太陽光発電や風力発電の増大と電力の安定供給の課題
今後、太陽光発電などが増加していき、太陽光発電で発電された電力を電力会社に売電する(逆潮流)注1ようになると、従来では考えられなかった、電力会社から供給される電力(系統電力)に影響を与えるようになる。
そこで、ここでは基礎的なこととして、電力会社がどのような仕組みで電力を安定供給する努力をしているかについて、簡単に解説しておこう。
〔1〕周波数「50Hz」を維持する仕組み
通常、発電機で発電された電気は貯蔵できない(蓄電装置がない)ので、生産量(発電量)と消費量が常に同じ(同時同量)であることが求められる。このため電力会社では、電力の需要を予測しながら発電している。これができないと交流電力の周波数が変動してしまい、例えば0.5Hz程度の周波数変動でも利用者の電気機器に影響を与えてしまう。さらに数%もの周波数変動が起こると、発電機のタービンがもつ固有振動数に共振し、設計強度を超え機械的な異常振動が発生する。この異常振動や発電機の回転軸のねじれを防ぐため、発電機を停止せざるを得なくなってしまうという現象が起こる。
この周波数の値について、電気事業法施行規則の第四十四条注2では、「電力会社が供給する電気の標準周波数(例えば50Hz)に等しい値とする」と規定されているが、実際に東地域(東京電力・東北電力管内)の場合は、50±0.2Hzすなわち49.8〜50.2Hzの範囲内で周波数制御が行われている注3。なお、北海道電力管内は50±0.3Hz以内、中西地域管内は60±0.2Hz以内とされている〔中西地域:中部・関西・北陸・中国・四国・九州電力管内〕。
〔2〕100Vなどの交流電力の電圧を101±6Vに維持する仕組み
一方、家庭やオフィスで身近に利用している100Vなどの交流電力は、目には見えないが、
- 実際にLED照明を点灯し部屋を明るくしたり、電子レンジなどを動かしたりするための仕事をする「有効電力」と、
- 仕事もしない発熱もしない「無効電力」
の2つの電力で構成されている。例えば、電力需要の増加などによって電気の流れが増すようになると、需要家(利用者)側の電圧が低下(逆に流れが減ると電圧が上昇)してしまうという現象が起こる。これは、交流電力の送電容量を減少させる無効電力が発生するためである。このため、無効電力供給設備(リアクトル・コンデンサ注4など)によって無効電力を供給したり、変圧器を調整することによって系統(電力システム)内の電圧を維持したりする必要がある(図1、図2)。
図1 電圧維持の意味
〔出所 横山明彦、「電力系統の基本的要件と我が国の電力系統の特徴について」、2002年3月8日〕
図2 電力システム(系統電力)における電圧維持の仕組み
この電圧が適切に維持できないと、家電機器に悪影響を及ぼしたり、電力を送電する際に電力損失(送電ロス)が増すなど、さまざまな弊害が発生してしまう。
そこで、電気事業法施行規則では、
- 100V供給の場合は101±6V、すなわち95〜107Vを超えない範囲内
- 200V供給の場合は202±20V、すなわち182〜222Vを超えない範囲内
に、電圧を制御するように規定(維持すべき値)されている。
以上解説したように、太陽光発電や風力発電などの新しい再生可能エネルギーが増大し、従来の電力システムに流れる(逆潮流)ようになると、停電などの事故が起こらないよう電力を安定供給するために、周波数や電圧の調整を行うなどの対策を講じる必要があるのである。
▼ 注1
電力会社から家庭に送られる電力の流れは「潮流」(Power Flow)と言われる。一方、逆に家庭で太陽光などで発電された電力を電力会社に売るような電力の流れを「逆潮流」(Reverse Power Flow)と言う。
▼ 注2
電気事業法施行規則 第四十四条
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H07/H07F03801000077.html
▼ 注3
http://www.re-policy.jp/keito/2/030912_09.pdf
▼ 注4
コンデンサ:一般に、向かい合う2枚の電極板の間に絶縁体を挿入した構造をもち、電荷を蓄えたりする電子部品のことを言うが、電力システムに使用される「電力用コンデンサ」は、系統電圧の電圧調整などの目的に使用される。