今後の日本におけるスマートグリッドの展開などをお聞きした(文中敬称略)。

NEDOのスマートグリッド戦略を聞く!(3)

≪1≫米国特有の電力の「リアルタイム料金」とは?

■ 前回の図6のような実証実験モデルというのは、日本ではやらないのですか。

諸住 これをやるためには電力会社の協力が必要なのですが、ニューメキシコ州の実証実験モデルのように、例えば「リアルタイム料金」みたいなものを実際に導入するという実験は、日本では電気料金制度の面から、そう簡単に導入できる仕組みではありません。このようなことから、仮にやるとしても違う形になるかと思います。

■ すいません。「リアルタイム料金」という意味が理解しにくいので、説明していただけますか。

諸住 今、日本の電気料金というのは「従量料金制」か「基本料金+従量料金」の2部料金制で1カ月ずっと単価が一緒(深夜割引などはありますが)で、変動しない料金体系なっています。

■ そうですね。

諸住 哲氏(NEDO主任研究員)
諸住 哲氏
(NEDO主任研究員)

 

諸住 しかし、米国の場合は、例えば1キロワット/アワー(kW/h、1時間当たりの電力使用量)の電力料金が30分から1時間単位で変わっていくと思ってもらえばよいのです。ですから、昼間は1kW/h当たり、例えば30円くらいの値段がついたりする反面、夜は5円くらいになったりするのです。要するに、電力料金を安い時間帯にたくさん使ったほうが得になるような料金制度にして、安い時間帯にたくさん負荷が増えるように誘導するという料金制度になっています。そのため、電力会社はユーザー(一般家庭など)に、例えば30分から1時間おきの電気料金をたえず情報として送り込まなければならないのです。そのため、家庭には、電力会社から送られてくる電気料金の情報を受け取る「スマートメーター」と、その通信手段というのが必要になってくるのです。

■ なるほど。日本とはかなり違う制度なのですね

諸住 米国の場合、なぜ30分から1時間単位で料金を変えなきゃいけないかというと、卸の電力市場、先ほどお話ししたように、電力会社はほかの発電所(発電会社)から電気を買ってきて家庭に売っているのです。その仕入れの電気料金が30分単位あるいは1時間単位に変動するのです。仮に契約が1時間単位の取引としますと、1時間ごとに電力料金が変動するので、卸(仕入れ)の電力料金が1kWhあたり20円のときに、10円で家庭に売ったら大赤字になってしまいますね。

■ 株価みたいですね。

諸住 そうなのです。つまり、電力需給の決定プロセスが市場化しているのです。日米の電力料金はそのような違いがあるのですが、この米国の場合の電力料金が市場化ということが、現在、非常に切迫した状況を迎えているのです。例えば、米国は、今から約10年くらい前にカリフォルニアで電力危機があったじゃないですか。

■ ありましたね。カリフォルニア州で、2000年夏から翌年の2001年にわたって電力会社が電力を供給できなくなって、停電が頻発した時期のことですね。

諸住 あの時にカリフォルニア州で何が起こったかというと、電力会社が発電会社から電力を購入する卸のところで電力の値段が上がっているにもかかわらず、小売の値段を上げられなくて、安い値段のままになっていた小売りの需要が減らない状況が発生したのです。ですから、マーケットが安定せずに電力の需給関係が崩壊してしまったというのがカリフォルニアをはじめとする当時の電力危機にメカニズムなのです。


≪2≫なぜ米国は、デマンド・レスポンスを重視するのか?

■ そういう現象は日本では考えにくいですね。

諸住 ですから、米国の電力会社は、電力の卸の値段が上がったときに、小売の値段も一緒に上がらないと、きちんととマーケット・メカニズムが働かないということを痛感したのです。それでデマンド・レスポンスということを非常に重視するようになったのです。デマンド・レスポンスというのは、電力使用料がピークに達したときにオン・デマンドにユーザー側の電力消費をスマートメーターを通じて削減できるようにする仕組みなのです。この仕組みは、これまで、企業レベルの施設(スーパーや工場など)では行われてきましたが、これを一般家庭の住宅まで適用しようというのが、スマートグリッドの重要な目的の一つにもなっているのです。

■ それでスマートグリッドの説明には、デマンド・レスポンスという言葉がよく出てくるのですね。なるほど。リアルタイム料金がどういうことなのかよくわかりました。

諸住 日々体験されておられるように、日本の場合は、現在、リアルタイム料金を導入する理由がない、つまり、スマートメーターを入れる必要性というのは差し迫っていないという状況なのです。ただし、これから先、太陽光発電や風力発電などが大量に導入される時代になってきますので、卸のところの値段はあまり変わらないかもしれませが、昼間、家庭などから大量に電気が余って、基幹の系統(電力システム)に流れ込んでいく可能性があります。また、従来と違って、昼間に電気が余ってしまうと、その電気をだれかに消費してもらわないといけないので、例えば、従来とは逆に、昼間の電気料金を安くするというような世界が始まりそうなのです。ですから、太陽光発電が家庭にたくさん入るような状態になってくると、このようなスマートメーターによる制御するような対策も必要になってくると思います。

■ この課題は、環境・エネルギー問題を考えますと、これは日本だけの課題ではありませんね。

諸住 哲氏(NEDO主任研究員)
諸住 哲氏
(NEDO主任研究員)

 

諸住 そうですね。新エネルギー(再生可能エネルギー)がたくさん出てくると、新エネルギーというのは、電力料金の変動に対して、出力を上げたり下げたりできない電源なので、余っているにもかかわらず、気象条件がいい(例:晴れでしかも風が強い場合)と容赦なく発電してしまいます。一方、電気が足りないにもかかわらず、夜になったら太陽光発電は発電しません。そういう意味で、需要側(家庭側)で電力をコントロールすることが重要になってきます。ですから、新エネルギーの導入とともに、こういうスマートグリッド的な対応、あるいは蓄電池を使って、「いつ上手に電気をためて、いつ放電するか」というような技術も重要になってくるのです。それは日本、米国、欧州にかかわらず一緒です。

