[市場動向]

AMI分野のプレイヤー動向とPG&Eのケーススタディ

2013/02/01
(金)

PG&EのAMI導入ケーススタディ

〔1〕電力用だけで約517万6000台のスマートメーターが導入済み

カリフォルニア州に本社を置くPG&E(Pacific Gas and Electric)は、AMIの導入を2008年から行っている。同社は定期的に自社のAMIおよびスマートメーター導入に関する進捗レポートを公開している。このレポートは、PG&EにおけるAMIやスマートメーター導入の詳細を知ることができる貴重なものである。

現在入手できる最新のものは2012年10月1日に公開されたもの注2で、これによれば、2012年6月30日時点で、PG&EにおけるAMI導入は米国で最大規模となり、具体的にはすでに約939万8000台のスマートメーターを導入している。ただし、これは電力とガスの両方のスマートメーターの合計値であり、電力だけでは約517万6000台のスマートメーターが導入済みとなっている。これはPG&Eの全顧客の93%に相当する規模で、このうち約36万4000台のスマートメーターは新規導入ではなく、交換となっている。交換されたスマートメーターは導入プログラムの初期に導入されたもので、PLC方式を採用したスマートメーターであった。現在では同社は無線マルチホップ方式を採用しているため、PLC方式のものを取り外し、無線マルチホップ方式用に交換している。

図3 Silver Spring Networksのアクセスポイント(左)とリレー(右)

図3  Silver Spring Networksのアクセスポイント(左)とリレー(右)

〔出所:Silver Spring Networks社Webサイト、http://www.silverspringnet.com/products/network-infrastructure.html

このレポートには書かれていないが、PG&Eの電力向けAMIではSilver Spring Networksのソリューションを活用して、無線マルチホップ方式を用いたスマートメーター通信を構築している(ガス向けはAclaraだと言われている)。レポートによると、無線マルチホップ方式でのスマートメーター通信を実現するために、2011年12月31日時点でアクセスポイントやリレー(中継器)を1万1379台導入している(図3)。これは、前出の図1で示すところのコンセントレータのような役割をしているものと推察される。同レポートに掲載されているグラフを参照すると、アクセスポイントは2011年時点で累計1371台導入済みとなっているので、残りの約1万台がリレーとなる。

〔2〕導入プロジェクト総費用は22億5300万ドル

ここまでの数字を見てみると、スマートメーターの数(約517万6000台)と比較してアクセスポイントの数(1371台)が少ないと感じるが、同社のFAQ注3(よくある質問)によると、採用している無線の出力が902〜928MHz帯で1Wとなっており、日本国内で採用されているものよりも高い出力注4のため、少ないアクセスポイントで対応できている可能性がある。

また、PG&Eはスマートメーターを希望しないユーザーに対しては、スマートメーターを外してアナログメーターに付け替えるというOpt-Out(オプトアウト)プログラムを2012年2月より開始している。これはユーザーが希望すれば、理由の如何にかかわらずアナログメーターに交換するというプログラムだが、交換の際に手数料として75ドル、その後、検針のための人件費として毎月10ドルの費用をユーザーが負担しなければならない。同レポートによれば、レポート発行時点で約3万1400ユーザーがアナログメーターへの交換を申し出ているとなっている。

無線マルチホップ方式の場合、他のスマートメーターも介してバケツリレーのような方式でデータを伝送することになるが、オプトアウトプログラムによって一度取り付けたスマートメーターが取り外されてしまうと、マルチホップ方式の構成が変わってしまい、通信のパフォーマンスに悪影響を及ぼす場合があると指摘されている。このような事態は、導入プロジェクト開始時には予測していなかったもので、随時、適切な対応を行っているようである。

なお、これまでにかかったプロジェクトの総費用は22億5300万ドル(約1960億1100万円)と報告されており、今後の予定している費用としては8200万ドル(約71億3400万円)となっている。

Profile

新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社情報通信総合研究所

SAPジャパンにて、BI関連のコンサルティング業務に従事した後、2007年より株式会社情報通信総合研究所に勤務。マーケティング・ソリューション研究グループにて、法人関連分野のリサーチ、コンサルティング業務に従事。


▼ 注2
“Twelfth Semi-annual Assessment Report On The Deployment Of Pacific Gas And Electric Company’s Advanced Metering Infrastructure Program And Twelfth Quarterly Report On The Implementation Progress Of The Smartmeter Program Upgrade”(PG&EのAMIプログラム導入に関する第12次半期評価レポート、およびスマートメータープログラムアップグレードの導入進捗に関する第12次四半期レポート)

▼ 注3
http://www.pge.com/myhome/edusafety/systemworks/rf/faq/

▼ 注4
日本の920MHz帯での最大出力は250mW。

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...