[特集]

弘前市長 葛西憲之氏に聞く 東北地方で初の「スマートシティ」の実現へ

― 世界一快適な雪国の誕生へ ―
2013/06/01
(土)
SmartGridニューズレター編集部

東北地方で初めての「スマートシティ」の実現へ

「さくらまつり」は弘前市役所近くの弘前公園で開催される。この時期、観光客は毎年約200万人訪れる。〔写真提供:弘前市〕

「さくらまつり」は弘前市役所近くの弘前公園で開催される。この時期、観光客は毎年約200万人訪れる。〔写真提供:弘前市〕

─『子ども達の笑顔あふれる弘前づくり』と『将来の弘前の持続的発展』を目指すためには、「子育て」「健康」「雪対策」が最重要課題とされているようですが、「弘前型スマートシティ構想」はこの中でどのような位置づけなのでしょうか?

葛西:「弘前型スマートシティ」は、まさに「雪」なのです。雪に対応した仕組みがないと、弘前型スマートシティとしての画竜点睛を欠くということになるのです。今まで50年営々と重機(除雪車)を主体にした除雪をやってきたわけですが、2012年度はその費用に当市では20億円、青森市においては43億円もかかりました。

「雪対策」については、環境にやさしいエネルギーを活用した低コストな融雪を市内に導入していくことで、重機による除雪によって住宅の間口に寄せられた「雪片づけ」から解放される。これによって、冬期間も歩道が確保されて歩きやすく、交通渋滞も解消され、市民が雪のない季節と同じように快適に生活できるような環境を作ることができ、活気あふれる街を構築したいと考えています。また、雪の冷熱を事業所や農産物貯蔵施設の熱源として有効活用することによって、「雪の克服」から一歩進んだ「雪との共生」を図っていきたいと考えています。

次に「健康」について、市内には弘前大学医学部があることから、救急救命センターも備える附属病院があるほか、市内には多くの病院があるのが特徴となっています。現在も他の都市に比べると医療機関が充実していますが、電子カルテの導入やICTによる医療情報の共有化によって、医療機関が相互に情報活用し、患者も診察や投薬の内容がわかることで、さらに市民が最適な医療サービスを受けられ、地域医療の機能強化が図られるようにしたいのです。

「子育て」について、我々は、後世にICTや再生可能エネルギーを活用したインフラを残し、子供たちが安心して活躍していける街を構築したいと考えていますが、スマートシティの構築そのものに、20年〜30年かかるものと思っています。このため、これから私たちが取り組んでいくことと並行して、子供たちにもスマートシティについて理解を深めてもらい、考えてもらう機会として「スマートシティアカデミー」を開設したいと考えています。

─弘前市が進めている対策については、国や県、近隣都市のエネルギー政策とどのように連携していくのでしょうか?

葛西:東日本大震災および福島原子力発電所の事故を踏まえ、国はエネルギーミックスや災害時の燃料供給体制、資源開発・確保等を検討し、中長期的なエネルギー政策の見直しをしていくこととしていますが、正にこれらを地方都市がどのように対応すべきかといった取り組みを、国に提案したり連携したりしながら取り組んでいきたいと考えています。

また、青森県は風力発電の導入量は日本一ですが、ほとんどの収入が県外の企業に回っている現状があります。これを踏まえて、県では県内の事業者が主体となって取り組んでいけるような「平成25年度青森県特別保証融資制度」注3という支援を実施しています。ですので、これに連携して取り組んでいきたいと考えています。

─連携のための課題などはありますか?

葛西:このような事業に取り組もうとするパイオニア精神のある民間事業者を、いかにして育てるかだと考えています。このため、民間企業が情報を共有する場として「弘前型スマートシティ協議会」を設立し、この中から企業同士が連携して取り組んでいくような動きにつながればと、期待しています。

─最終的な「弘前型スマートシティ構想」に対して、目標とすることや期待することは何でしょうか?

葛西:エネルギー的に最低限の自律ができ、冬期間でも、弘前市に住む市民が快適に生き生きとくらし、弘前に来訪するすべての人が快適に街歩きを楽しむことができて、「何度でも訪れたい」「ここに住みたい」と思える街となり、その結果として地域が活性化して持続可能な地方都市を形成することが、弘前型スマートシティの目標ではないかと考えています。

─弘前市のスマートシティ構想が成功すると、東北地方では初めてになりますね?

葛西:初めてです。人口が18万人くらいの規模の街ですから、私は逆に成功させることが可能かなと思っています。50万人、あるいは100万人規模の都市になると、なかなかその合意形成も難しいし、インフラにかかる費用も膨大になります。弘前市は、太陽光や地熱、バイオマスなどいろいろな選択肢を入れて、さまざまなことを組み合わせながら、全体のコーディネートができていく街の規模だと思います。

弘前市が、積雪の多い都市におけるスマートシティのモデルになり得る可能性は非常に高いと思っています。

─ありがとうございました。

【インプレスSmartGridニューズレター 2013年6月号掲載記事】

Profile

葛西 憲之(かさい のりゆき)

1970(昭和45)年4月 青森県庁入庁後、1992(平成4)年4月 企画部新幹線・交通政策課課長補佐、平成7年1月 土木部公園整備推進室長、平成10年4月 県土整備部空港整備推進室長、平成14年4月 県土整備部道路課長、平成16年4月 弘前県土整備事務所長、平成18年7月 県土整備部長などを歴任。2007(平成19)年3月 県を退職後、平成19年7月 道路公社、土地開発公社、住宅供給公社理事長。2007(平成19)年12月 弘前市副市長に就任。2010(平成22)年4月16日、弘前市長に就任。


▼ 注3
県内の中小企業者向けに、県が貸付原資の一部を取扱金融機関に預託し、これに取扱金融機関が自己の資金を加え、信用保証協会(または農業信用基金協会)の保証を付して、県が定めた融資条件により融資が行われる仕組み。「未来への挑戦資金」として、再生可能エネルギー発電設備の導入に係る事業に融資限度額合計4.8億円を設けている。融資期間は運転10年以内(据置期間2年以内)、設備15年以内(据置期間3年以内)。http://www.pref.aomori.lg.jp/sangyo/shoko/kenyuusi.html

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