技術開発主導から社会課題主導の社会変革へ
東京大学 先端科学技術研究センター 教授の森川博之氏は、講演の冒頭、M2Mの技術が、社会基盤として浸透し始めていることを、事例をもとに説明した。アウディとアマゾン、DHL(ドイツに本社を置く国際輸送物流会社)の3社が行っている、車の位置情報をリアルタイムに管理することで、駐車中の自動車のトランクにまで荷物を届ける実証実験について紹介した。
写真5 東京大学 先端科学技術研究センター 教授 森川博之氏
また、荷物を運輸する際に利用するパレットのレンタルを行っているユーピーアール(本社:東京都千代田区)は、パレットに位置情報センサーを備えることで、どの荷物が、いつ、どの場所に格納されたかを管理できる例についても述べた(図4)。
このように、社会基盤となっているM2Mの利用は、エネルギーのモニタリング(監視)や、ヘルスケア、農業などにも利用が進んでいる。
図4 ユーピーアールのスマートパレット
〔出所 東京大学 森川博之氏講演資料より〕
同氏は、このような流れの中で、ICTやM2Mのさらなる革新のためには、従来の技術開発主導での社会変革(リニアモデル)ではなく、社会課題主導での社会変革(スパイラルモデル)とする必要があると述べた。
これは例えば、空調機器の技術を進化させることから始めるのではなく、「より快適で涼しい環境を提供するためにはどうすればよいか」ということを総合的に検討し、ビジネスを創造する必要があるということである。
特徴的な例として、スペイン・バルセロナでコメディ劇場を運営しているTeatreneu(テアトルヌー)が導入したPay Per Laughという仕組みがある。同劇場では、各座席に、来場者を映すタブレットを設置し、来場者が笑った回数を自動的に判別して、1回の笑いあたり30ユーロセント(2015年5月28日の為替レートで約40.5円)として、支払う料金を決める仕組みを搭載した。劇場の入場料は無料にしたが、客単価は6ユーロ(2015年5月28日の為替レートで812円)増加したとのことである。
森川氏は、この例のように、M2M時代のビジネス創出のためには、柔軟な考え方が必要であることを強調した。例えば、図5に示すように、従来は、技術の進歩のために「考える」→「試す」の繰り返しのみを行っていたが、新たなニーズや価値に「気づく」こと、そして、それを実現するための技術を「考え」「試し」たあとに、利用者に意味や意義を「伝える」ことまで、デザインする能力が必要とされると締めくくった。
図5 「気づく」から「伝える」までのデザイン能力
〔出所 東京大学 森川博之氏講演資料より〕