ロスアラモスサイトを構成する機器・システム
〔1〕全体の系統監視を行う「μ-EMS」(エネルギー管理システム)
前出の図3に示したロスアラモスサイトのシステム構成において、一番重要なポイントは東芝が担当する図3の左上に示す系統監視と呼ばれる「μ-EMS」(マイクロEMS、エネルギー管理システム、写真1)である。このμ-EMSでは、
- PVの出力変動の監視を行う(出力監視)
- PVの出力変動を抑制するように、蓄電池に充放電指令を出す(充放電指令)
- PVの変動に連動するリアルタイム料金信号を、スマートハウスを含む1700件のスマートメーターに送る(料金信号)
- マイクログリッドの連携点の潮流の変動を抑制する(潮流監視)
などが行われている。
写真1 マイクログリッド用μ-EMS(監視・制御)のモニター
〔2〕太陽光発電:10種類程度のタイプの太陽電池を性能比較
写真2は、図3に示した「1MW PV(太陽光発電)」システムである。このシステムの構築責任者は京セラが担当し、単結晶型や多結晶型、薄膜型などの10種類程度のタイプの太陽電池が設置されて性能比較が行われている。写真2の右上の太陽電池が前述した多様な種類の太陽電池であり、一番多い太陽電池のタイプは京セラの多結晶型となっている。
写真2左下の太陽電池は、米国のFirst Sola(http://www.firstsolar.com/)社のカドミウムテルル(CdTe)薄膜太陽電池である。
写真2 ロスアラモス郡サイトの1MW PV(太陽光発電)
【左】カドミウムテルル化合物セル【右】残土置き場に設置されたPV
このCdTe薄膜太陽電池は、米国では1Wが1ドル以下、1kWが大体700ドル程度で売られている。したがって、セル1枚すなわち1kWが6万円程度なので、3kW使用しても20万円くらいにしかならない。ただし、これはカドミウムを使っているため、使用後は適切な処分が必要である注4。このため、普通は住宅の屋根置き用には使われずに、写真2のように発電事業者が、メガソーラーに利用するのが主流の使い方となっている。このFirst Sola社のCdTe薄膜太陽電池は、現在、世界で一番安い太陽光発電用電池となっている。各種の太陽電池の性能評価は、NTTファシリティーズや東京工業大学が担当し、2013年には結果が出される予定となっている。
なお、この地域は晴天率が高く(年間約300日)日照時間が長いこともあり、日本の太陽光発電の平均稼働率が約12%であるのに対し、20%近くの稼働率になるといわれている。
また、ロスアラモス郡は、直径5センチぐらいの雹(ひょう)が降ったり、竜巻が起こったりするため、電池の性能比較だけでなく、耐久性の比較を行ううえでも重要なサイトとなっている。実際、竜巻により太陽電池パネルのセルの一部破損が起きており、補強対策が行われている。この辺は日本と大きく異なる環境となっている。
〔3〕太陽光発電のインバータ
太陽光発電(太陽電池)によって発電された直流の電力を、スマートハウス等で利用できるように交流電力に変換するための「インバータ」(パワーコンディショナー、DC/AC変換器)については、いくつか小型のものも入っているが、一番大きなインバータとして日立製作所の500kVAが導入されている。これによって、太陽電池で発電した直流電力を系統に流せるよう交流に変換・変圧(1万Vへ昇圧)し、配電線に連携される。
〔4〕蓄電設備:NAS電池と鉛電池でハイブリッド運転
写真3は、ロスアラモスサイトの蓄電設備である。ここでは、NAS電池(日本ガイシ)と鉛電池(日立製作所)のハイブリッド運転が行われている。NAS電池(ナトリウム・硫黄電池)は負極にナトリウム(Na:Natrium)、正極に硫黄(S:Sulfur)を使用する2次電池である。
写真3 ロスアラモス郡サイトの蓄電設備(NAS電池、鉛蓄電池のハイブリッド運用)
【左】 NAS電池(日本ガイシ)【右】鉛蓄電池(日立製作所)