■ 米国の状況はわかりましたが、今後、日本はどのような展開になっていくのでしょうか。

諸住 基本的には、2010年~2011年以降、太陽光発電のコスト(太陽電池モジュールのコスト)はかなり値段が下がると言われています。ですから、現在のように電力会社が、一般の電力料金よりも2倍以上も高く買い取るというような政府の奨励的な制度がなくても、一般家庭で、10年くらいで容易に元が取れる状態になると言われています。このような状況になれば、かなり太陽光発電が大々的に普及するようになると予想がされています。このため、早ければ20年後には、現在の電力システムの2分の1から4分の1の量の太陽光が入ってくると予想されています。そうすると、電力の需給関係の面からも、電力系統の安定性的の面からも、大きな問題が出てくるので、いろいろな系統対策技術を導入しなくてはなりません。その一つの対策として蓄電池も、重要な課題となってきています。


≪3≫電気自動車の実験を行わない理由

■ 蓄電池の重要性のお話が出ましたが、これに関連してニューメキシコ州の実験の中では、電気自動車の実験も行われるのでしょうか。

諸住 今回の実験には、電気自動車の実験はプロジェクトのテーマに入れていません。その理由は、ニューメキシコ州はあまり電気自動車に向かない地域だからです。

■ なぜ、向かないのでしょうか。

諸住 今回実験が行われるロスアラモス(人口2万人)からアルバカーキ(ニューメキシコ州の中央部に位置する、同州最大の商工業都市。人口75万人)まで、自動車で仕事で移動するケースが結構ありますが、あの間は100km以上あります。アルバカーキというのは一番大きい町なのです。ニューメキシコ州の州都サンタフェとアルバカーキの間が100kmなのです。サンタフェからさらに60kmほど行ったところにロスアラモスがあるのですが、現在の電気自動車の充電能力では、行きはよいのですが、帰れないのです。

米国の場合、日本に比べて自動車による通勤の移動距離が長く、1日平均200~300km走るような車も結構あるので、完全な電気自動車という発想より、プラグ・イン・ハイブリッド車(PHEV:Plug-in Hyblid Vehicle)のほうが実用的なのです(PHEV:基本的にバッテリーで走行し、バッテリー切れたら普通のガソリン・エンジン車として走行が可能な車)。

■ なるほど。事情が日本とかなり違いますね。

諸住 ですから、基本的には燃料(ガソリン)を入れられない車は、米国では電池切れになると命にかかわる問題になります。ニューメキシコ州というのはその最たる場所なのです。要するに、アルバカーキとサンタフェの間にほとんど人が住んでいない、何にもない砂漠なのです。

■ 危ないですね。

諸住 そうです。ですから電気自動車は現状では、ニューメキシコ州にはあまり向かないということを、現地では認識されています。日本では電気自動車が、1日平均30km~60km程度走れれば、多分90%割以上まかなえると言われていますけれども、米国ではまったく物理的・地理的な環境が違うので、電気自動車だけというのは、まだ時間がかかるということ認識なのです。

しかも、アルバカーキの標高は1,600メートルで、ロスアラモスが2,100メートルですから、この間で500メートルの標高差があり、上り下りの坂もかなりきつく厳しいのです。 ―そういう背景もあって、あえて電気自動車はプロジェクトに入れなかったのです。

■ この前、サンノゼ、シリコンバレーから来た友達が、日本で自分の自宅のスマートメーターからの電力の情報を見ていましたが、自分の今月の電力料金の使用状況が、遠隔から見られるわけですね。いずれ携帯電話からでも見られるようになるということでしたが、ここではそういう実験もされるのですか。

諸住 各家庭にスマートメーターを設置して実験はしますが、どこまでの内容を実験するかというのはこれから詰めていくことになります。ここの実験の中で1つ注目しているのは、スマートメーターの技術そのものよりも、サイバーセキュリティについてです。この概念が抜けていると、スマートメーターに対して、最悪の場合だれでもアクセスできる状況になってしまうことなのです。スマートメーターからの情報は、非常にプライバシーの高い情報です。米国というのはサイバー攻撃を非常に受けやすい国でもありますので、スマートメーターやスマートグリッドに関する情報技術の中で、とくにサイバー・セキュリティーの研究を重視しようと言うことになっています。

(つづく)

バックナンバー

<NEDOのスマートグリッド戦略を聞く!>

第1回:始動するNEDOのニューメキシコ州プロジェクト

第2回:電力会社が3000社以上もある米国市場

第3回:重要な「リアルタイム料金」と「デマンド・レスポンス」


プロフィール

諸住 哲(もろずみさとし)氏(NEDO主任研究員)

諸住 哲(もろずみさとし)氏

現職:
独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
新エネルギー技術開発部 系統連係技術グループ
主任研究員 工学博士

【略歴】
1985年3月 北海道大学大学院工学研究科博士課程修了
     (電力貯蔵システムの最適運用と最適配置の研究で博士号取得)
1986年4月 (株)三菱総合研究所 入社
     (電力需給問題、供給信頼度分析、DSM、電力市場、新エネルギー
     系統連系問題、電力貯蔵技術、マイクログリッドなどの調査、開発の従事)
2006年4月より NEDO技術開発機構出向〔太陽光集中連系、大規模太陽光発電、風力安定化、新エネルギー集中実証(マイクログリッド)、新電力ネットワーク実証等の実証研究を管轄〕

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