GEのインダストリアル・インターネット構想
〔1〕インダストリアル・インターネットとは
ここでは、GEがインダストリアル・インターネット構想を打ち出した背景や、IICの目指すところを具体的に紹介していく。
30万人以上の従業員を擁し、年間13兆円以上の売り上げを誇る、米国を代表するコングロマリット企業「GE」(ゼネラル・エレクトリック)は、2012年11月、産業界における生産性の向上や新ビジネスの創造を目指して、インダストリアル革命と新たなインターネット革命を同時に融合させて展開する「インダストリアル・インターネット」(Industrial Internet)構想を打ち出した注7。
このGEが提唱するインダストリアル・インターネット構想は、第1の波、第2の波に続く‘第3の波’として位置づけられた。
(1)第1の波(Industrial Revolution):
18世紀から20世紀まで、世界の社会・経済・文化に大きな影響を与えた約150年にわたる「産業革命」(蒸気機関の時代)であった。
(2)第2の波(Internet Revolution):
20世紀後半に世界を変革した約50年にわたる「インターネット革命」(大型メインフレームの時代からオープンなインターネット時代)であった。
(3)第3の波(Industrial Internet):
「インダストリアル・インターネット」(M2M/IoT/クラウドによるCPS時代)であり、産業革命とインターネット革命を融合させることによって世界を再び変革しようとするコンセプトである。
このような構想は、
(1)インテリジェントデバイス(先進的な産業機器やセンサー)
(2)インテリジェントシステム(デバイスから発生するビッグデータなど収集するシステムや予測分析するソフトウェアを含む)
(3)インテリジェントな意思決定(ビジネス現場で意思決定をする人々)
という3要素とこれらを結ぶ「ネットワーク」が完全に融合したときに実現可能となる。
IICは、製造分野だけではなくヘルスケア(健康・医療)分野、あるいは鉄道や航空機などの輸送分野、発電・送電(スマートグリッド)分野における効率的なシステムを実現し、これらを通じて各産業分野における生産性の向上を実現していくことを目指している。
〔2〕‘第3の波’に期待されていること
次に、インダストリアル・インターネットに期待される生産性の向上を、過去の「第2の波」を分析しながら解説していく。
(1)M2M/IoT/クラウドを活用するCPS時代‘第3の波’
第2の波「インターネット革命」による米国の生産性の向上は、最盛期の1996〜2004年には3.1%まで向上し、それ以降は1.6%へと低下していた。このことから、過去のインターネット革命による生産性の向上への直接的な寄与は10年程度の範囲であったことが伺える。このような背景から、次世代の新しいインダストリアル・インターネット、すなわちM2M/IoTやクラウドを活用するCPS時代を迎える‘第3の波’による生産性(GDP)の向上に、大きな期待が寄せられている。
(2)インダストリアル・インターネット:1パーセントの力
図2は、インダストリアル・インターネットによる効率向上で1%のコスト削減をもたらした場合の、各産業に及ぼすコスト削減と生産性向上の例を示したものである。
図2 1%の効率改善が各産業に及ぼすコスト削減と生産性向上の例
出所 Industrial Internet Consortium「The Industrial Internet Consortiumの活動展開と日本の産業界に課題について」
図2から、1%の効率改善によって、数百億ドル単位での運用コスト削減が期待され、大きく生産性の向上をもたらすと分析・予測されている。
各業界とも市場規模が拡大し取扱高が大きくなっているところから、1%の改善が、例えばヘルスケア産業の場合には、630億ドル(約7兆円:15年間の予測価値)に達すると予測された(出所:「Industrial Internet:Pushing the Boundaries」、2012年にEvance & Annuziata)。