IoT時代におけるビジネスモデルの基本
これまでの製造業は、図1に示すように、製造した製品(「モノ」)を販売して収益を得るモデル(販売モデル)であった。しかし、IoT時代を迎えて、製造業は、そのような「モノ」を販売する方式に対して、利用者が使った時間(サービスを受けた分:これを「コト」という)だけの料金をもらって収益を上げるモデル(サービスモデル)へと変化(これを「コトを売る」と表現する)し始めている。
図1 モノを売る収益VS. コトを売る収益(下図の色の直線と色の点線)
出所 西岡 靖之、「IVIのプラットフォーム戦略と海外との連携」、2016年9月9日
この仕組みによって、製造業は、これまで一度しか収益を上げることしかできなかった「販売モデル」から、消費者がモノを使うたびに収益を上げることができる「サービスモデル」へと移行することが可能となった。これは、「製造業のサービス化」とも言われる。
図2は、図1をより具体的に示したもので、製造企業と利用者の間にビジネスの基盤となる「プラットフォーム」(後述)を構築し、お互いに継続的な関係をつくってビジネスを行うイメージである。
図2 継続的な関係の構築
出所 西岡 靖之、「IVIのプラットフォーム戦略と海外との連携」、2016年9月9日
プラットフォームは、図2に示すように、
- 企業から提供される「モノ」を、利用者がサービス〔「コト」(価値)〕として使う。
- 企業は、利用者のトラブルなどに対する解決情報などをネットワーク経由で提供する。
- 企業は、IoTで、使った時間のデータを利用者からダイレクトに収集し、その収益(課金)を得る。
- さらに、ネットワーク化によって、企業は利用者のところまで出向かなくとも、遠隔から大規模なビジネスも可能になる。
このように、製造企業は、利用者に製品を「売った瞬間に利益を出す」モデルではなく、利用者が使った製品を「使った瞬間に利益を出す」モデルへと移行し始めている。
家電の例に見る新ビジネスモデル
ここで、例として、「ある日秋葉原を訪問して価格を調べたところ、冷蔵庫(200,660円)、洗濯機(187,110円)、エアコン(261,900円)であり、高くて買うのに躊躇してしまう」と仮定する。しかし、これを、例えば、次のように、
冷蔵庫(定価200,660円)⇒初期価格69,800円+利用料120円/日(在庫モニター機能付き:スーパー直結で冷蔵庫内のものが不足すると宅配される、とする)
洗濯機(定価187,110円)⇒初期価格39,800円+利用料70円/回+洗剤パック90円/回
エアコン(定価261,900円)⇒初期価格19,800円+利用料20円/時間+フィルター交換3,000円/3,000時間
とし、例えば、「1年間で14万円もお得!」(標準4人世帯の場合)というようなキャッチコピーで販売されていたら、利用者にとってより購入しやすいビジネスモデルになる。
すなわち、売った時点で回収するのではなく、売った後に利用者が使った分だけ回収するモデルである。これは、まさに家電機器を、プリンタモデル(後から紙やトナーを売り利益を出す)やスマホモデル(通話料金やコンテンツの使用量で利益を出す)のようにして販売するビジネスモデルと同じである。
しかし、現時点では家電分野でこのようなビジネスモデルは実現していない。その理由は、これらの機器がインターネットにつながっていないからである。例えば、冷蔵庫がインターネットにつながっていないと電源が入らないとする。しかし、インターネット接続が原因で冷蔵庫の電源が時々切れたりすると、冷蔵庫のものが腐ってしまう。現在はそこまでインフラが整備されていない。
したがって、必ずつながるインフラの世界が実現し、それによって課金できるような信頼性のあるインフラが構築されれば、上記のようなことが実現できるようになる。こうなれば、メーカーにとって、製品が壊れないと新しい製品を利用者に買ってもらえないような状況から、利用者に製品を持続的に使ってもらえるビジネスモデルになるため、より安定したビジネスを展開できる可能性がある。
▼ 注1
「IAjapan IoT推進委員会 第4回シンポジウム」、2016年9月9日、東京・日比谷図書文化館にて開催。参加者200名。