[スペシャルインタビュー]

NEDOのスマートグリッド戦略を聞く!(4最終回):日本のIT産業とスマートグリッド

2010/04/09
(金)
SmartGridニューズレター編集部

エネルギー・環境問題やスマートグリッドに取り組む日本最大の研究機関である経済産業省所轄のNEDO(ネド。独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が、いよいよ本格的にスマートグリッドの実証実験に動き出した。NEDOは、さる2010年1月末、米国ニューメキシコ州政府が、州内5カ所で行うスマートグリッド実証プロジェクトのうち、ロスアラモス郡とアルバカーキ市の2カ所と連携し、スマートグリッドに関する実証を展開すると発表。来年度開始する実証事業のための「事前調査」を行う企業として31社を決定した。その実証期間は2010年度から2013年度末までの4年間で、実証の総事業費は約30億円(2010年度は約18億円)である。ここでは、NEDOの新エネルギー技術開発部 系統連系技術グループ 主任研究員の諸住 哲(もろずみさとし)氏に、日本の電力事情と米国の電力事情の違いや、ニューメキシコ州におけるスマートグリッドの実証試験の内容や、今後の日本におけるスマートグリッドの展開などをお聞きした(文中敬称略)。

NEDOのスマートグリッド戦略を聞く!(4)

 

≪1≫ニューメキシコ州「アルバカーキ・サイト」の実験内容

■ ところで、話を戻しまして、先ほどのロスアラモス・サイトに続いてアルバカーキ・サイトでの実験内容の特徴的なお話をお願いできますか。

諸住 先ほど、図6にロスアラモスの内容を紹介しましたが、図7-1図7-2にアルバカーキの実験内容を示します。また、図8にアルバカーキ・サイトのNEDOマイクログリッド実験システムの構成を示します。


図7-1 アルバカーキ・サイトの外観(クリックで拡大)

図7-1 アルバカーキ・サイトの外観


図7-2 アルバカーキでのNEDOマイクログリッド実証実験の内容(クリックで拡大)

図7-2 アルバカーキでのNEDOマイクログリッド実証実験の内容


図8 アルバカーキ・サイトのNEDOマイクログリッド実験システム構成(クリックで拡大)

図8 アルバカーキ・サイトのNEDOマイクログリッド実験システム構成


図8に示すように、アルバカーキのNEDO側における実験では、畜電池のかわりに、ビルのコージェネレーションとか蓄熱槽を、電力変動の吸収要因として使います。一方、米国の電力会社側のほうは、PVシステム〔Photovoltaic(PV)power generating system、太陽光発電システム〕を設置しますが、このPVシステムの出力電力の変動を、NEDOのビル側のコージェネレーションとか蓄熱槽で吸収するというような実験もやろうとしています(コージェネレーション:Cogeneration、熱併給発電。発電時に発生した排熱も利用し、冷暖房/給湯等に利用するエネルギー供給システム)。

■ PVシステムの出力の変動をビル側で吸収する、とういう意味は?

諸住 哲氏(NEDO主任研究員)
諸住 哲氏
(NEDO主任研究員)

諸住 PVシステムの出力の変動をビル側で吸収することによって、このスマートグリッド内の変動を、外部の電力系統側(図8の緑色の変電所から外側)のほうに影響を波及させないようにするのです。

■ 図8で、家庭用住宅やビルのモデルは、何棟くらいつくられるのでしょうか。

諸住 実験的に言うと、図8に示すように、モデルとなるようなビル1個(NEDO商用ビル)と家庭1戸(NEDOハウス)を作って実験します。この家庭1戸のところに、非常にスマートなエネルギー管理システムを構築します。その場合、注意する必要があるのは、人間がやる限りは最初は関心を持っていただくのですが、いつかは飽きがくるのが予測されます。いくらスマートメーター経由で、電力料金が見えるといっても、半年もすると、みんなそんなものは注意しなくなります。

■ そうですね。

諸住 それではだめですから、基本的にはスマートメーター(機械)の機能として、自動的に料金を知らせる、あるいは天気予報や発電予測など他のサービスが提供できるようにしていかないといけないのです。そういうシステムにしようというのが私たちNEDOの試みです。要するに、スマートメーターを通して、人間に「見える化」情報を提供していく実験なのです。最初にお話ししたように、この実験参加するNEDO側の日本の企業31社は決まりましたが、米国側の参加企業の発表は少し遅れています。

■ ところで、今回のニューメキシコ州のプロジェクトの実験に、これまでNEDOが長年積み重ねてきた実験の成果を、ほとんど持っていくということになるのですか。

諸住 一部は、事前検討のために提供するということはあります。具体的に言うと、電気モーターのデータや太陽光発電に関するデータは、国際的に見てもすごく貴重なデータなのです。しかし、それを米国から分析したいと申し込まれていますので、それに関しては、第三者に開示しないという秘密保持契約を結んだうえで開示する、という手続をしている状態です。


