[特集]

川崎市スマートシティプロジェクトの全貌 ≪後編≫

川崎市スマートシティプロジェクトの全貌 ≪後編≫ ― 水素社会実現に向けた川崎市の水素戦略と昭和電工の水素ビジネス ―
2015/10/11
(日)
SmartGridニューズレター編集部

最先端のリサイクル技術で循環型水素社会の実現を目指す昭和電工:使用済みプラスチックからアンモニア、水素を製造するプラント

写真3 昭和電工株式会社 川崎事業所の外観

写真3 昭和電工株式会社 川崎事業所の外観

〔1〕使用済みプラスチックをプラントでガス化して水素を製造

 世界唯一の技術の活用によるゼロ・エミッションをまさに実践してている企業が、昭和電工である(写真3、表5)。1928年に昭和肥料株式会社として設立され、3年後の1931年に国産法(東工試法)注11によるアンモニアと硫安(りゅうあん。硫酸アンモニウムの通称)の製造に成功し、その後1939年に昭和電工株式会社と改称して事業を続けている。

表5 昭和電工株式会社のプロフィール

表5 昭和電工株式会社のプロフィール

〔出所 昭和電工のサイト(http://www.sdk.co.jp/about/corporate/outline.html)をもとに編集部作成〕

 この使用済みプラスチックからアンモニアを製造する工程では、さまざまな副生物がリサイクルされるが注12、同社は2015年7月、使用済みプラスチック由来低炭素水素を活用した環境負荷の少ない低炭素な水素社会の実現を目指して、川崎市と協定を締結した(前述)。

 この取り組みの1つは、使用済みプラスチック由来の水素を川崎臨海部の需要家にパイプラインで輸送し、純水素型燃料電池を活用してエネルギー利用する技術実証を行うというものである(図4)。これは環境省が公募した「平成27年度地域連携・低炭素水素技術実証事業」において、昭和電工の「使用済プラスチック由来低炭素水素を活用した地域循環型水素地産地消モデル実証事業」が採択された(前出)ことから、今回、川崎市と昭和電工が連携・協力し、水素を活用した統合的システムの地域実証を行うことになったものだ。

図4 使用済プラスチック由来低炭素水素を活用した地域循環型水素地産地消モデル実証事業のイメージ

図4 使用済プラスチック由来低炭素水素を活用した地域循環型水素地産地消モデル実証事業のイメージ

〔出所 http://www.sdk.co.jp/news/2015/15098.html、昭和電工リリース(川崎市と昭和電工、低炭素水素社会実現に向け協定を締結−使用済プラスチック由来の水素を活用−)より〕

〔2〕昭和電工のプラスチック・ケミカルリサイクルとは?

 昭和電工 川崎事業所においては、アンモニア製造工程において、原料となる水素を使用済みプラスチックから取り出す製造方法を2003年から導入している。

 どのようにして使用済みプラスチックからアンモニアを製造しているのだろうか。製造工程の大まかな内容は、次の通りである。

(1)家庭から出され市町村によって分別収集された使用済みプラスチックは投入コンベアによって破砕機に投入(写真4)

(2)異物を除去した後、成形機によって減容成形品に加工(写真5)

(3)減容成形品はガス化設備(低温ガス化炉および高温ガス化炉)において水素や一酸化炭素などに改質される(写真6、7)

(4)(3)の合成ガスはアンモニア製造設備に送られ、アンモニアに製造され、貯蔵設備に貯蔵される(写真8、9)

(5)さまざまな製品にリサイクルされる(写真10)。

写真4 破砕機に投入される使用済みプラスチック。1日に約200トンの使用済みプラスチックが市町村から運ばれてくる。

写真4 破砕機に投入される使用済みプラスチック。1日に約200トンの使用済みプラスチックが市町村から運ばれてくる。

写真5 成形機によって加工された減容成形品(右)と破砕品(左)

写真5 成形機によって加工された減容成形品(右)と破砕品(左)

写真6 ガス化設備に投入される減容成形品。ベルトコンベアによって上部に運ばれる。

写真6 ガス化設備に投入される減容成形品。ベルトコンベアによって上部に運ばれる。

写真7 昭和電工のガス化設備。左右対称に2つのガス化炉がある(二段式ガス化炉)。低温ガス化炉で生成されたガスは、1400℃の高温で少量の酸素と蒸気によって熱分解や部分酸化され、水素と一酸化炭素を中心とした合成ガスに改質される。左側にアンモニア製造設備が隣接している

写真7 昭和電工のガス化設備。左右対称に2つのガス化炉がある(二段式ガス化炉)。低温ガス化炉で生成されたガスは、1400℃の高温で少量の酸素と蒸気によって熱分解や部分酸化され、水素と一酸化炭素を中心とした合成ガスに改質される。左側にアンモニア製造設備が隣接している

写真8 製造されたアンモニアはパイプラインを通じて、アンモニア貯蔵設備に送られる。

写真8 製造されたアンモニアはパイプラインを通じて、アンモニア貯蔵設備に送られる。

写真9 製造されたアンモニアが貯蔵される設備。製造されるアンモニアは1日に175トンにも及ぶ。

写真9 製造されたアンモニアが貯蔵される設備。製造されるアンモニアは1日に175トンにも及ぶ。

写真10 リサイクルされた液化アンモニアやその他の製品。ホッピーの炭酸原料にも。

写真10 リサイクルされた液化アンモニアやその他の製品。ホッピーの炭酸原料にも。

〔3〕プラスチック・ケミカルリサイクルの特徴

 昭和電工のプラスチック・ケミカルリサイクルで作られた水素はなぜ「低炭素水素」といわれるのだろうか。

 使用済みのプラスチックの処理方法は、図5のようにさまざまな手法がある。この中で、同社のプラスチック・ケミカルリサイクルは、排気ガスを出さない「ガス化改質方式」を採用している。

図5 リサイクルのさまざまな手法

図5 リサイクルのさまざまな手法

〔出所 昭和電工株式会社 資料より〕

 使用済みのプラスチックには、大量の水素と炭素が含まれているという。これらを600〜800℃の低温ガス化炉に続いて、1400℃の高温ガス化炉で処理するという二段式で水素と一酸化炭素を主体とする合成ガスに改質して水素を取り出し、隣接するプラントで窒素と合成してアンモニアを製造するという仕組みである。

 このガス化改質方式は、環境保全に役立ち、化学製品として100%リサイクルできる。ここに「低炭素水素」と言われる由縁がある。

 昭和電工は川崎市と連携し、川崎でつくられた水素エネルギーで「循環型社会」から「循環型水素社会」を目指して取り組んでいく。

▲リサイクルプラントについて説明する昭和電工 川崎事業所 製造部 栗山氏(右)、同事業所 企画グループ 高山氏(真中)、同事業所 総務部 荒川氏

▲リサイクルプラントについて説明する昭和電工 川崎事業所 製造部 栗山氏(右)、同事業所 企画グループ 高山氏(真中)、同事業所 総務部 荒川氏


▼ 注11
東工試法:1918年に農商務省(現在の農林水産省と経済産業省の前身)臨時窒素研究所によって開発された、国産のアンモニア合成技術のこと。1928年に、同研究所が商工省東京工業試験所(現在の国立研究開発法人産業技術総合研究所の前身)に吸収されたため、「東工試法」と呼ばれる。

▼ 注12
副産物には金属、ガラス、スラグ(焼却処分したときに生まれる廃棄物加熱溶融起源の砂のこと)、塩、硫黄、製造中に発生した蒸気や温水、液化炭酸ガス・ドライアイスなどさまざま。

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