エネルギー基本計画と水素・燃料電池戦略のロードマップ
〔1〕エネルギー基本計画における水素社会実現への取り組み
政政府においては、2014年4月11日、エネルギー基本計画注6が閣議決定されたが、このなかで「水素社会」すなわち、水素を一般的にエネルギーとして利用していく社会を目指し、その実現に向けた取り組みについて掲げている。
ここでは、「“水素社会”を実現していくためには、水素の製造から貯蔵・輸送、そして利用に至るサプライチェーン全体を俯瞰した戦略の下、様々な技術的可能性の中から、安全性、利便性、経済性及び環境性能の高い技術が選び抜かれていくような厚みのある多様な技術開発や低コスト化を推進することが重要である。」とし、「水素の本格的な利活用に向けては、現在の電力供給体制や石油製品供給体制に相当する、社会構造の変化を伴うような大規模な体制整備が必要であり、そのための取組を戦略的に進める」としている。
さらに、「水素に関係する製品などを社会に導入していく際に、様々な局面で必要となる標準や基準の整備が、利害関係者の間の立場の違いを乗り越えて国際的に先手を打って進めることも重要である」としている(「第3章 第8節 3.“水素社会”の実現に向けた取組の加速」より)。
そのうえで、表3のように具体的な取り組み目標について、5項目を掲げ、水素は、将来的には、二次エネルギーの中心的な役割を担うものとして期待されるとしている。
表3 エネルギー基本計画「第3章 第8節 3.“水素社会”の実現に向けた取組の加速」の概要(抜粋)
〔出所 http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2014html/1-reference.html〕
〔2〕2040年までを目指したステップ・バイ・ステップの戦略
この基本計画の(5)として掲げているロードマップは、2014年6月に「水素・燃料電池戦略協議会」〔2013(平成25)年12月設置〕によって策定された。
ここでは、水素エネルギーの利用・活用の促進に向けて、需要に見合った水素の安価で安定的な供給のためのサプライチェーン(図2)の構築を目指し、技術的な課題や経済性の確保に必要な期間に着目して目標を設定し、以下のとおりステップ・バイ・ステップで水素社会の実現を目指すこととされている。
図2 水素サプライチェーンのイメージ
〔出所 経済産業省資料より〕
設定された各目標と、それに関連する主な2014(平成26)年度補正予算と2015(平成27)年度予算を示したのが図3である。
図3 水素・燃料電池の戦略ロードマップと関連予算(27年度・26年補正)
〔出所 経済産業省資料より〕
■フェーズ1(現在〜2020年半ば)
エネファームやFCV活用の普及・拡大を 促進し、世界に先行する燃料電池分野の市 場を創出する。
- 2017年には業務・産業用の燃料電池を市場投入
- 2020年頃〜2020年半ばにはFCVの普及促進のため水素価格および車両価格の実現
- 2020年の東京オリンピック・パラリンピックにおいて、日本の水素の取り組みについて発信していく。
■フェーズ2(2020年後半〜2030年)
水素を安価で安定的に供給するために水 素の需要を拡大し、水素源を未利用エネル ギーに広げ、従来の「電気・熱」に「水素」 を加えた新たな二次エネルギー構造を確 立する。
- 2020年後半には、海外からの水素供給システムを確立
- 2030年には水素発電の本格化
■フェーズ3(2040年頃)
さまざまな環境から水素を作り出していく技術開発に取り組む。水素製造に、CCS (CO2回収・貯留技術)注7を組み合わせたり、再生可能エネルギーからの水素製造にも取り組み、CO2フリーの水素供給システムを確立する。
エネファームやFCVなどの水素エネルギーの利活用を普及・拡大するための課題のひとつは、低コスト化である。そのためには、普及による量産効果のみならず、技術開発や制度面の見直しを含めた取り組みが必要である。
それでは、市場はどう動いているのだろうか。
▼ 注6
http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2014html/1-reference.html
▼ 注7
CCS:Carbon dioxide Capture and Storage