[スマートグリッドの実像に迫る!]

スマートグリッドの実像に迫る!

第5回 スマートグリッドと電力自由化の新展開
2013/06/01
(土)

スマートグリッド:国際的に大きな3つの出来事

このような歴史的な流れを背景に、2008〜2010年において、「スマートグリッド」が国際的に認知され普及するうえで、次に示すようないくつか重要な出来事があった。

〔1〕欧州の「20-20-20」の決定

1つは、EU(欧州連合)が2008年4月に公表した、「気候変動とエネルギーに関する包括的施策」である。EUはこの施策(パッケージ)において、EUの地球温暖化対策として、2020年までの目標値「20-20-20」を決定した。この「20-20-20」施策は、2020年までに、温室効果ガスの排出量を「20%削減する」、再生可能エネルギーの割合を「20%に増大させる」、エネルギー需要を「20%削減する」、という3つの目標を意味する。

〔2〕米国のNISTのリリース1.0の発表

2つ目は、米国のNISTのリリース1.0(ドラフト)の発表である。新たに就任したオバマ政権のもとで、米国のNIST注1は、2009年9月に、「スマートグリッドの相互接続性標準に関するフレームワークとロードマップ リリース1.0、ドラフト版」注2で「スマートグリッドの概念的参照モデル」を発表し注目を集めた。

〔3〕日本の「スマートコミュニティ・アライアンス」(JSCA)の設立

3つ目は、2010年4月に、日本において、NEDO(経済産業省傘下)を事務局としたスマートグリッドに関する国内最大の官民連携組織「スマートコミュニティ・アライアンス」(JSCA)が設立されたことである。このJSCAは、スマートグリッドおよびサービスまでを含めた社会システム(スマートコミュニティ)の国際展開や、国内の普及を推進する組織である。JSCAは、すでにエコーネットコンソーシアムやTTC(情報通信技術委員会)の協力を得て、画期的なスマートハウスにおける通信規格「ECHONET Lite」を策定したほか、国際標準化や新たなプロジェクトを推進している。

日本における電力の自由化の動向

以上、スマートグリッドの普及の背景やマイクログリッドと電力システムの関係を解説してきたが、一方、電力・エネルギー産業界には、現在、「電気の小売業への参入の全面自由化問題」や「発送電分離問題」注3など、電力事業の将来を左右する大きな自由化の波が押し寄せおり、日本でも経済産業省の「電力システム改革専門委員会」での検討を経て、2013年4月、重要な閣議決定がなされた。そこで、ここでは日本におけるスマートグリッドの推進とも深く関係する、電力自由化の動向について、簡単に整理しておこう。

〔1〕家庭・小規模以外は「電力の小売り」は自由化へ

周知のように、世界的な規制緩和の流れを受けて日本でも、1995年に電気事業法改正が行われた。この改正は、『一般家庭などへの電気の小売りは、電力会社(一般電気事業者)以外は禁止』されているなど、一定の制約はあるものの、日本における電力自由化にとっては歴史的な改正であった。

ここで電力の自由化とは、電気事業法で、

  1. 誰でも発電事業者(電力供給事業者)になれる「発電の自由化」
  2. 誰でも既設の送配電網を使って電力を送配電できる「送配電の自由化」
  3. どのような発電事業者からでも電力を買えるようにする「小売りの自由化」

などが、規制緩和されることである。

〔2〕電気事業法の改正といろいろな電力事業者の設立

このような動きを整理すると、表2に示すように、日本では1995年以降、いろいろなタイプの電気事業者が設立されるようになった。例えば、

  1. 1995年から電力会社に卸電力を供給(売電)する「独立発電事業者(IPP注4
  2. 2000年から新電力(PPS。特定規模電気事業者注5

などの参入が可能になった。これによって、異業種からの電気事業への参入が相次ぎ、「新電力」への新規ビジネスには、2013年4月現在、すでに81社のPPS事業者(一覧のURL:注5を参照)が参入している。

表2 日本における電気事業法の改正(電気事業制度改革)と電力自由化の主な流れ

表2 日本における電気事業法の改正(電気事業制度改革)と電力自由化の主な流れ

〔出所 東京電力「電力自由化の経緯」、http://www.tepco.co.jp/ir/kojin/jiyuka-j.html 経済産業省「電力小売市場の自由化について」(2012年4月)、http://www.enecho.meti.go.jp/denkihp/genjo/seido.pdf 経済産業省(閣議決定)「電力システムに関する改革方針」2013年4月、http://www.meti.go.jp/press/2013/04/20130402001/20130402001-2.pdfをもとに作成〕


▼ 注1
NIST:National Institute of Standards and Technology、米国国立標準技術研究所(メリーランド州ゲーサーズバーグ、1901年設立)。米国の商務省の傘下にあり、産業技術に関する規格の標準化を促進したり、調達仕様の策定などを行っている政府機関。

▼ 注2
“NIST Framework and Roadmap for Smart Grid Interoperability Standards, Release 1.0(Draft)”(http://epic.org/smartgrid_interoperability.pdf
このドラフト版においてNISTは、世界で初めて「需要家、市場、サービスプロバイダ、運用、大規模発電、送電、配電」の7つの領域(ドメイン)に分けた「スマートグリッドの概念的参照モデル」(ドラフト版の‘Figure2. Smart Grid Domains’参照)を発表した。これは国際的にも「スマートグリッドの基準モデル」として高く評価され、「スマートグリッド」という用語が広く受け入れられ定着し、普及するきっかけとなった。

▼ 注3
「発送電分離」問題:既存の電力会社の「発電事業」と「送配電事業」を切り離し、電力ビジネス分野への新規参入事業者者が「送電網や配電網」を公平に利用できるようにすること。

▼ 注4
IPP:Independent Power Producer、独立発電事業者(卸供給事業者)。東京電力などに一般電気事業者に電気を供給する「卸電気事業者以外の者」で、一般電気事業者と10年以上にわたって1000kW超の供給契約、もしくは5年以上にわたって10万kW超の供給契約を交わしている事業者(独立発電事業者)。現在は、Jパワー(電源開発)、日本原子力発電の2社がある。

▼ 注5
PPS:Power Producer and Supplier、特定規模電気事業者。新電力と名称を変更。2013年4月現在、81社のPPS事業者が参入。
http://www.enecho.meti.go.jp/denkihp/genjo/pps/pps_list.html

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