≪1≫NEDOがニューメキシコ州と共同実験する理由
■ かなりダイナミックな動きになってきましたね。ところで、どのような背景からニューメキシコ州とプロジェクトを組むことになったのでしょうか。
諸住 その背景の一つとしては、まずニューメキシコ州と経済産業省の間で包括的な協力関係の協定があって、それを実行するという動きがあったのが一つです。2つ目は、ニューメキシコ州の中には、米国の中でエネルギー省をはじめ、重要な国立研究所がいくつかあることです。その中でも、戦略的に重要だと言われている米国エネルギー省が管轄するサンディア国立研究所(SNL:Sandia National Laboratories、ニューメキシコ州アルバカーキ)それから同じくニューメキシコ州ロスアラモスにあるロスアラモス国立研究所という2つの大きな国立研究所があるので、そこが一つ研究の協力相手として有望だということで始めたというのが大きな特色です。
具体的にはニューメキシコ州政府は、図3に示すように、州内5カ所〔アルバカーキ(Albuquerque)、ラス・クルセス(Las Cruces)、タオス(Taos)、ロスアラモス(Los Alamos)、ルーズベルト・カウンティ(Roosevelt County)〕がデモストレーション・サイトでスマートグリッド実証試験を行いますが、今回NEDOと共同で行うのは、図3のピンク色示す、ロスアラモスとアルバカーキの2カ所で連携し、スマートグリッドに関する実証を展開することになっています。
≪2≫電力会社数の違い:日本は10社に対し米国は3000社以上もある
■ わかりました。ところで、スマートグリッドが出てきた当初、日本の電力システムは米国に比べて停電も少なく安定しており、特別、緊急に取り組む課題はないというような話をよく耳にしましたが、日本の電力事情と欧米の電力事情の違いをどのようにとらえておられるのでしょうか。
諸住 哲氏
(NEDO主任研究員)
諸住 欧米と日本の電力事情の代表的な違いは、米国の場合は電力の取引が市場化(自由化)しているということです。ですから、ある電力会社が自前で電源(発電所)をもつのではなくて、電力会社は発電会社から電気を集めてきてユーザーに売るという、日本とは異なる市場になっているのです。ですから電力の販売については、場合によっては同じ地域に競争相手がいるので、地域の市場の中でお客さんを取り合いながらビジネスをやる仕組みなのです。これに対して、日本はある地域の発電から配電まで(電力系統)が一つの電力会社がほぼ独占しているという状況にあります。これが、日米の大きな違いです。
■ それは、例えば日本の場合だと、10個の電力会社がどっちかというと国営に近くて、米国の場合はもっと普通の民間企業的なイメージ、そんな感じなのでしょうか。
諸住 それは違いますね。日本は最初から民営化されています。逆に言うと、公営の電力会社というのは、従来、米国のほうが多かったのです。その違いは何かというと、日本では、民営の電力会社をつくる代わりに、電力会社がすべて(どこの離島であろうが、東京のど真ん中であろうが)、同じ値段(電気料金)で、しかも同じような電力品質のサービスを提供する、というのが基本なのです。
■ 「あまねく公平に」という考え方ですね。
諸住 そうです。実は、米国では、地方(田舎)に関しては私営の電力会社がサービスを提供していかなかったので、みんながお金を出し合って配電線をつくったり、あるいは公営の、つまり自治体が電力会社を経営するという形態が田舎では非常に多いのです。逆に、都心部はすごく商業化(民営化)しているのです。
ロスアラモスというは、ニューメキシコ州北部のロスアラモス郡に位置する町で人口は2万人ほどの町です。ロスアラモスの電力会社は郡が経営しているのです。
そういう意味では、米国の状況は日本と違って、電力会社の経営形態は、私企業的なところから公営のところまで幅広く存在しているのです。
■ 日本の電力会社は、北海道電力・東北電力・東京電力・中部電力・北陸電力・関西電力・中国電力・四国電力・九州電力・沖縄電力の10社ですが、米国は何社くらいあるのですか。
諸住 哲氏
(NEDO主任研究員)
諸住 米国の場合は、日本のように電力会社のそれぞれがすべての電力システムを運用しているというのではなく、発電専門事業者もいるし、送電専門事業者も配電専門事業者もいる、さらに民営や公営もあるので、全部合わせると電力会社が3000社以上もあるのです。米国という国は非常におもしろくて、要するに、すべてのお客さんに私営(民営)の電力会社がサービスを提供することを約束しているわけじゃないのです。ですから、電力が提供されない(家庭)が、第2次世界大戦の直前ぐらいまでかなりありました。
■ ところで米国の場合、日本に比べると、停電が10倍ぐらい多く、しかも電力品質があまりよくないということをよく聞きますけれども、その辺についてはいかがですか。
諸住 米国では大きな停電がよく発生するので、印象として停電が多いと言われているように思います。しかし、停電の内容をよく分析してみますと、日本の場合は、ユーザーの家庭に近い末端の配電系統、いわゆる電柱から先の世界では、配電の自動化がとても進んでいて、停電があっても、早ければ15秒後で復旧できるようになっているのです。このように短時間に復旧するというのが日本の電力システムの特長なのです。一方、米国の場合には、現地の停電箇所を確認したうえで、人間が電力系統を切りかえるという作業を行うので、復旧時間がかかるのです。これが日米の停電時間の長さの違いの実情なのです。
■ なるほど、そうことなのですか。
