[急浮上する高速/低速PLC標準規格の 最新動向]

急浮上する高速/低速PLC標準規格の 最新動向 ─後編─

─ITU-Tの低速PLC(G.nbplc)が大幅な見直しへ─
2013/05/01
(水)

IEEE P1901.2とITU-T G.990xシリーズの共存

これまで説明した通り、ナローバンド用PLC(NB-PLC、狭帯域電力線通信)技術は、現在、IEEEおよびITU-Tとも標準化(勧告化)の作業中であるが、既存技術として欧州を中心に普及しているG3-PLCやPRIMEとの整合性を模索しながら、異なる技術間の共存方式の検討が行われている。

そこで、ここではまず、すでに市場で普及している「G3-PLC」や「PRIME」などを概観してみよう。

〔1〕G3-PLC

写真1 スマートグリッド通信用の国際規格に準拠するマキシムのG3-PLCチップセットの外観

写真1  スマートグリッド通信用の国際規格に準拠するマキシムのG3-PLCチップセットの外観

〔出所 http://japan.maximintegrated.com/company/newsroom/pr_products/show.mvp/npk/1638

G3-PLCは、欧州最大の電力会社「EDF」(Electricité de France、フランス電力)グループの子会社であるERDF(Electricité Réseau Distribution France、配電網管理会社)が企画し、フランスのスマートメーター・メーカーのサジェムコム(Sagemcom)などの協力を得て、マキシム(Maxim)注6が開発したスマートグリッド用のNB-PLC規格である。

このG3-PLCは、IPv6をサポートし、OFDM注7方式を採用した、新しいNB-PLC規格となっている。マキシムはすでに2011年5月に、スマートグリッド向けにIEEE P1901.2準拠のOFDM(マルチキャリア数:256本)方式に基づくG3-PLCチップセットとして、PLCモデム用の「MAX2992」(写真1)およびアナログフロントエンド用の「MAX2991」を発表している。このチップセットは、CENELECやARIB、およびFCCなどの標準化団体の国際規格に準拠(10~490kHz)している。

また、2011年10月6日には、G3-PLC電力線通信技術の標準化の推進、技術の開発と普及を目指して「3G-PLCアライアンス」が、ERDFのスポンサーの下に、エネクシス(Enexis)、マキシム・インテグレーテッド・プロダクツ、STマイクロエレクトロニクス、TI(テキサスインスツルメンツ)、シスコシステムズ、アイトロン、ランディス・ギア(Landis+Gyr)、ネクサンス、サジェムコム、EDF、トリアログ(Trialog)のスマートグリッド関連11社の協力(ERDFを含めて計12社)によって設立された(2013年3月時点で32社)。

〔2〕PRIME

一方、PRIME注8は、スペインの電力会社Iberdrola(イベルドローラ、本社:マドリード)が主導して開発した、最大伝送速度128kbps(使用周波数帯:42~89kHz)でIPv6をサポートし、OFDM方式(マルチキャリア数:256本)を採るNB-PLC規格である。

PRIMEは、当初、イベルドローラと、スペインのファブレス半導体ベンダであるADDセミコンダクター(2001年設立)によって開発された規格である。

その後2009年に、PRIMEアライアンスが、イベルドローラ、STマイクロエレクトロニクス、TI、ランディス・ギア、アイトロン、カレントグループ(Current Group)、Zivグループ、アトメル・スペインの8社によって設立され(2013年3月時点で48社)、同規格の普及促進が行われている。

〔3〕IEEE P1901.2とITU-T G.990xシリーズの共存

これらの既存のG3-PLCとPRIMEは、図2の中央に示す地域ごとの「(2)既存技術」(ベンダ規格)に位置づけられるが、両者は、それぞれ図2の左の「(1)IEEE P1901.2(NB-PLC規格)」および図2の右の「(2)ITU-T G.990xシリーズ」〔G.9902、G.9903、G.9904。前出の図1(2)〕としても標準化が進められている。

図2 既存のPLC技術と「IEEE P1901.2とITU-T G.990xシリーズ」の関係

図2  既存のPLC技術と「IEEE P1901.2とITU-T G.990xシリーズ」の関係

〔出所 近藤芳展、NTTアドバンステクノロジ資料〕

すでにITU-Tの低速PLCであるG.990xシリーズについては解説したが、これと並行してIEEEでもナローバンドPLC(NB-PLC)向け標準「IEEE P1901.2」においてG3-PLC仕様、PRIME仕様を盛り込んだ標準が策定されている。2013年1月に正式ドラフトが承認されており、スポンサー投票が行われた後、2013年中には正式に標準化されるのではないかと思われる。

そして今後は、図2の下部に示すように、「IEEE P1901.2とITU-T G.990xシリーズ」の「共存仕様」が重要な課題となってくる。本来、両者は相互接続できることが理想的であるが、すでにシステムが普及してしまっている既存技術を含んだものとなっていることもあり、なかなか実現が難しい。そこで、少なくともお互いに「話し合いはできない」が、お互いに信号があった時に、「邪魔をしないこと」を趣旨として機能をつくることは可能である。これは「共存仕様」と呼ばれており、例えば、送受信する情報のタイムスロット(情報を入れる時間間隔)をうまく使い分けることによって可能になる。現在、米国のNIST〔前述した「NIST SGIP PAP15」〕が先導して要求条件を出しており、両者が共存できる仕様が策定されつつある。


▼ 注6
マキシム(Maxim):Maxim Integrated Products。米国のアナログインテグレーションベンダー、本社は米国カリフォルニア州。高性能半導体製品を設計、製造、および販売する企業。
http://japan.maximintegrated.com/company/newsroom/pr_corporate/show.mvp/npk/184

▼ 注7
OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing、直交周波数分割多重。複数の電波(マルチキャリア)を利用して、データ(情報)を高速に送受信する方式のひとつ。データを1つの搬送波〔キャリア(データ信号を乗せて運ぶ電波/周波数)〕に乗せて送信する方式ではなく、お互い干渉し合わない(直交する)複数の搬送波(マルチキャリア)を用いて、それぞれのサブキャリア(マルチキャリアを構成する各キャリア)にデータを分散させて多重化し、高速化を実現する方式。例えば、G.hnは4096本(電力線100MHzバンドプラン)、G.hnemは256本(FCCバンド)のサブキャリアを使用して高速化を実現している。

▼ 注8
PRIME:PoweRline Intelligent Metering Evolution、PRIMEアライアンス(本部:ベルギー・ブリュッセル)が開発している、スマートグリッド向けの電力線によるスマートメーター技術。

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