≪2≫米国のスマートグリッドの大きな2つの流れ

■ 現在の状況について、例えばグーグルをはじめIBMやマイクロソフト、シスコなどの米国IT業界が、かなりスマートグリッドでビジネス・チャンスをとらえようと意欲的ですが、現地の米国に行かれたりして、どういう感じがされていますか。

諸住 基本的に、米国のスマートグリッドには大きく2つの流れがあります。一つは電力系企業のスマートグリッドの流れで、もう一つはIT系企業のスマートグリッドの流れです。グーグルやIBM、シスコ、インテルなどのIT企業は、それぞれの会社のポジションによって、スマートグリッドに対する取り組み方がそれぞれ少し違いますが、いずれにせよ、共通している認識は、過去にはIT産業について、従来はバーチャル市場と呼ばれるゲームとかエンターテインメントが産業の伸びを引っ張ってきたのが、世界中で、ここ2~3年、マーケットの停滞期に入ってきたというのが、ほぼ一致したみんなの意見だと思います。

■ たしかに、落ち込んでいますね。

諸住 多分、この状況は復活しないというのがみんなの認識で、人間に対してバーチャルなサービスでマーケットを広げるのはもう限界が来ているのではないか。リアル・ワールドに、IT産業が出ていかなきゃいけない時期にきているという認識が広まってきたのだと思います。そして、今後、つなげる相手は機械(装置/システム)だというのが彼ら(IT産業)の戦略となってきているのです。「機械同士をつなげる」、このことで今一番わかりやすくて、目の前にある対象が、スマートグリッドだというのが、IT産業の見方となっています。

■ わかりやすいですね。

諸住 それに対して、日本のIT産業と家電産業は、実はそれほど危機感を持たずに動いているところがむしろ問題なのです。そこで、韓国のサムスンなどのほうが米国マーケットで勢いをつけていますので、日本勢の目の前の課題としては、彼らの市場化スピードのほうが日本よりも速いという状態です。ただ、韓国が全般的に国として新エネルギーに対する経験が浅いこともあり、現状では、アイデア面で日本は抜かれるところまではいっていません。ただ、日本のIT産業は、「スマートグリッドは単なるエネルギー技術の革新」だと思い込んでいるところがありますが、これは大変な誤解なのです。すなわち、日本の産業としては、世界の中で電力会社が取り残されているのではなくて、IT産業が取り残されているのだという認識がないところに大きな危惧を感じます。

■ スマートグリッドの分野でも日本のIT産業は取り残されている、ということですね。

諸住 その通りです。それが、今の日本のIT産業の状態と思ったほうがよいのです。

■ ITに関連しまして、スマートグリッドが出てきたときに一番関心を持ったのはホーム・ネットワークなのです。昔から日本は、ホーム・ネットワークについて騒がれ話題になるのですが、ホーム・ネットワークというのはなかなか普及しないみたいなところが一方であったのです。スマートグリッドが出てきて、ようやく、ホーム・ネットワーク的な要素が非常に重視されるのかなという感じをもったのですが。

諸住 それは、多分、ホーム・ネットワークというよりも、もうちょっと広いエリア・ネットワークへの期待としてとらえたほうが良いのではないかと思います。なぜかというと、一つは、太陽光発電みたいなシステムは、現在はまだホーム・ネットワークの世界なのですけれども、日本の場合、現在、もしかすると戸外を走る電気自動車がブレークするかもしれないという段階に入ってきたからなのです。

■ なるほど。その可能性はありますね。

諸住 哲氏(NEDO主任研究員)
諸住 哲氏
(NEDO主任研究員)

諸住 移動機器の中で、小型の携帯電話など場合はあまり電力が大きくないため重要な問題とはならなかったのですが、電気自動車は、電気をたくさん消費する機器であり、初めて受電点が移動する機器なのです。

■ 受電点が移動するという意味は?

諸住 家庭のコンセントや会社のコンセント、つまり「充電点」(電気を充電する場所)で携帯電話を充電する場合は電力が小さいのであまり問題が起こらなかったのですが、大量の電力を必要とする電気自動車を職場でかってに充電する人も出てきますが、このとき問題が発生します。今の制度で、勝手に会社のコンセントで毎日電気自動車を充電していたら、そのうち会社から業務上横領と言われるに決まっています。要するに職場やどこかのショッピング・センターで、個人が電気自動車のための電気を買わなくてならなくなるのです。

それは、従来の電力事業の概念から外れてくるのですが、しかし仮に電気自動車のようなものが普及してきたとしても、実は電気を送っている電力会社の電力系統のほうは、ほとんどイノベーションは起こらないのです。しかし、電力を使うために差し込むコンセントは同一のものを使うので、重要なことは、そのときだれがそのコンセントを使って充電したかという情報が、電気と一緒に並行に処理される必要があるということなのです。今後、そのようなことも発生しますので、投資としてはIT(情報)系の投資のほうがどんどん増えていくことになります。それは、家庭内に限らず、エリア(その地域)というか、ソサエティー、いわゆる社会の中で必要となってくるはずなのです。


≪3≫これからのビジネス・チャンスはIT産業にあり!

