AB-2514とはどのような制度なのか
それでは、AB-2514とはどのような制度なのだろうか。
AB-2514とは、カリフォルニア州が電力貯蔵システムの導入促進のため、2010年9月に制定された州法「Assembly Bill No.2514」を示す。一般的に電力貯蔵法やエネルギー貯蔵法と呼ばれているが、本稿では前者で言葉を統一する。
この州法はRPS同様、州内のすべての電力会社に電力貯蔵の導入を課すもので、電力貯蔵の義務付けは全米初の試みとなっている。具体的には民間の3つの電力会社(表1参照)に対しては2024年までに1,325MWの導入完了を義務付け、完了までのマイルストーンは2014年から2年ごとに2020年までに4回に分けて実施される。注意点として、導入完了は工事期間等を勘案し、2020年ではなく2024年となっていることである。
表1 カリフォルニア州 AB-2514による電力貯蔵の調達目標値(単位:MW)
〔出所 各種資料より筆者作成〕
なお、導入目標値を下回った場合でも罰則はない。おそらく、この理由として、本州法の目的は再生可能エネルギーの比率アップで、手段が未達でも目的が達成できれば良であると考えられる。
なお、カリフォルニア公益委員会(CPUC:California Public Utility Commission)注7が定める電力貯蔵システムとは、機械式(例:フライホイール注8)、化学式(例:リチウムイオン蓄電池)、熱式(例:氷貯蔵)の3種類となっている。
公営電力会社の取り組みについては本稿では割愛するが、民間電力会社と同じように導入を義務付けられている。
電力会社の対応
〔1〕電力貯蔵システムの導入目標値
ここで、民間電力会社の電力貯蔵システムの1,325MWの導入について説明する。カリフォルニア州は北部、中部、南部の3地域を3つの民間電力会社がカバーしている〔( )の数値は、導入目標値を示す〕。
- 北部:PG&E社(パシフィックガスアンドエレクトリック):(580MW)
- 中部:SCE社(南カリフォルニアエジソン):(580MW)
- 南部:SDG&E社(サンディエゴガスアンドエレクトリック):(165MW)
これらの数値は最低目標であり、電力貯蔵システムを導入することで発電所の建設延期、運転の効率化、送配電線の投資抑制が期待できるため、電力貯蔵の経済合理性が高まれば、これ以上、導入される可能性もある。2014年12月から調達プロセスがスタートしたが、3社ともすでに当初の計画値を修正している(表1)。例えば、SCE社では2014年の90MWの調達プランを16.3MWへ下方修正した。一見、電力貯蔵システムの導入が後退したようなイメージをもつかもしれないが、実はそうではない。
同社の取り組み状況について次節で説明する。
〔2〕南カリフォルニアエジソンの取り組み状況
SCE社は2014年11月、2,220MWの電源調達を発表した。これはサンオノフレ原発注9(2,250MW)の廃止が2013年に決定したことから、それに代わる電源が必要になったためである。
この電源調達に際して、カリフォルニア公益委員会は、同社に対して、最低50MWは電力貯蔵システムの採用を求めていた。しかし、実際の調達結果は50MWの約5倍を超える261MWとなり(表2)、電力貯蔵の期待やコスト競争力向上などがうかがえる。
表2 2020年までのカリフォルニア州のエネルギー貯蔵システム調達目標(単位:MW)
〔出所 SCE(南カリフォルニアエジソン)社の公開データより著者作成〕
この261MWすべてが同社のAB-2514目標値(580MW)に加算されると誤解されている方もいるかもしれないが、そうではなく、現在の枠組みではAB-2514の枠に加算することはできない。しかし、261MWの一部をクレジット(戻り分)として、2016年、2018年、2020年の調達ラウンドに加算できるように調整している。よって、前節で述べた2014年の調達ラウンドの目標値の下降修正(90MW→16.3MW)は、このクレジット分を見込んだものであり、全体的に電力貯蔵システムの導入量を減らしている訳ではない。しかし、この261MWの稼働は数年後となるため、工事の進捗状況まで注視する必要があるだろう。
▼ 注7
電力会社の監督官庁にあたる機関。
▼ 注8
フライホール:電気エネルギーを一時的に回転運動の物理的エネルギーに変換することで保存しておき、電気が必要な時に回転運動から発電によって電気を得る方法。
▼ 注9
サンディエゴとロサンゼルスの中間地点にある南カリフォルニア・エジソンの原発。