写真3右上の鉛蓄電池(日立製作所の関連会社の新神戸電機製)は4台で300kWの容量であり、一方、写真3左下は、日本ガイシのNAS電池で約1000kWの容量をもち、7.2時間放電できる。NAS電池は高温(350℃)での運転が必要であるが、これを充放電時に発生する抵抗熱を利用し維持している。このため、充放電を制御し動作温度を適正範囲に収めて安定的に運転を行う必要がある。
こうした蓄電池の特性を踏まえ、本実証事業では日射量の急激な変化(雲がパネルにかかった場合など)への対応に鉛蓄電池を用い、1日単位の長周期の発電量への対応にNAS電池を用いるなど、特性に応じて最適に使い分ける「ハイブリッド運転」が行われている。このバランスをとって運転する(充電するか、放電するかを決めたりするなど)のが、図3に示した系統監視「μ-EMS」という頭脳の部分である。
〔5〕スマートハウスとスマートメーター
写真4は、ロスアラモス郡サイトのスマートハウスの外観である。スマートハウスには、居間と台所に加えて、寝室3つ分ほどのスペースとガレージがある。
写真4 ロスアラモス郡サイトのスマートハウスの外観
このスマートハウスには、写真5に示すように、左上のスマートメーター(ANSI規格の丸型。東芝製)やスマートメーターに流れるデータを「見える化」するためのホーム端末(東芝製、写真右上)が設置され、京セラとシャープが担当するHEMS注5と、NECが担当する高速PLC転送遮断装置の実験が行われている。家電製品とHEMS間のインタフェースは、日本ではECHONET Liteが使用されるが、ロスアラモスサイトではZegBeeなどいろいろなインタフェースが使用されている。
写真5 ロスアラモス郡サイトのスマートハウスに設置されたスマートメーター、HEMS等
スマートメーターは、各家庭のスマートメーターからスマートメーターへとマルチホップ通信(バケツリレー式通信)で行われる。これによって、各家庭のスマートメーターから電力使用量の情報を電力会社に送信する。HEMSはリアルタイム料金への対応などをはじめ、家庭内に設置された機器などのエネルギー管理を行っている。
なお、欧州では米国や日本と違ってスマートメーターが家の中、あるいは地下室に設置されるため、欧州では電波(無線)によって電力使用量の情報を収集するよりも、有線のPLC(Power Line Communication、電力線通信)で検針される傾向が強い。
〔6〕高速PLCを使用した転送遮断装置
さらにNECは、写真5の右下に示す高速PLCを通信手段とした転送遮断装置「Micro-DX」の実験をしている。一般に停電した場合には、蓄電池があればバックアップできると思われている。しかし停電時に、家庭と系統電力(電力会社から供給される電力)の電線の間がきちんと切断(ブレーカーのような役割)されていないと、せっかく畜電池でバックアップした電気は全部外へ逃げていってしまい、バックアップに利用できない。
そこで停電した際に、家庭と電力会社の線とを完全に切り離した状態で畜電池を使うようにする必要がある。そのため、電力会社で事故が起こった瞬間に、電力会社が高速の信号を送電線経由で送り、それによって家庭と電力会社を切り離して蓄電池が独立運転できるようにする機能を、NECは転送遮断装置「Micro-DX」によって検証している。
このときの通信手段として、高速PLCが使用されている。ただし、この高速PLC(周波数帯2〜30MHz)は、日本国内の場合は、アマチュア無線の団体が反対している周波数帯なので、使用できない技術となっている。
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次号の2013年2月号では、ロスアラモスサイトにおける価格弾性の重要性や、デマンドレスポンスへの取り組みについて紹介する。
(次号の後編につづく)
※本記事中で特に明記していない図・表・写真は、NEDOの提供。
▼ 注4
CdTe薄膜太陽電池は日本では生産されていない。
▼ 注5
HEMS:Home Energy Management System、家庭内エネルギー管理システム。