諸住 また、一般的に、日本で日米の停電時間の差が比較される時は、普通、東京電力とカリフォルニアの電力会社(サザンカリフォルニア・エジソン社。サンディエゴ市近辺とロサンゼルス市内を除く南カリフォルニア郊外エリアをカバーする電力会社)を比べられるケースが多いのです。その場合、東京電力が年間5~6分の停電に対してカリフォルニアは、年間80分と、10倍以上の差となっているというように言われるのです。しかし、ニューヨークの中心地の場合は東京電力とあまり変わらなくて、年間10分前後の停電だと思います。
≪3≫ニューメキシコ州「ロスアラモス・サイト」の実験内容
■ それでは、先ほどお話があったニューメキシコ州の実証実験のことに戻りまして。ニューメキシコ州と共同行われる実験の構想についてお話しいただけますか。
諸住 簡単に説明しますと、ニューメキシコ州自体には、実は図4に示すようなグリーン・グリッド・イニシアチブ構想〔The New Mexico Green Grid Initiative(NM-GGI))があったのです。
このエリアは非常に太陽光の日照時間が長いのです。アルバカーキに至っては多分、年間300日が晴れという状態です。それから、この州の東側というのは、わりとテキサスに近いエリアなのですが、ロッキー山脈の東側の山のすそ野というのは、もともと風が強いところでして、そこが今度の実験の一角にひっかかるのです。ここは、風力発電所の適地なのです。それから、ニューメキシコ州は、電力系統的にはウエスタン・エリア・パワー・アドミニストレーション(Western Area Power Administration、連邦政府が経営している送電線会社)といって、カリフォルニア州を含む結構大きな電力系統の一番南東の隅の一角を占めているので、例えばカリフォルニアのような電力の大量消費地に、新エネルギーを中心に電気を送ってビジネスしようという気概を、もともとニューメキシコ州はもっていたのです。
今後、比較的大規模な太陽光発電システムに加えて、コンシューマ側(いわゆる一般住宅側)のほうにも小規模な太陽光発電が大量に入ってくることが予想されるため、ニューメキシコ州の電力系統の中に、気候によって変動する新エネルギー(再生可能エネルギー)の比率がだんだん高まってくる可能性が高いのです。これに対応して、どのような系統対策をすべきか、について実証研究しようという構想が、実は先ほどお話しした、ニューメキシコ・グリーン・グリッド・イニシアチブ(GGI)というプロジェクトの構想だったのです。
そこにNEDOが、前述の図3のピンクで示したロスアラモス・カウンティ(郡)・サイトとアルバカーキ・サイトという2カ所で、一緒に実証実験をやりましょうという提案をする形になって、その構想が具体化していったというのが、このたび共同で取り組むニューメキシコ州のプロジェクトなのです。
■ ロスアラモスやアルバカーキのプロジェクトの内容についてお話いただけますか。
諸住 ロスアラモスというところは、ロスアラモス国立研究所のそばの住宅エリアを対象にして実証研究をするところですが、図5-1に示すように、この地域は大体、人口が約2万人、2000~3000くらいの住宅が建っているエリアで、高地の2,100メートルの高い山の上です。
そのうちのあるエリアを、スマート系統化(マイクログリッド化)しようという動きが今あります。図5-2にロスアラモス郡におけるNEDOのマイクログリッド実証の内容を示します。
図6をご覧になってください。大きな2メガワット(2MW)くらいの太陽光発電システム(PW)を、図6のように、NEDO側に1MW、米国側に1MWずつ設置して実験します。図6の上部のPVシステム1MWの部分が、天候に左右されるため、電力系統の中で大きく出力を変動させる要因ですが、それを集中型蓄電池(定置式電池1MW)で蓄電し出力変動を吸収するというのとあわせて実験します。さらに、リアルタイム料金の管理、すなわち、ある時点の電力需給条件を見て電気の料金を安くしたり、高くしたりするということを行います。また、NEDOはデモンストレーション・ハウスをつくり、デマンド・レスポンス(電気料金を変更することでピーク時に需要家の判断で電力消費の削減を行わせること)のような、各家庭の需要を制御する実験も行います。図6の黄色の部分がNEDOが投資する範囲です。
■ 米国側では、何をするのでしょうか。
諸住 図6の下側が、米国側の電力会社の系統で、図のように1MWの太陽光発電(PW)システムを導入し、電力会社が各家庭個々にスマートメーターを設置し、料金の課金などの実験も行います。このようなシステム構成で、共同研究をやりましょうというのが目的の1つです。
■ これはどれぐらいの期間やられる予定なのでしょうか。
諸住 来年度(2010年度)から、NEDO側の構想で言うと約4年の期間を予定しています。最初の2年が設備構築期間で、後半2年が具体的な実証実験となり、運転によるデータ蓄積・分析というような動きになると思います。
(つづく)
バックナンバー
<NEDOのスマートグリッド戦略を聞く!>
第1回:始動するNEDOのニューメキシコ州プロジェクト
第2回:電力会社が3000社以上もある米国市場
プロフィール
諸住 哲(もろずみさとし)氏
現職:
独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
新エネルギー技術開発部 系統連係技術グループ
主任研究員 工学博士
【略歴】
1985年3月 北海道大学大学院工学研究科博士課程修了
(電力貯蔵システムの最適運用と最適配置の研究で博士号取得)
1986年4月 (株)三菱総合研究所 入社
(電力需給問題、供給信頼度分析、DSM、電力市場、新エネルギー
系統連系問題、電力貯蔵技術、マイクログリッドなどの調査、開発の従事)
2006年4月より NEDO技術開発機構出向〔太陽光集中連系、大規模太陽光発電、風力安定化、新エネルギー集中実証(マイクログリッド)、新電力ネットワーク実証等の実証研究を管轄〕