[特集]

電力自由化で変わる電力取引! 改革を実施する日本卸電力取引所(JEPX) ― 取引形態を刷新し「1時間前市場」を導入へ ―

特集 パート3
2015/10/30
(金)
SmartGridニューズレター編集部

相対取引とスポット取引の課題

 一方、卸電力取引所をめぐる新しい課題も発生している。例えば、最近、連系線に関する運用上の実態として、周波数変換(FC)を行っている東京中部間連系設備(中部電力と東京電力の連系線)では、卸電力取引所を経由しない相対取引注11にともなう計画潮流(すでに送電容量確保されている計画分)に容量を先取りされてしまい、卸電力取引所のスポット取引が市場分断された事態が発生している。

 現行のルールでは、連系線は「相対取引が先着順に使用できる」ため、その残った連系線の容量を卸電力取引所のスポット取引が使用することになっている。しかし、最近の事例では、かなり大量の相対取引があったため、卸電力取引所からスポット取引で流したい電力が、連系線の容量が不足してしまい、東京電力側(50Hz)から中部電力側(60Hz)に、電気を流せないという事態が頻出している。

 この問題は、全国的な規模で電力の需給調整の機能を強化し、電気の安定供給を確保することを目的として設立された広域機関の課題でもあるが、現在のルールでは、連系線の利用は、先着優先(早い者勝ち)となっている。そのため、この先着優先というルールを見直す必要性が指摘されている。

 相対取引は、卸電力取引所の会員企業でも自由に行うことができる。相対取引で大きな規模の取引が行われてしまえば、相対取引のほうが連系線の空き容量を先行して使えるので、スポット取引の送電容量に影響を与えることになる。

 この問題は、第3弾の改正電気事業法(2015年6月17日成立)に基づいて、電力取引の監視等の機能を強化するために設立(2015年9月1日)された電力取引監視等委員会(経済産業大臣直属の組織)で、具体的に検討されることに期待したい。

 電力の自由化で先行している海外の例として見ると、例えば、北欧で有名な国際卸電力市場であるノルドプール(Nord Pool)では、連系線を使うのはすべてスポット取引だけにすることが規定されている。日本においては当然、歴史的経緯はあるが、少なくとも周波数変換(FC)を使う連系線については、早い者勝ちではなく、ノルドプールのようにルール化する案が、今後の電力小売全面自由化に向けて検討対象になる。

再生可能エネルギーに関する市場転売の防止策

 一方、経済産業省は2016年度から、太陽光発電などの再生可能エネルギーによって発電した電気の回避可能費用注12を卸電力取引所の価格と連動させることを決定した。卸電力取引所の価格と連動させることによって、FIT(固定価格買取制度)による再生可能エネルギーによる電気の「転売」の防止策でもある。

 具体的には、表4に示すように、2014年度に卸電力取引所のスポット市場(短期契約の実物取引)で売買された電力の平均価格は14.67円/kWh(税抜)であった。これは、図6に示す、現在の回避可能費用の平均値(10.99/kWh)と比べて2.7円//kWh(=14.67円/kWh-10.99/kWh)も高い価格となっていた。

表4 日本卸電力取引所におけるスポット市場の平均価格(平成26年4月1日〜平成27年3月31日)

表4 日本卸電力取引所におけるスポット市場の平均価格(平成26年4月1日〜平成27年3月31日)

出所 資源エネルギー庁「回避可能費用算定方法の見直しについて」2015年6月24日 http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shoene_shinene/shin_ene/pdf/012_01_00.pdf

図6 平成27(2015)年6月における回避可能費用単価〔平成26(2014)年4月1日以降に再エネ特措法第6条第1項の認定を受けた設備〕

図6 平成27(2015)年6月における回避可能費用単価〔平成26(2014)年4月1日以降に再エネ特措法第6条第1項の認定を受けた設備〕

出所 資源エネルギー庁「回避可能費用算定方法の見直しについて」2015年6月24日 http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shoene_shinene/shin_ene/pdf/012_01_00.pdf

 このように、JEPXにおけるスポット取引市場の2014年度平均価格は14.67円/kWhと、新電力の回避可能費用(10.99円/kWh)よりも高い価格で取引されていた。これに注目した新電力の何社かは、買い取った再生可能エネルギーによる電気を自社で消費者に販売せずに、卸電力取引所へ転売して多くの利益を上げていることが判明し、一般紙でも報道され話題となった(ただし不法ではない。制度の盲点を突いた行為)。

 このような背景から、経済産業省は、卸電力取引所への転売を防止するため、2016年4月から再生可能エネルギーの回避可能費用を卸電力取引所の価格に連動させることにし、転売による利益が出ないように講じたのである。

卸電力取引所の取引手数料は実質0.03円/kWh未満へ

 卸電力取引所の場合、取引量が多い電気事業者には取引量について定額制を導入しているため、取引量が10倍になったからといって卸電力取引所の収入が10倍になるのではなく、頭打ちとなる仕組みとなっている。卸電力取引所のミッションは、電力システムのインフラとして正常に機能させることであるため、取引量が増えても、いわゆる手数料収入は直線的に増えないような仕組みが取られている。

 現在の取引手数料は3銭/kWh(=0.03円/kWh)であるが、定額制の効果によって、実質的な手数料は3銭/kWhを割っている状況である。具体的には、スポット取引については月100万円という定額制に設定されている。したがって、従量制では、年間に例えば2,000万円支払わないといけないケースでも、月100万円の定額制で年間1,200万円で頭打ちになる。このため、卸電力取引所の取引料の収入を取引量で割ると、0.03円/kWhよりも低い水準になっている。ただし、従量制を選択した会員企業は、3銭/kWhである。

*   *   *

 改正電気事業法に基づいて電力のシステム改革の第1弾がスタートし、電力広域機関が誕生しその活動を開始した。さらに、電力取引の監視等の機能を強化するために2015年9月1日に設立された電力取引監視等委員会もスタートした。続いて来年(2016年)4月には、歴史的な電力小売全面自由化が開始されることになる。

 さらに、新しいビジネスチャンスを目指して異業種分野からも次々に電力市場に参入する新電力(特定規模電気事業者)は750社も超え、さらに増加している(2015年10月現在)。

 このような電力新時代を迎えた現在、卸電力取引所への期待はますます高まっている。

(特集パート4に続く)

◎取材協力

岸本 尚毅(きしもと なおき)氏

一般社団法人日本卸電力取引所 総務部長


▼ 注11
相対取引(あいたいとりひき):卸電力取引所を介さずに電気を売買する当事者同士が、1対1の関係で売買を行う方法のこと。取引価格は両者の合意によって決定される。例えば、電源開発(J-POWER)と各電力会社間の取引は、すべて相対取引となっている。

▼ 注12
回避可能費用:FIT制度のもとで、電力小売会社が再生可能エネルギーを買い取るときは、再生可能エネルギー買取価格から回避可能費用(本来予定していた発電を取りやめ、支出を免れることができた費用に該当する)を差し引いた額が「交付金」として支給される。

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