[新春特別レポート]

動き出したNEDOの米国ニューメキシコ州のマイクログリッド

─ロスアラモスの「スマートハウス」実証実験を見る─
2013/01/01
(火)

米国ニューメキシコ州ロスアラモス郡での実証事業

▼ ロスアラモス地方の外観

▼ ロスアラモス地方の外観

〔出所 http://wbb.forum.impressrd.jp/feature/20100325/789

図2 米国ニューメキシコ州におけるスマートコミュニティ実証事業の課題と解決策

図2  米国ニューメキシコ州におけるスマートコミュニティ実証事業の課題と解決策

〔1〕ニューメキシコ州プロジェクトの課題と解決方法

米国ニューメキシコ州で進める「日米スマートグリッド実証」事業は、NEDOが取り組む最初のスマートコミュニティ海外実証事業となっている。

当該事業は、大量の太陽光発電が導入された際に、消費者に電気の使い方を工夫してもらうデマンドレスポンスを含めて、さまざまな方法で電力システム全体の安定化を図るとともに、高い供給信頼度を確保することを目的とし、ロスアラモスおよびアルバカーキの2カ所で実証を行っている(図2)。ロスアラモスでは、PVの導入比率の高い配電系統で、

  1. リアルタイム料金注2によるデマンドレスポンスなどの需要サイドの対策
  2. 蓄電池などによる電力会社サイドの対策

を組み合わせた系統安定化技術を確立することを目的として、実際の配電フィーダーを用いた実証を行っている。

また、系統からの電気料金信号に対し、より幅をもったレスポンスを可能とするスマートハウスの実験もこれに含まれている。

一方、アルバカーキでは、都市部のスマートビルを想定したマイクログリッドの実証を行っている。その予算規模は、2009〜2013年度の5年間で総額約48億円、その内訳はロスアラモスが約30億円、アルバカーキが約18億円となっている。ここでは、ロスアラモス郡の実証サイトを中心に紹介する。

表3 ロスアラモスサイトの概要

表3  ロスアラモスサイトの概要

〔2〕ロスアラモスサイトのマイクログリッド実証システムの構成

実証事業を展開しているロスアラモス郡は、標高2200mの高地にあり、人口は2万人程度のエリアである。また、同エリアにはロスアラモス国立研究所(LANL:Los Alamos National Laboratory)が立地し、周辺に8000世帯が暮らしている(表3)。

図3に、ロスアラモスサイトにおけるマイクログリッド実証システムの構成図を示す。総計2メガワット(MW)の太陽光発電システム(PV:Photo Voltaic)が、NEDO側に1MW、米国側に1MWずつ設置されている(2012年11月時点では日本側1MWクラスのみ設置)。また、天候によって発電量が大きく変動するPVシステムが電力系統に大量に接続された場合、需給バランスを大きく崩す要因となるため、これを蓄電池による充放電によって系統側で補正し需給を安定化させる仕組みとして、集中型蓄電池注3を設置している。

図3 ロスアラモスサイトにおけるマイクログリッド実証システムの構成

図3  ロスアラモスサイトにおけるマイクログリッド実証システムの構成

これに加え、需要家サイドの取り組みとしてリアルタイム料金によって消費者の電気の使い方を工夫する仕組みである「デマンドレスポンス」の実証を行うため、1700世帯にスマートメーターが導入される予定である。

なお、NEDOが建設したスマートハウスでは、屋根に設置した太陽光発電や蓄電池、エアコンや冷蔵庫、照明といった家電の制御をHEMSにより一括管理することで、より確実なデマンドレスポンスの獲得が可能であることを実証する取り組みも行われている。また、スマートハウスでは、系統停電時に電力会社からの信号を配電線経由(PLC信号)で受け取り、系統から切り離して自立で電力を維持する実験も行われている。

なお、このプロジェクトでは日米が共同で出資をしており、図3の白窓の部分がNEDOの投資する実証範囲であり、それ以外の部分が米国側の投資となっている。

また、両サイトともにマイクログリッドといわれる技術を基本に構成している。マイクログリッドとは、電力会社の系統に対して小規模な自立性のある系統を指すのが一般的である。

具体的には、変電所から複数のびている配電線の1フィーダーを対象に、EMS(エネルギー管理システム)を設置し、その小規模系統の範囲でPVシステム(太陽光発電システム)などによる電力も含めて、きちんとエネルギー管理する技術のことをいう。

特にマイクログリッドは、大元の電力系統が停電した場合でも、自立して生き残れることに大きな付加価値があるといわれており、米国では軍事施設や刑務所などの特殊施設を対象に実証が行われ始めている。ロスアラモスの実証サイトでも、そのような自立性の高い実証を最終的に目指すことになる。

〔3〕ロスアラモス郡実証サイトの参加企業

表4に、このプロジェクトの正式な名称や日本(NEDO)側の予算額、および参加企業などを示す。

表4 ロスアラモス郡の実証サイトの実証事業幹事会社/参画企業

表4  ロスアラモス郡の実証サイトの実証事業幹事会社/参画企業


※本記事中で特に明記していない図・表・写真は、NEDOの提供。

▼ 注2
電力需給状況によって安くしたり、高くしたりする電気料金。RTP(リアルタイムプライシング)とも言われる。

▼ 注3
定置式電池1MWのNAS電池(ナトリウム・硫黄電池)および鉛蓄電池。

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