ITU-Tの低速PLC規格「G.nbplc」とは
スマートグリッドで使用される低速PLCのプロジェクトである新しいG.nbplcプロジェクトは、主に次のような特徴を備えている。
(1)電力システムの配電変電所から宅内系(電力消費者)に向けた中圧/低圧配電系統を使用した電力アクセス網「UAN」(Utility Access Network)と宅内系のホームネットワーク「HAN」(Home Area Network)を使用して、500kHz以下の周波数帯域を使用して情報を送受信する伝送方式であること。
(2)適用例として、例えば、
①AMI(Advanced Metering Infrastructure、スマートメーターの通信基盤)
②電気自動車の給電スタンドにおける通信
③あるいはスマートハウスのホーム制御
④HEMS(Home Energy Management System、家庭のエネルギー管理システム)向け
などのアプリケーションを想定していること。
(3)NIST SGIP PAP15注5における検討結果(要求条件)を反映し、ナローバンド周波数帯を使用する他のPLC方式との「共存規定も含んでいること。
以上のように、従来のG.9955/G.9956の標準体系の見直しが行われ、2012年10~11月に、新規にG.9901~G.9904などがG.990xシリーズとして勧告化(標準化)された。その結果、ITU-TのナローバンドPLC(低速PLC)標準体系(従来のG.hnem体系)は、表2のように整理されることになった。
表2 ITU-TのナローバンドPLC(狭帯域PLC)標準の新しい体系〔従来のG.9955/G.9956標準体系の見直しと新規のG.990xシリーズ標準(スマートグリッド関連)の追加〕
〔出所 近藤芳展、NTTアドバンステクノロジ資料〕
また、日本の経済産業省やJSCA(スマートコミュニティアライアンス)が、G3-PLC(後述のTTC標準:JJ-300.11)を低速PLCの候補として取り上げたことや、日本仕様を明確に国際標準にしていこうという動きがTTCで活発化していることもあり、それらを反映した形で、G.9901、G.9902、G.9903などの勧告に日本仕様が加えられ、標準化が行われるようになってきている。
表3に、欧州と米国、日本における低速PLCで使用される周波数帯をまとめたものを示す。日本の場合は、約10年前の2002年(平成14年)11月27日に策定された「ARIB STD-T84 1.0版:電力線搬送通信設備(10~450kHz)」標準規格が採用されている。
表3 欧州・米国・日本で使用される低速PLCの周波数帯
〔出所 近藤芳展、NTTアドバンステクノロジ資料〕
▼ 注5
NIST:National Institute of Standards and Technology、米国国立標準技術研究所。
SGIP:Smart Grid Interoperability Panel、スマートグリッド相互接続性パネル。NISTが2009年11月に立ち上げたセキュリティやスマートグリッドの相互接続性標準の開発などを目指す組織。スマートグリッド関連の標準を開発するために、優先順位を決めるPAPの策定・運営も行う。このSGIPは、2012年7月に独立した組織として「SGIP 2.0 Inc.」を設立、従来の「SGIP」から移行した。
PAP:Priority Action Plans、SGIPによる優先行動計画。PAP00~PAP18の19個のPAPがあるが、そのうちのPAP15〔テーマ「家庭内における家電機器通信のための電力線通信(PLC)規格の調和」〕のこと。