なぜ今「水素」が注目されているのか:水素利用においては世界のトップランナー
水素エネルギーについては、従来から産業ガスやロケット燃料などの特殊用途として使われていたが(表1)、水素エネルギーや燃料電池技術に関するこれまでの研究成果が、現在日本において実を結んできている。
表1 水素エネルギー活用の形態
2009年には、世界に先駆けて家庭用燃料電池(エネファーム)が国内日本で市販され、すでに2015年1月に11万台を突破している。また、冒頭で述べたとおり、2014年末には、トヨタが世界で初めてFCVの一般販売を開始している。
このように、水素エネルギーの利用という面では、日本は世界でもっとも進んでいる国のひとつであり、将来的には、水素の利用はFCバスやフォークリフト、水素発電などさまざまな用途への活用が期待されている。
それではなぜ今、水素なのか。表2に示すように、大きく4つの利用の意義が考えられる。
表2 水素エネルギー活用の意義
〔1〕水素エネルギー活用の意義
(1)省エネルギー:燃料電池の高いエネルギー効率
燃料電池は化学反応から直接電気を取り出すため発電効率が高く、また、エネファームにおいては、発電する際に発生する熱を給湯などに有効利用することが可能である。
(2)エネルギーセキュリティ:エネルギーの多様化に貢献
水素は、さまざまな原料から製造することができるので、エネルギーの多様化につなげることが可能。これにより、エネルギー自供率を高め、エネルギーの安全保障の面からも期待されている。
(3)環境負荷低減:利用段階でCO2を排出しない
水素は利用段階でCO2を排出せず、将来的にさまざまな環境技術と組み合わせることで、トータルでのCO2フリー化が可能。
(4)産業振興:日本が国際競争力をもつ分野
燃料電池分野では、日本の特許出願件数が世界第1位を誇るなど日本が大きな強みをもつ。今後、日本の経済成長に貢献する技術分野のひとつであると言える。
〔2〕輸送部門のエネルギー消費の現状とCO2排出量
現在、日本の輸送部門のエネルギー使用量を見ると、自動車が約9割を占めており、ほぼすべてが石油製品(すなわち、ガソリンやディーゼル)に頼っているということになる(図1)。
図1 輸送部門のエネルギー消費の現状
〔出所 経済産業省資料より〕
また、燃料電池自動車(FCV)については、
- オンサイト注2都市ガス改質:79g-CO2/km
- オンサイト太陽光アルカリ水電解:14g-CO2/km
- オフサイト注3天然ガス改質:78g-CO2/km
などの水素の製造源によってCO2排出量は異なるが、ガソリン車(147g-CO2/km)、ディーゼル車(132g-CO2/km)、ハイブリッド車(95g-CO2/km)などの従来のガソリン自動車と比べると、その排出量はかなり低い注4。このため、CO2排出削減量にも期待がもてる。
そのほか、FCVは、航続距離が長く、1回あたりの水素の充填時間も3分と、ガソリン車と変わらないというメリットがある。またFCVは、発電した電力を外部(例:一般家庭など)に供給できるため、非常時(災害時)の外部電源供給ポテンシャルも高い。
例えば、燃料満タンでの体育館給電時間注5を見てみると、
- EV:5時間(25kWh)
- FCV:1日(120kWh)
- FCバス:4〜5日(460kWh)
のような比較となり、EVに比べてFCVは5倍以上の供給能力をもつ。例えば、北九州市でのスマートコミュニティ実証事業においては、一般家庭で約6日(60kWh)の電力供給が可能という結果も出ている。特にFCバスになると、大容量の電力の供給能力がある。
ここまで述べた水素エネルギー利用の意義踏まえ、日本は国としてどのように取り組んでいるかを見てみよう。
▼ 注1
FCV:Fuel Cell Vehicle
▼ 注2
オンサイト:水素ステーションで、水素になる前の燃料(天然ガス、LPガス、メタノール、水など)を改質して水素を取り出してFCVに充填するタイプ。
▼ 注3
オフサイト:他の場所で製造した水素ガスをトレーラーなどで水素ステーションまで運び、タンクに一時貯蔵しておき、そこからFCVに充填するタイプ。
▼ 注4
経済産業省資料より〔出典:「総合効率とGHGの分析報告書」、財団法人 日本自動車研究所、平成23年3月〕
▼ 注5
体育館での電力必要量は約100kWh/日