[スペシャルインタビュー]

東芝のスマートグリッド国際戦略≪後編≫

― エネルギー産業の再編と新ビジネスモデルの展開―
2015/01/29
(木)

なぜスマートメーターで世界トップのシェアをもつランディス・ギアを買収したのか、東京電力のスマートメーターの導入は順調に進捗しているのか、スマートグリッド時代のビジネスモデルとは何か。株式会社東芝 執行役上席常務 社会インフラシステム社 社長 横田岳志(よこた たけし)氏に、お聞きした。前編(2015年1月号)では、ランディス・ギア買収の背景や東芝のスマートメーターを基本としたビジネスについて紹介した。
後編では、東芝の海外ビジネスの内容や、現在構築が進んでいる東京電力のスマートメーター通信システムの様子、今後の戦略などについて紹介する。
(聞き手:SmartGridニューズレター編集部)

米国や日本における具体的なビジネスモデルの例

Takeshi Yokota

〔1〕アグリゲータビジネスとインセンティブ

横田:HEMS(宅内エネルギー管理システム)では、省エネを目指してエネルギーの見える化や家電機器の管理などが普通に行われていますが、これは、ビジネスの本質的なイノベーションではありません。

 例えば米国テキサス州は、電力の自由化がうまく進んでいる米国でも、電力市場において電力の売買が闊達に行われている数少ない州です。特に電力市場でスポットレートが高いときには(テキサスは夏が長い)、1キロワット時(1kWh)50セント(約60円)程度、ピーク時には数ドルに跳ね上がることもあります。 

 このような場合、供給側である電力会社から見ると、ある程度需要家に対価(インセンティブ)を払ってでも、電力消費を抑えてもらったほうが合理的なのです。

 なぜならば、例えば普段は12セント程度で販売しているのに、需要家の電力消費に間に合わせるために、はるかに高い金額で電力を買ってくることになるためです。インセンティブを払ったほうが経営収支を悪化させないことになるのです。

 しかし、急に需要家に対して「これだけ電力消費を圧縮(節電)してください」と頼んでも、誰も対応してくれないでしょう。

 そこで、当社は、米国において電力会社がデマンドレスポンスのアグリゲートを行うためのソリューションを提供しているのです。

─編集部:どのような内容ですか。

横田:需要家宅に、サーモスタット(自動温度調節器)や電力を抑えるための変換ユニットを設置して、電力消費を抑えても生活の質を落とさないレベル、あるいは、少しくらいレベルを落としてもインセンティブをもらえば合意するレベルなど、さまざまな情報から算出しています。その算出データを、アグリゲータとして電力会社に提示しているのです。

 電力会社は、当社が提示したデータに対して、行使したいレベルごとに、イエスかノーかの判断を行います。

 このような仕組みによって、ネガワット側(節電する需要家側)がメリットを享受できる仕組みが回り始めています。

─編集部:なるほど。インセンティブの背景がよくわかりました。

〔2〕新電力をサポートする新ビジネス

横田:ネガワット(節電)側のビジネスだけでなく、新しく創出されるビジネスにかかわるということも大事な戦略のひとつです。

 最近、日本では電力のシステム改革を背景に自由化が進行中ですが、電力の供給側もIPP注1をはじめ、多くの新電力注2が登場し、その中には太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーに特化したビジネスを行うなど、さまざまな特徴のある企業が登場しています。

 そのような新しく参入してきた企業は、従来の電力会社のように、全体の電力系統の運営を体験し理解しているわけではなく、あくまでも電力をアセット(Asset:資産)と見て、できるだけ高く売りたいのです。

 しかし、一方で人間社会全体にエネルギー(電力)を血流のように流しているグリッド(電力システム)は、電力の通過料金だけ取ればいいというものではありません。電力を送る際に途中で障害が起こらないようにする、あるいは電力需要や供給が特定の地点だけに集中してはならないというように、常に全体のバランスをとろうとしているのです。

 このような背景にあって、新電力などの発電専門業者は、どこに、どのようなタイミングで自分の電力を売ったらよいか、あるいは「ネガワット」がよいのか、さらには再生可能エネルギーがよいのか等々を、常に考えていなければなりません。

 このような場合に、当社は、電気を一番高く売れるタイミングや、電力システムやそのネットワーク(電力網)のバランスが一番よいときに取引を行うことをサポートできると思っています。

─編集部:そのようなビジネスは、内外の電力システム分野で永年培われた東芝の豊富な経験が生かせるということですね。


▼ 注1
IPP:Independent Power Producer、独立系発電事業者。例えばJX日鉱日石エネルギーや新日鐵住金など。

▼ 注2
2015年1月14日時点で新電力の登録数は483社。

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