■ ありがとうございました。それでは、これからスマートグリッドに関連するビジネス・チャンスとして、どういうところが一番注目されるのでしょうか。

諸住 基本的には、先ほど申し上げましたように、これまでと違って、だれがつくったエネルギーや電気を、だれがいつ買って消費したのかというように、エネルギーや電気に情報が付加されるようになっていきます。したがって、エネルギーや電気に関連する情報網が大きく変わってくるというのがスマートグリッドの特徴なのです。このようなことから、ビジネス・チャンスは、まず情報系およびそれに関連するシステム、あるいはそれぞれのシステムに対応する新しいIT関連機器のところに創造されますし、それらを使ったビジネス・モデルを展開する人間にいろいろチャンスが回ってくると思います。

また、たくさん設置された太陽光発電がきちんと動いているかどうかを遠隔でだれかがモニターするサービスというのも、スマートグリッドの一つの重要なアプリケーションなのです。例えば、グーグルでは、どこが停電しているかという情報を、電力会社じゃなくてグーグルが先につかんで、その情報を例えば警察なり治安組織に売ったり、マーケットの関係者に売るなどのビジネスもねらっているわけです。

■ なるほど、そういうビジネスがあるのですね。

諸住 米国で最高に傑作なのが、電力会社じゃない人たちが、送電線のそばに、いわゆる磁気を計測する装置を置いといて、送電線が今どれくらい電気を送っているかというのをモニターして、米国の電力網のうちどこの電力網が正常に動いていて、どこが停電しているかという情報を作成して、それを売ってビジネスしている会社もあるほどなのです。

■ そういうビジネスは日本で起きそうですか。

諸住 日本ではそこまで考える人はなかなかいないですね。そういうことは、米国人のほうが発想が豊かなので、向こうのほうから、そういうビジネス・モデルはいろいろな案が出てくると思います。


≪4≫今後の日本におけるスマートグリッドの展開

■ 最後に、今後どんなイメージで日本のスマートグリッドは展開していくことになるんでしょうか、というのを簡単にお話しいただけますか。

諸住 おそらくスマートグリッドが、世界の国ごとにいろいろとトライアルを試みていく中で、現在、日本の場合、少し遅れてはいますが、今回のスマートグリッドが、エネルギー系の競争ではなくて、IT系の競争だということに気づいてくるようになると思います、それをビジネス・モデルとして発展させ、世界的な市場をにらんで挑戦していく日本の企業が出てくるのを期待しています。

これからいろいろな展開が出てくるとは思いますが、問題は、これから先は、単に1個1個の技術がすぐれているだけではなくて、その技術を組み合わせて、どのようにシステム的に動かしてビジネス・モデルを構築するかという、結構、これまで日本人が得意でないところまで踏み込まなきゃいけないのです。そこでどのようにして、そういう人材を育てていくかということが大きな課題になってきているのです。

■ 長時間にわたり、どうもありがとうございました。

(終わり)

バックナンバー

<NEDOのスマートグリッド戦略を聞く!>

第1回:始動するNEDOのニューメキシコ州プロジェクト

第2回:電力会社が3000社以上もある米国市場

第3回:重要な「リアルタイム料金」と「デマンド・レスポンス」

第4回最終回:日本のIT産業はスマートグリッドでも取り残されている


プロフィール

諸住 哲(もろずみさとし)氏(NEDO主任研究員)

諸住 哲(もろずみさとし)氏

現職:
独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
新エネルギー技術開発部 系統連係技術グループ
主任研究員 工学博士

【略歴】
1985年3月 北海道大学大学院工学研究科博士課程修了
     (電力貯蔵システムの最適運用と最適配置の研究で博士号取得)
1986年4月 (株)三菱総合研究所 入社
     (電力需給問題、供給信頼度分析、DSM、電力市場、新エネルギー
     系統連系問題、電力貯蔵技術、マイクログリッドなどの調査、開発の従事)
2006年4月より NEDO技術開発機構出向〔太陽光集中連系、大規模太陽光発電、風力安定化、新エネルギー集中実証(マイクログリッド)、新電力ネットワーク実証等の実証研究を管轄〕

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