[創刊記念:スペシャルインタビュー 東京大学大学院教授 浅見 徹氏に聞く]

東京電力の仕様見直しと 「新プロトコル群」「デマンドレスポンス」 ─後編─

─スマートメーター「入札延期」の真相と新戦略─
2012/12/01
(土)
SmartGridニューズレター編集部

有線のPLC(電力線通信)インタフェースの検討

─無線のインタフェースのほか、有線のPLC(電力線通信)によるインタフェースはいかがでしょうか。

浅見:日本の場合は、高速PLCで使用される2〜30MHzの周波数帯が、アマチュア無線の電波を妨害するとして問題となった経緯があります。現在PLCは、スマートメーターのインタフェースの1つとして、もちろん検討する項目には入っていますが、実際に使用するとなると課題もあります。

─PLCについても、①スマートメーターから屋内の電灯線の配線を利用するHAN(ホームネットワーク)としてのPLCの場合と、②地域の配電網を利用してスマートメーターから屋外のコンセントレータまでを結ぶPLC注14がありますが。

浅見:はい。

FANの通信方式としては、前述したように、①1:N無線(例:LTEやWiMAXなど)、②マルチホップ無線(例:ZigBeeなど)、③IEEE 1901-2010やG3-PLCのような低速PLCの3種類の技術について検討が行われており、適材適所で混在させて導入することによって、トータルなコストのミニマム化を追求しながら全体の最適化を目指しています。日本では、とくに高速PLCに関しては賛否両論がありますので、そのあたりの技術検証も行われています。

東京電力の新ビジネスを創るか!スマートメーターの使い方

─これまでスマートメーターからMDMSまでの、スマートメーター用ネットワーク(AMI)についてお話しいただきましたが、具体的には、どのように議論されているのでしょうか。

浅見:はい。これについて正確に言うと、現在、ユースケース(使用例)と称していますが、「どのように使っていくのか」ということを、東電がコンサルティング会社に依頼して、検討しているところです。これは、私たち機構参与も、「ユースケースをきちんとする必要がある」というコメントを出しています。

単にスマートメーターで検針できればよいということではなく、「どのような使い方が可能なのか」「将来、メーターの使い方が東電の新しいビジネスになるようにするまで考えるべきなのではないか」ということを私たちが要求したこともあって、今、東電がコンサルティング会社に依頼して計画を練っている最中です。

─いつごろまでを目途に行うのですか?

浅見:これは当初、2012年10月に、東電がスマートメーターの入札(公募)する予定を、来年(2013年)4月まで延期した経緯もありますので、遅くても2012年の秋頃までには、計画を作るのが妥当かなと考えています。

─そうすると、それまでにスマートメーターの新しい仕様が決まってなくてはいけないということですね。その仕様の中で、現実的にスマートメーターを含むAMIには、どのような仕様が求められるのでしょうか。

浅見:ユースケースを作ることが、最初のコストミニマムな要求仕様を固めることになります。前述のように、AMIを構成するネットワークは、

  1. WAN(Wide Area Network、広域通信網):光ファイバ、移動通信網(LTE等)、WiMAX等
  2. FAN(Field Area Network、地域通信網):1対N無線(例:LTE)、マルチホップ無線(例:ZigBee等)、PLC(例:IEEE 1901-2010等)

などいろいろな技術を組み合わせて構成されるため、1つの通信方式でAMIを構築することは難しいのです。また、1:N無線の場合は、WANとFANを一体で考えることになります。すなわち、AMIというのはこうあるべきだ(唯一の方式)と固定されないということです。

スマートメーター網(AMI)に求められる基本的要件

─AMIに求められる基本的な要件はあるように思えますが。

浅見:本当に電力使用量などのデータを制御するとなると、立場によっても異なりますが、伝送遅延はエンド・ツー・エンドで「1秒以下」でないと困るという人が結構いるのです。伝送遅延が発生すると実効的な制御サイクルが長くなり、処理速度も遅くなってしまいます。そうするとエンド・ツー・エンドで処理する場合、光ファイバ以外に解はないのです。ですから、私は個人的には、東電が光ファイバにこだわるのは、遠い将来、技術的には超リッチな制御(今後に備えた多様な制御)をするという前提から考えると、よく理解できるのです。

少なくとも非常に人口が多い密集地域では、東電はインフラ(光ファイバ)をもっているので、3.11の東日本大震災の原発の事故がなければ、東電が自前の光ファイバを使用することは、経済的にも不可能ではなかったと思います。

─第4世代モバイルであるLTEは高速注15で、その遅延は仕様上は片道5ミリ秒とも言われていますが。

浅見:たしかに仕様上はその通りですが、無線の場合は通信エラーがよく発生するため、データを再送することが不可避です。このことから、LTEの仕様上の遅延は小さいのですが、実効的には遅延が大きいのです。最悪のケースで考えると、無線ネットワークの場合は、(遅延が)数秒というオーダーで出てくることがあります。すなわち、つながるけれど、エラー制御のためデータを再送するので、伝送遅延を「1秒以下に絶対に抑えられる」とは言えないのです。

─そうするとLTEは、高速でも遅延が大きいので、最初からスマートメーター用のネットワークに使用できないということですか?

浅見:そうではありません。光を使っても、FAN(地域通信網)に無線マルチホップを使ってしまうと、遅延や遅延変動はLTE以上に大きくなります。PLC(有線)以外の提案はどこかで無線を利用していますから、遅延や遅延変動の存在は共通する欠点です。ただし、現在提案されている30分に1回ぐらいの検針値(30分検針値)で、伝送頻度が30分ごとを基本にするあまり厳しくない仕様の場合は、エンド・ツー・エンドで無理に「1秒以下」にしなくても十分な性能が実現できるのです。

しかし、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーがどんどん導入されて、細かな電力システムの制御が求められるようになると、遅延の少ない光ファイバによる制御が必要になると思います。例えば、現在提案されている「30分検針値」程度で設計されたAMIの場合、一般家庭に30%もの再生可能エネルギーが導入されてしまったら、その制御が追いつかず、頻繁に停電が発生するのではないかと危惧されます。これを回避するために、検針の粒度(頻度)を上げていくとAMIの処理に大きな負荷が発生することになります。このような計測粒度の細かいスマートメーターへの投資は、再生可能エネルギーを将来大規模に導入するために避けることのできないインフラ投資と考えられます。


▼ 注14
FAN(Field Area Network、地域通信網)と言う。

▼ 注15
NTTドコモは、2012年11月16日より、下り100Mbpsのサービスを開始した。

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