DRASの開発のきっかけ
3.11の東日本大震災後の2011年7月、関東圏の企業に対して15%の節電要請(法律で義務付けられた)があった。同社内でも節電の取り組みをしていくなかで、考えた技術が「電力需要の予測」であった。これは単なる「見える化」だけでなく、需要の予想を出し、個人あるいは施設管理者が、それを参考にして何らかの対策をとるというもの。
さらに「見える化」の後、「ピーク電力を下げる」のが最大の焦点であったため、それにつながる技術として始めたのがバッテリーを使ったピークの削減であった注2。
一方、同社米国の研究所においては、デマンドレスポンス(DR)の標準規格であるOpenADR(Open Automated Demend Response)注3に着目し一部プロトタイプを作成し始めていたが、2012年度はさらに本格的に進めるべく、日米の研究所で連携して開発を進めたのが、OpenADRの最新規格OpenADR 2.0a準拠のDRAS(Demand Response Automation Server)であった。
米国では、OpenADRの通信仕様が2007年に定まり、2009年にOpenADR 1.0通信仕様書として公式に公開され、現在はOpenADR 2.0aが公開されている(表)。米国国立標準技術研究所(NIST)はスマートグリッド全体の技術標準整備の一貫としてこのOpenADR 2.0仕様を採択した。
表 OpenADR 2.0標準化までの経緯と現状
〔出所 インターテックリサーチ、SGNLセミナー『スマートグリッドの核となるデマンドレスポンス/OpenADRの全貌』(2013年2月14日)の講演資料をもとに作成〕
DRASプロトタイプの仕組み
DRASのアーキテクチャは大きくVTN(Virtual Top Node)がサーバ側の機能、VEN(Virtual End Node)がクライアント側の機能となり、供給者(VTN)⇔アグリゲータ(VEN/VTN)⇔需要家(VEN)のツリー構造となっていて、多段でVTNとVENのペアで通信ができるようになっている(図)。
図 DRASの仕組み
〔出所 富士通研究所のプレスリリース資料をもとに作成、http://pr.fujitsu.com/jp/news/2012/12/3.html 〕
図のように、供給者(電力会社)と需要家の間にアグリゲータなどのビジネス領域が発生した場合、電力会社側のVTNはアグリゲータ側のVENと通信をし、そこでいったんイベントを受けて、さらに受けたイベントを需要家に分配するという機能を実現する。
DRASの機能やサービスは、VTN(サーバ)からVEN(需要家の端末)へイベントを送る(節電要請)機能と、このイベントに対するVENの応答通知を受信する(節電応答)機能や、VENの状態を確認するためのインタフェースが、必要最小限のセットとなる。VENの応答通知を受信する機能は2.0bで規定される予定のため、同社は2.0bの議論を参考に独自仕様として実装した。
DRには、発電機能を調整するだけでなく需要家にも協力を求めて需給バランスをとる必要もある。電力会社がネガワット(削減電力)を欲しいとイベントを送信するが、ある程度ユーザー数をまとめて(ネガワット量をまとめて)平準化し需給バランスを行うことで、初めて安定的な制御が実現できる。それらの作業をアグリゲータなどの中間事業者が請負うということが今後発生し、重要になる。そこで同社では、これらの中間事業者の領域が1つのねらいどころではないかと考え、研究開発を推進しているのだ。
OpenADR Plug-inイベントのデモと他社との相互接続
同社のOpenADR 2.0a準拠のプロトタイプは、“Grid Interop 2012”注4のOpenADR Plug-inイベントに出展された(写真)。これは、日本企業としては初めての参加。OpenADR 2.0認証用試験ツールとしてQualityLogic社開発のツールが認定されており、同社のテストツールを使い、Honeywell/Akuacomと富士通、QualityLogicの3社で相互接続試験が行われた。その結果、評価基準に対して、同社のプロトタイプは通過率が高いという評価を得た。
写真 “Grid Interop 2012”Open
ADR Plug-inイベントの様子
さらに現在、OpenADR 2.0a準拠製品との接続確認も行っている。サーバ側には同社開発のDRAS、需要家側にはOpenADR 2.0a搭載のUniversal Device社のHEMSゲートウェイ、(米国の一般的な家庭には)そこから宅内へのサーモスタットがあり、その先にエアコンなどが接続され、サーモスタットとゲートウェイ間はZigBeeでつながっている。OpenADR 2.0aの接続確認は、ホームゲートウェイとDRAS間で行われる。OpenADR 2.0aでは、表に示したようにイベントは1つのみに限定されている。
今後同社は、現在進行中のOpenADR 2.0bの議論が固まり次第、次のステップを検証し、同時に具体的な実用化を目指して、OpenADR上でサービスが提供される際の標準準拠プラスαの差別化に絡むような開発を進めていく。
▼ 注1
DRAS:Demand Response Automation Server
▼ 注2
オフィスにあるノートPCの内蔵バッテリーをコミュニティ内に分散配置された蓄電池に見立て、オフィス全体のピーク電力を削減する実験を行い、ピーク電力を10%削減することに成功した。
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2011/12/14-2.html
▼ 注3
OpenADRは、主に商工業顧客の設備を対象として自動的にDRを実施するためのアプリケーション標準。DR資源だけでなく、DER(分散電源)も制御対象に入っている。大口ユーザーを筆頭に、小規模ビルや一般家庭、DRアグリゲータと系統運用者/電力会社間のDR情報のやり取りを想定している。
▼ 注4
2012年12月3〜6日に開催。NISTのSGIPによって年に一度開催される。
http://www.grid-interop.com/2012/OpenADR