メチルシクロヘキサン(MCH)が水素を貯める仕組み
〔1〕一般家庭1,000軒の1日分の電力を貯蔵
メチルシクロヘキサン(MCH)は、光化学反応性が低く、またトルエン、キシレンなどよりも毒性が低い性質をもつ。また、MCHは有機物であり炭素(C)も入った状態(MCHの化学式:C7H14)で貯蔵され、安全性や危険性のレベルはガソリンと同じ区分(危険物第4類第1石油類に分類)に属する。さらに水素ガスに比べてその取り扱いは、運搬も含めて容易であり、水素を貯蔵するために適した性質を備えている。
同研究所の水素キャリアチームが行っている「水素キャリア製造・利用統合実証システム」は、最終的には一般家庭1,000軒分の1日分の電力を水素キャリアとして貯蔵できる、世界初の実証システムを目指している。
〔2〕カギは「水素キャリア」「触媒」「コージェネ」
この実証システムは、図7の左側に示すように、まず、太陽光や風力などの再生可能エネルギーによって発電した電力で水を電気分解して、水素(H2)と酸素(O2)を得る。水素(H2)をトルエン(C6H5CH3、常温常圧で液体)という有機化合物と化合させて、水素キャリアであるMCH(常温常圧で液体)を生成して輸送、貯蔵する。
図7 MCH(メチルシクロヘキサン)として水素を貯める仕組み
ある時点で電力が必要となった場合は、図7に示すように、ある触媒によってMCHから水素(H2)とトルエンを取り出し、トルエンは元のトルエンのタンクに戻す。一方、取り出された水素は、コージェネエンジンの燃料(軽油)に混ぜて燃やし、発電する。
このように、この実証システムでは、水素キャリア(MCH)と、MCHから水素(H2)を着脱させる触媒(脱水素触媒)、そしてコージェネエンジンの開発がカギとなっている。図8に、現在の水素キャリア製造・利用統合実証システムの構成を示す。また、写真1は現行システムで使用されている、MCHタンク(右)とトルエンタンク(左奥)の外観である。
図8 水素キャリア製造・利用統合実証システム
〔出所 産総研:福島再生可能エネルギー研究所資料より〕
写真1 実証システムのMCHタンク(右)とトルエンタンク(左奥)の外観
なお、千代田加工建設では、水素の長距離輸送や大量貯蔵向けに、「SPERA注11水素」(商品名)という、水素キャリアから高効率に脱水素する触媒技術が開発されている。
▼ 注11
SPERA:ラテン語で「希望せよ」という意味。