[注目される「水素」技術と最新利用技術]

注目される「水素」技術と最新利用技術≪第1回≫ 〔パート2〕再生可能エネルギーによる世界初の水素供給システム

— 産総研が2020年をめざして実証システムをスタート —
2015/04/01
(水)
SmartGridニューズレター編集部

重要な役割を果たす「水素キャリア」:化学的に水素を貯める

〔1〕水素を化学変換させて貯める「水素キャリア」

 日本では、資源のない現状を考慮して、資源エネルギー庁 水素・燃料電池戦略ロードマップ注7を展望し、将来の再生可能エネルギーの導入比率の向上を目指している。これによって、中東などからの石油依存度も下げ、地球温暖化にも対応し、再生可能エネルギーを大量に貯めていく方法の確立が重要な課題となってきている

 水素を貯めるためには、前述した「高圧で水素ガスを貯める」あるいは「低温の液体水素として貯める」という方法の他にもう1つ別の「化学変換して貯める方法」が考えられる。これは、水素ガスのままで貯めず、別の物質と化学的に結合させて、新たな安定的な化学物質をつくって水素を貯める方法である。このとき、その水素を貯める化学物質は「水素キャリア」注8と呼ばれる。この水素キャリアによって水素を安全に貯蔵し、運搬できるようになる。

〔2〕水素キャリアチームが目指す全体像

 福島再生可能エネルギー研究所の水素キャリアチームが目指す研究開発の全体像は、図5に示すように5つのステップで進められる。

図5 再生可能エネルギーの高効率貯蔵・利用

図5 再生可能エネルギーの高効率貯蔵・利用

〔出所 産総研:福島再生可能エネルギー研究所資料より〕

  1. 発電:太陽光・風力など再生可能エネルギーによる発電
  2. エネルギー変換:発電した電力で電気分解し、水から水素を製造(水素キャリアの製造)
  3. 貯蔵:大量・安全管理
  4. 輸送:既存の輸送媒体
  5. 利用:重要施設への熱電供給(コージェネレーション注9

〔3〕水素貯蔵能力の高い水素キャリア:アンモニアとMCHに着目

 このような流れのなかで、水素キャリアに注目すると次のようになる。

 図6はエネルギー密度に関して、縦軸に単位体積当たりのエネルギー密度、横軸に単位重量当たりのエネルギー密度の関係を示したもの(対数表示)である。

図6 水素キャリアである「アンモニア」と「メチルシクロヘキサン」(MCH)の位置づけ

図6 水素キャリアである「アンモニア」と「メチルシクロヘキサン」(MCH)の位置づけ

〔出所 産総研:福島再生可能エネルギー研究所資料より〕

 単純にエネルギーの密度だけで考えると、グラフ中では、臭いがきついことで知られているアンモニア〔分子式:NH3(窒化水素)〕が最も水素を貯める能力が高いことがわかる。

 また、次に、アンモニアの隣に示す有機ハイドライド注10であるデカリン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン(MCH:Methylcyclohexane)などが示されているが、これらも有機物に水素を閉じ込めて、有機物として水素を貯蔵する能力が高い物質である。

 このように、水素キャリアの候補にはいろいろな種類があるが、安定性や利便性などを考慮して、同チームでは、水素キャリアとしてアンモニアとメチルシクロヘキサンの2種類を選択して研究が行われている。


▼ 注7
http://www.meti.go.jp/press/2014/06/20140624004/20140624004.html

▼ 注8
水素キャリア:Hydrogen Energy Carrier。水素を貯める物質。水素を水素のままの形ではなく、安全に大量に効率よく貯めて運ぶ媒体(化学的物質)のこと。

▼ 注9
コージェネレーション/コジェネレーション:Co-Generation。発電の際に生じる熱エネルギーを、再度発電や暖房に利用すること。すなわち1種類のエネルギー源から複数のエネルギーを取り出すこと。産総研の実証システムでは「水素キャリアガスタービン」が相当する。

▼ 注10
有機ハイドライド:水素化物。CとH、すなわち炭素と水素が化合したもの。

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