[クローズアップ]

沖縄県・宮古島市「すまエコ」プロジェクトに見る新離島モデル

― 地産地消で1地域すべての電力消費を目指す―
2015/02/28
(土)
舟橋 俊久 名古屋大学エコトピア科学研究所 教授

宮古島市エネルギー消費の現状と課題

宮古島市の1990年度のCO2排出量は約20万トン、2010年度には約32万トンに達している。その主な要因は、世帯数、自動車台数、観光客等の増加に伴う家庭、運輸、業務部門からの排出量の増加である。

宮古島のエネルギー消費の特徴として、市民一人あたりのCO2排出量が、年間約6トンで全国平均の約半分となっていることが挙げられる。温暖な気候に恵まれた島では、冬季の暖房需要がほとんどなく、大量のエネルギーを消費する産業がないからである。

そのような中で、近年、宮古島では家庭・業務用のエネルギー消費が増加しつつあることから、その要因の大半を占める電力消費の対策によって、CO2排出削減を目指している。

「すまエコ」プロジェクトの具体的な取り組み

〔1〕「すまエコ」センターの役割

先に述べたように、「すまエコ」プロジェクトは、電力の需要と供給が協調したエネルギーの面的管理の事業化モデル構築を実証の主目的としている。この実証を通じて、再生可能エネルギー発電の出力変動に対する需要家側の制御感度注3、および制御可能量を検証する。また、地域の発電量・電力使用量に応じて、「すまエコ」センター注4から、

  1. 最適な消費を促すための情報を需要家に提供し、需要家側で消費される電力量を再生可能エネルギー発電に合わせてシフトする
  2. 蓄電池などのエネルギー貯蔵装置に対しては、余剰再生可能エネルギー発電を需要側の消費ピークに合わせてシフトする

などの、エネルギーの面的管理が可能になることを前提としたエネルギー管理の事業化(ビジネスモデル)について、構築・評価を行っている(図2)。

図2 「すまエコ」センター〜家庭・事業所・農業用水ポンプ場間の情報の流れ(インターネット経由)

図2 「すまエコ」センター〜家庭・事業所・農業用水ポンプ場間の情報の流れ(インターネット経由)

〔出所 宮古島市全島EMS実証事業より、http://www.city.miyakojima.lg.jp/gyosei/ecoisland/modeltoshi/tousyo/files/jigyogaiyor.pdf

〔2〕需要家側での具体的な取り組み

需要家側での具体的な取り組みは、次の通りである。

(1)家庭のミエルカ注5

家庭メンバー(200世帯)は、家中の電気の使われ方が、パソコンやタブレット(インターネット)を通して一目で確認できる。

(2)大型施設のミエルカ

市民の生活や観光産業を支える市役所・宮古病院・空港ターミナルビル・2カ所のリゾートホテルの5大施設が参加する。これらの大型施設では、環境に配慮した電気エネルギーの使い方を検討している。

(3)事業所のミエルカ

宮古島市内の中小事業所の省エネについて、IT技術を利用して取り組める仕組みを検討している。

(4)農業(地下)ダムのミエルカ

宮古島市の重要な産業・農業に欠かせない地下ダム注6では、大量の電気が使われている。地下ダムの水は、地下のポンプによってファームポンド注7というタンクに汲み上げられて畑に灌水(かんすい)されているが、汲み上げの際のポンプ駆動に電気が使われている。そのため農業にかかる“ミエルカ”をすることで、電気の使用量が少ない夜間にポンプを動かしたり、ポンプ場の機械の動かし方を工夫したりしている。これは世界初の取り組みである。

「すまエコ」プロジェクト参加メンバーは、次の3つのアクションに取り組んでいる。

  1. 電力使用量の見える化による省エネ
  2. 「すまエコ」アクション(電力使用削減アクション)
  3. プロジェクトのWebサイト、および見える化画面上でのツイッターなどによる情報発信

図3 雷神ミエルカ

図3 雷神ミエルカ

©2013 Sumaeco Project All Rights Reserved.
〔出所 宮古テレビ〕

メインキャラクターの「雷神ミエルカ」(図3参照)は、落雷を受けた人間が変身した「エコロジーヒーロー」である。美しい島を守るため、ごみや排ガスが大好きな「ガマラス怪人」、電化製品に寄生する「怪人電気ファヤ」、家政婦になりすまし他人の家の電気を消費する「ムムマッファ」、「ガマラス怪人」の手下「ンギャマス戦闘員」と戦うという設定である(キャラクターの名前は宮古方言による)。

来間島再生可能エネルギー100%自活実証事業

宮古島とは別に、来間島(くりまじま。宮古島と来間大橋でつながっている)では、太陽光発電による電力の地産地消を目指す「来間島再生可能エネルギー100パーセント自活実証事業」が2014年1月から開始された。来間島は、人口約200人の小さな島である。集落が1つあり、周りにはサトウキビ畑が広がっている。

宮古島市では、1地域で作られた電気で地域内の電力消費をすべてまかなう離島モデルを目指す。この試みは全国でも初めてという。このため、来間島に大容量電池(「100kW/176kWh」を2台)と制御システムを整備している。来間島では個人と宮古島市などが整備した太陽光発電設備、計31カ所があり、電線を通じて蓄電池とつないでいる(図4)。

図4 来間島再生可能エネルギー100%自活実証事業のシステム構成

図4 来間島再生可能エネルギー100%自活実証事業のシステム構成

〔出所 宮古島市全島EMS実証事業より http://www.city.miyakojima.lg.jp/gyosei/ecoisland/modeltoshi/tousyo/files/jigyogaiyor.pdf

日中に再生可能エネルギーで発電した余剰電力を蓄電池に蓄え、発電できない夜間などに供給することで、島内全約90世帯で使用される消費電力を再生可能エネルギーでまかうことを目指している。実証期間は、2015年3月31日までである。


▼ 注3
制御感度:需要家電力量制御による効果がどのくらいあるかということ。

▼ 注4
「すまエコ」センターには全島EMSが設置されている。「すまエコ」センターでは家庭部門・事業所部門・農業部門の見える化情報を束ね、常に島で使われる電気の使用量をチェックしながら、必要に応じて家庭やビルに対して節電協力を要請する。

▼ 注5
雷神ミエルカ:「すまエコ」事業の啓発、宣伝活動の一環として宮古島市では、宮古テレビの協力を得て、クリーンな島を守ることを使命とするヒーローを中心としたキャラクターを活用している。

▼ 注6
地下ダム:厳しい自然環境にある宮古島では、過去に干ばつなどによる大打撃を受けてきたことから、豊富な地下水を利用することによって水無し農業から脱却するため、透水性の高い琉球石灰岩の地下に、止水壁で地下ダムを建設し水源とした。

▼ 注7
ファームポンド:農業用水を貯めておく小さな貯留施設。

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