[スペシャルインタビュー]

東芝のスマートグリッド国際戦略≪前編≫

― エネルギー産業の再編と新ビジネスモデルの展開―
2015/01/01
(木)

新ビジネスの創出と中核となるスマートメータービジネス

〔1〕1,000億円ビジネスへの拡大を狙う

─編集部:ランディス・ギアの買収は、日本のスマートグリッドの展開にも大きなインパクトになりましたね。

横田:日本国内は電力会社各社が、この面でしっかりとした業態をもっていますから、当社とランディス・ギアが電力会社に代わってサービスを提供する計画はもっていません。海外では、この買収によって、スマートメーターを販売し、AMIネットワークを形成できるようになったこと、形成されたネットワークからの情報を使って、さまざまなサービス支援をはじめ、自分たちがオペレータ(電力会社)の業務を代行するというところまで、ビジネス領域を広げることができるようになりました。

 例えば、発展途上国のように自立的なサービスの提供が難しい国には、その国のエネルギーの運用までを受託して、ビジネスを展開していきたいと考えています。

 そこで、スマートグリッドのビジネスの初期的な立ち上げ時点(第1ステージ)で、ランディス・ギアを活用し、しっかりとビジネスの可能性を国際的に拡大しようと狙って動いたのです。

 現時点で、ランディス・ギアのビジネスは、スマートグリッドに関連する売り上げが中心ですが、今後、このサービスだけで、追加で1,000億円規模のビジネスを創出し、100億円以上の利益を出せるよう展開していく計画です。

〔2〕HEMSからの収集データとサービス関連情報の結合がキモ

─編集部:日本における具体的なビジネス計画はあるのでしょうか。

横田:はい。先ほど申し上げた事業者の代行ビジネスというのは、まだごく一部であり、既存のビジネスのお手伝い程度のビジネスです。現在、これとは異なる新しいビジネスを計画しています。

 具体的には、スマートメーターとHEMS(家電機器などのエネルギー管理装置)の通信部分、日本ではBルートと言われていますが、ここから家庭における家電などのエネルギーの正確な消費情報を収集し、これらの情報とサービス関連の情報を結合させることによって、そこに新しいビジネスを創出していこうとしています。

 現時点では、世界中に電気自動車(EV)があふれ、蓄電池などのエネルギー貯蔵システムがあふれているわけではないので、あまり直面していませんが、これが普通になったときのことを想像してください。

 例えば、蓄電池を搭載したEVがあり、各家庭にコンパクトなリチウムイオン電池、あるいは燃料電池、太陽光など分散電源が導入されているとしましょう。太陽光や風力などの再生可能エネルギーは安定的な出力ではないため、国がFIT注2の仕組みなどを制定し、その普及を促進しています。しかし、一般家庭や企業に安定的に電力を供給することが義務づけられている電力会社は、不安定な再生可能エネルギーを一定量以上は受け入れられなくなり、現在でもすでに一部抑制せざるを得ない局面を迎えています注3

 FITで先行したドイツは、「今、再生可能エネルギーを受け入れられなくなったため、各家庭で発電した太陽光などの電力は自分のところで使い切ってください。そのほうが社会のバランス(電力システム)としてよい」という「自己消費モデル」の方向に動き出しています。当社は、ドイツですでにこの社会ニーズを実現するサービスビジネスを始めています。

〔3〕客観的な価値基準が計測できるスマートメーター

─編集部:それはどのようなことでしょう?

横田:今、隣のAさん宅は、EVやバッテリー(蓄電池)をもっているが、今日は留守にしているとしましょう。

 Bさんは、留守のAさん宅のEVや蓄電池に貯まっている電気を安ければ使わせてもらいたいと思っても、それは個人の資産ですから、了解がなければ使えません。

 個人の資産の壁を突き破るには、ご本人の了解のほかに問題となるのは、どれだけ使ったかということが「きちんと認証された装置」で計測されているという、客観的な価値基準が必要なのです。

 バッテリーにしろ太陽光にしろ、電力量のほかに、蓄電池やEVなどは使った分だけハードが劣化している(寿命が短くなっている)のです。すなわち、相手の資産を毀損(きそん)しているわけです。その分、きちんと埋め合わせる何らかの対価をもらって、エネルギー売買に合意できる仕組みができれば、余剰エネルギーをすごく小さな地域内で授受できることになります。

─編集部:なるほど。

横田:そのためにもスマートメーターを用い、きちんと近隣のグリッド全体のエネルギーの授受を管理できれば、エネルギーの授受を契約化でき、その結果、例えば第三者機関からの認証を得た、AさんのEVから引き出した電気を1,200円分とすると、Aさんはインセンティブの収入を同じ対価の現金もしくは商品券、ポイントなどの多様な収入として受け取ることができるようになります。このように、プライベートな資産のバリアを突き抜けてプロシューマーのマイクロビジネスを発展させるうえで、スマートメーターネットワークは重要です。

 これは身近な例としてタクシーも同様です。タクシーに料金メーターがないと乗車料金は主観的な価値観となってしまい、きちんとした利用ができないため、トラブルのもとになってしまいます。

 このように、社会的に認証されたスマートメーターをビジネスの中心に据えておくことが、今後のいろいろな双方向のスマートグリッド関連ビジネスを有機的に広げていくうえで必須であり、この判断のもとに、当社はビジネス戦略を推進してきたのです。


▼ 注2
FIT:Feed-in Tariffs、固定価格買取制度。

▼ 注3
平成26(2014)年9月24日に九州電力が、30日に北海道電力、東北電力、四国電力が、再生可能エネルギー発電設備の接続申込みに対する回答を保留する旨を公表した。また、同30日に沖縄電力が、再生可能エネルギー発電設備の接続申込みの接続可能量の上限に達した旨を公表した。

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