[スマートグリッドの実像に迫る!]

スマートグリッドの実像に迫る!

─第2回 誰が電力システムの信頼性に責任をもつのか─
2013/03/01
(金)

3.11大震災の経験を通して、電力システムの安全性や信頼性、さらに制度面からの改革が注目されるようになった。特に、制度面からは電力の自由化をめぐる論議が活発化し、「垂直統合システム」か「水平統合システム」かがクローズアップされるなか、経済産業省に「電力システム改革専門委員会」が設置され、電力システムについて専門的な検討が開始された。そこで、今回は筆者の経験に基づいて日本と欧州(ドイツ)の例を比較しながら、「水平統合システム」環境において、誰が電力システムの信頼性に責任をもつのかなどを解説する。

「垂直統合システム」か「水平統合システム」か

第1回で解説した3.11大震災の経験は不幸なことではあったが、電力システムという観点から考えてみると、デマンドサイド(電気を使う需要家)も含めて電力システムそのものや制度を大きく変えていく大きなきっかけとなった。

そこで、経済産業省は、今後のあるべき電力システムについて専門的な検討を行うため、総合資源エネルギー調査会総合部会の下に「電力システム改革専門委員会」注1を設置した。2012年2月2日の第1回会合から本格的な検討が開始され、2013年1月21日の第11回会合で、「発送電法的分離」という今後の方針を固めた。

その電力システムの制度的な改革の例として、現在の電力会社のもつ発電と送電/配電網を分離する発送電分離問題や、小売りの全面自由化などが検討されるようになった。

このような制度は、すでに米国をはじめ世界各国でも部分的もしくは全面的に導入されており、具体的には「発電会社」「送電網会社」、そして電力の「小売会社」というように、水平統合的な電力ビジネスが展開されている。しかし、そのような制度を導入する際には、海外で行われているから日本に機械的に導入するというのではなく、日本の電力システムの歴史的な発展経緯や技術的な特徴、さらに事故時の緊急対応なども考慮していく必要がある。

図1に示すように、

  1. 電力システムに関する発電と送電/配電、小売を一括して行う「垂直統合システム」
  2. 発電と送電/配電、小売をそれぞれ分離(別会社化)する「水平統合システム」

に関しては、電力を利用する側から立って見たシステムの在り方も含めて、日本が今後目指していく社会システム全体の視点から大いに議論する必要があるのである。

図1 垂直統合システムと水平統合システムの例

図1  垂直統合システムと水平統合システムの例

〔出所 各種資料などを参考に筆者が作成〕

ここでいう「社会システム」とは、例えば消費エネルギーとして電気エネルギーを主体とする場合、台風や降雪などの自然災害、あるいはイベントなどの人為的に起こる急激な需要変動では、常識的に停電が発生する可能性を認識し、その対応策を社会システムとして確立しておくということである。

誰が電力システムの信頼性に責任をもつのか

先に、電力における垂直統合システムと水平統合システムについて述べたが、筆者のドイツでの経験も踏まえ、この問題について考えてみよう。

〔1〕日本とドイツの比較

欧州は欧州なりの電力システムの歴史があって、例えばドイツの場合、電力の「小売会社」が約1100社(公営がほとんど)も存在し、「送配電会社」、いわゆる大手ネットワーク会社は4社ある。さらに、発電会社(1MW以上)は約300社ある(図1、図2)。

図2 ドイツのエネルギー市場(数値表)

図2  ドイツのエネルギー市場(数値表)

〔出所 BDEW(German Association of Energy and Water Industries、エネルギー・水利事業連合会〕

このように、電力について水平統合システムを長く経験してきたドイツのような国と、日本の位置するアジア地域では、異なるところがある。東南アジア地域は、国営電力会社で電力供給が進み、外国資本で自由化が進んでいる。日本はどちらかというと電力会社は個人経営的に生まれ、それがだんだん供給エリアを広げた垂直統合的な電力システムになったという歴史的な経緯がある。

どちらがその社会にとって適したシステムであるかどうかは、今後のトライアルのなかで判断するにしても、電力システムの信頼性を誰が確保し保証するのか、という視点が重要である。これは米国の西海岸の電力会社のように、電力システムの信頼性というよりも電力の自由化そのものだけを重視して電力システムを語るというのではなく、電力システムの信頼性を確保する視点から、仮に水平統合システムにする場合には、誰が信頼性の責任注2をもつのかを明確にする必要がある。

一方、垂直統合システムの場合は非常にわかりやすく、そのシステムを運営している電力会社が電力システム全体について責任をもつことになる。具体的には、自然災害や自然現象、社会的なイベントによって、通常の人の営みが大きく変化し、それとともに電力需要にも大きな変化が起こる。

これに対応して、発電から配電システムを含む電力システム全体で、この変化に対応が可能となっている(対応している)。時には、電力システムだけでは信頼性が確保できず、発電機を積んだ自動車や蓄電池を暫定的に設置することもある。

しかし、水平統合システムになると、今までの海外の事例からは、必ずしも電力システム全体への責任が明確ではなく、曖昧になりがちである。

〔2〕電力会社のマーケティング部門の役割

電力会社にも、実際に、一般企業と同じようにマーケティング部門があり、発電所や送電線などをつくるに当たっては、翌年以降、どこに変電所をつくらなければならないのかという調査・検討などが行われている(図3)。そのような垂直統合的ビジネスを水平統合システムにすると、電力システムのマーケティングは一体誰が行うのかということになる。

図3 重要な電力会社のマーケティング部門

図3  重要な電力会社のマーケティング部門

つまり、翌年あるいは10年後に、コミュニティの開発が急速に進む「○○県ABC地域の電力需要はどうなるのか」などという予測を、誰が責任をもって行うのか。これは大きな問題であり、責任をもてる人(プレーヤー)が誰であるかを明確にする必要がある。地域をまたいだり、送電線の増強が必要となったりするなど小売会社だけではできないことが多くあるため、これらについては、実際には送電網会社が実施することになる。

〔3〕電力システムの信頼性の確保

電力システムのマーケティングについては一般的に知られていなかったが、電力会社が電力の需要予測など、いわゆる市場に対して電力システム全体で対応していたからこそ、今までの電力システムの信頼性が確保されてきたのである。

例えば、発電所1つ建設するにしても、用地の選定や国の手続き、認可、建設、完成後の検査に至るまで、10年あるいは20年とかかる場合がある。したがってマーケティングをきちんと行い、10年先、20年先をしっかり見据えられる組織が責任をもって運営していかないと、信頼性については実現できないのである。


▼ 注1
電力システム改革専門委員会:2012年1月設置。2012年7月には『「電力システム改革の基本方針」について』が発表されている。
http://www.meti.go.jp/committee/gizi_8/2.html#denryoku_system_kaikaku

▼ 注2
ここでの責任とは、供給責任を指す。自然災害・人的災害などが起きても、発電から配電設備の全体の電力システムをマネージし、早期に電力を供給する責任のことである。

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