[プロダクト]

IBMの気象予測・解析システム「Deep Thunder」と発電量予測ソリューション「HyREF」

2014/07/01
(火)

世界的な電力・エネルギー危機のなか、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの導入が進んでいる。しかしその一方で課題も多い。その1つが、安定的な電力の供給が難しいという点である。そこで近年注目されているのが、気象予測と連携した発電量の予測技術である。ここでは、一般的な気象予測の手法を整理していくとともに、IBMが世界ですでに実証実験や導入済みの発電量予測ソリューションを見ていく。

なぜ予測技術が必要なのか

風力、太陽光などの再生可能エネルギーを用いた発電では、その発電量は気象に大きく依存し、安定した電力供給は一般には難しい。そのため発電電力の揺らぎを補償するための蓄電池の装備なども行われるが、経済的には投入する蓄電池容量を最小にすることが望ましい。また、発電電力を送配電網に良質の電力として投入するには、定めた時刻の供給可能な電力量をより確かなものにする必要がある。先々の時刻、例えば1日先の保有発電設備の発電量予測をより高い確度で行うことで、供給電力の品質向上をもたらし、発電所の経済性を高めることが可能となる。

再生可能エネルギーの将来の発電量予測は、このような要請から生じたものである。

発電量を予測するシステムの基本的な構成は、日照、風速、風向、気温などの気象変数を予測する「気象予測」と、気象変数を入力とした発電設備の「発電量予測」の2つとなるが、その方法としてさまざまなものが提案されている。

気象予測においては、一般的に次の2つの方法が採用されている。

  1. 発電所の所在場所における過去の気象統計を元に気象動向パターンを導き出し、気象庁などが提供する広域の気象予報値を気象変数として動向パターンに入力することで、当該場所における先々の気象変数予測を与える方法注1
  2. 気象庁などが提供する広域の気象予測値を元に、さらに精緻な気象モデル狭領域をピンポイントで計算し、時間、空間的に粒度の高い気象変数予測を与えるもの

IBMでは2の方法により、確度の高い気象変数予測を行っている注2。2の気象変数予測値が与えられたとき、それをどのように処理して発電電力予測に結び付けるかは特許3950928号注3に詳しく記述されているのでそちらに譲ることとする。

ここで、風力タービンや太陽光パネルなどの実際の発電電力量であるが、設置条件や稼働状況に依存し、装置メーカーが提供する標準的な性能仕様では正確に見積もることが難しいため、実際の運用データを元に発電効率を求めることが多い。後述のIBMの再生可能エネルギー発電電力予測ソリューション「HyREF」(Hybrid-data assimilation based Renewable Energy Forecasting)においても、種々の統計解析を適用することで、発電所の発電予測モデルを作っている。

IBMにおける再生可能エネルギー予測関連技術

〔1〕数値気象予測WRF

確からしさの高い発電予測に用いられる数値気象予測(NWP:Numerical Weather Prediction)とは、大気の振る舞いを数学的にモデル化し、緯度、経度、高度、時間軸(4次元)で数値的に解析することによって、温度、湿度、風速、風向、降雨状態、降雨量、雲の発生、日射量などを求めるものである。米国大気研究センター「NCAR」(National Center for Atmos-pheric Research)などが中心となって開発した汎用気象モデル「WRF」(Weather Research and Forecasting、日本ではワーフと発音されることが多い)は、豊富な物理モデル注4が提供されており注5、数値気象予測研究開発の1つの標準的気象モデルとなっている。

IBMでは、図1に示すような「狭域精緻気象予測・解析システム」(Deep Thunder)にWRFを基本気象モデルとして採用し、再生可能エネルギーへの応用だけでなく、洪水予測、交通渋滞管理、車両運行管理、電力需要、発電電力、太陽電池発電、風力発電、農業、鉱業、建設、ロジスティクスなどの気象変化に鋭敏な事象の事態予測などへの幅広い応用を推進している注6

図1 狭域精緻気象予測・解析システム「Deep Thunder」のシステム構成

図1 狭域精緻気象予測・解析システム「Deep Thunder」のシステム構成

〔2〕Deep Thunderによる気象予測

ここで、Deep Thunderによって気象予測をするステップを簡単に述べる。

  1. まずGIS(Geographic Information System)などから、気象予測対象領域の地形や土地利用、植生データなどを取り込む。同時にWRFの物理モデルなどを解析条件として取り込み、当該地域の気象モデルを作成する。このとき、精緻な気象モデルとするには、当該地域の過去の気象データを元に選択するWRFの物理モデルの再考察や、それぞれのモデル内のパラメータの調整などを行う「チューニング」が欠かせない。
  2. 1の気象モデルに、米国海洋大気庁傘下の米国環境予報センター(NECEP:National Centers for Envi-ronmental Prediction)が無料で提供する全球モデルの気象データ(GFS:Global Forecast System、データ格子点間隔55km、予測時間間隔3時間)を初期値、境界値として入力し、対象とする狭領域を水平分解能注7を1km以下、時間分解能注8を分刻みで解析する。

実際には、地表において観測された対象領域における気象変数をデータ同化注9させることで、初期値の確からしさを高め、24時間先、あるいは48時間先などの予測の確度を高めていく。また、日射量など通常の天気予報では与えられない変数の予測を、雲の発生を予測することで精度の高い予測を行う。

図2に、10分刻みで48時間先まで予測した解析結果のアニメーション表示のスナップショットを示す。これは、水平解像度1km、大気鉛直方向層数注1060で解析されたものであり、雲の発生や消失、地表面での降雨量(緑色)が示されている。

図2 Deep Thunder による解析例

図2 Deep Thunder による解析例

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