AutoGridのプロフィールと「DROMS」
米国カリフォルニア・パロアルトに設立(2011年)されたAutoGridは現在の従業員数が30名のスタートアップ企業である。同社は、膨大なビッグデータの解析や、電力エネルギー関連の需要側管理を行う、ソフトウェアプラットフォーム「DROMS」(ドゥロムス、Demand Response Optimization and Management System、デマンドレスポンス最適化・管理システム)を開発し、市場への提供を開始した。同社のシステムは、SEP 1.x/2.0のみならずOpenADRなどの標準に対応できることが優位点になっている。
この新しいDROMSは、既存の発電所の環境で、電力の需給をソフトウェアで管理することによって、新しく発電所を建設しなくても電力を生み出す「バーチャルプラント」(VPP:Virtual Power Plant、仮想発電所)の実現を目指している。
これは日本では、「ネガワット」(Nega Watt Power)とも言われている。ネガワットとは「負(Negative、ネガティブ)の電力(Watt、ワット)」(すなわち「省電力」)を意味する「NegaとWatt」の合成語である。これは、電力会社が需要家の協力を得て、デマンドレスポンス(DR)を使用して電力を節約することによって「節電された電力分」を発電したことと同等にみなす」考え方である注1。
電力産業におけるビッグデータの例
〔1〕ビッグデータの内容
最初に、OpenADRをベースにした電力情報(ビッグデータ)の解析について述べるが、ここで、このビッグデータの内容をさらに具体的に見てみよう。図1の上部の表には、あるビルにおけるメーターの数と、メーターから送出される、
図1 電力産業におけるビッグデータの例
〔出所 AutoGridプレゼンテーション資料より、2013年5月14日〕
① 15分間隔のデータ量(1年分)
② 1分間隔のデータ量(1年分)
③ 1秒間隔のデータ量(1年分)
が示されている。ここで例えば、図1の上段の表に示すように、1万個のスマートメーターから、次のようなデータ量になる。
(1)15分間隔でデータを読み取る場合は、毎年32.61GB(ギガバイト)のデータ量となる。ここでのメーターのリードデータ(読み取りデータ)のサイズは、約91バイトであり、このデータに基づいて、計算をしている。
(2)1分間隔(15分間隔の15倍のデータ)では毎年その15倍の489GB(=32.61GB×15分)のデータ量となる。
(3)1秒間隔でデータを読み取る場合は、1分間のデータが489GBであるから、489GB×60秒=29,340GB、つまり29.34TB(テラバイト)となる。
このとき100万戸のスマートメーターから取得されるデータ量は、
11.2PB(=11.2ペタバイト=11.2×1015バイト)
と、1万個のスマートメーターのときの100倍(11.2PB÷114.6TB=11200×TB÷114.6TB≒98倍)の大容量のデータとなることがわかる。
〔2〕スタンフォード大学敷地内にあるY2E2ビルの場合
また、より具体的に、図1の下部に示すスタンフォード大学の敷地内にあるY2E2ビル注2の電力使用のデータの大きさの例を見てみよう。
図1に示すY2E2ビルでは、1年間に2600測定ポイントを「1分間隔」でデータの読み取りを行っているが、その1年間の総データ量は次の通りとなる。
124GB(=91B(実測値)×60分×24時間×365日×2600ポイント)
このY2E2ビルが仮に1000棟あり、かつ「1秒間隔」でデータを読み取るとなると、
7.4PB(=7.4ペタバイト=7.4×1015バイト=124GB×1,000棟×60秒)
となり、このデータ量は、図1の右下に示す全アメリカの図書館などのデータに匹敵する大きさの、ビッグデータとなる。
▼ 注1
10kW節電したら、10kWの発電所を建設したことと同等とみなす、という考え方である。
▼ 注2
Y2E2:Jerry Yang and Akiko Yamazaki Environment and Energy Building、スタンフォード大学の卒業生であるYahoo!の共同創業者であるジェリー・ヤン(Jerry Yang)氏とその妻(日系人)のAkiko Yamazaki氏の夫婦名が付いたビルで、2007年にスタンフォード大学キャンパスに建設された。環境・エネルギー関係の研究を行っている。