[特集]

ビッグデータ時代のM2M最新動向

― 課題は国際標準化(oneM2M)と水平統合型アーキテクチャ ―
2013/07/01
(月)
SmartGridニューズレター編集部

ビッグデータ/クラウド時代のM2M(Machine to Machine)ネットワークとはどうあるべきか? M2Mネットワークとビッグデータの関係を整理したうえで、M2Mの構成要素や、垂直統合型から水平統合型へのアーキテクチャの移行の重要性について見ていく。また具体例としてコマツの「KOMTRAX」(コムトラックス)やNEC の最新の大規模プラント故障予兆監視システムなどを紹介する。

M2Mネットワークとビッグデータ

ビッグデータを構成する情報(データ)として、次のようなものがある。

  1. ブログやフェイスブック等のソーシャルメディアデータ
  2. オフィスで作成される電子メールや文書データ
  3. CRMシステムで管理されているDM用販促データ等のカスタマーデータ
  4. Webの配信サイトから提供される音声・映像等のマルチメディアデータ
  5. 販売管理システムにおけるPOSデータなどのオペレーションデータ
  6. ICカードやRFID、温度/湿度、加速度などのセンサーデータ
  7. ECサイトなどにおける購入履歴などのWebサイトデータ
  8. Webサーバで自動的に生成されるアクセスログ等のログデータ

このような多様な情報で構成されるビッグデータは、大きく「バーチャルなデータ」「リアルなデータ」の2種類に分類される。

前者は、ユーザーがインターネット上で入力するなどのデータや、Webの配信サイトから提供される音声・映像等のマルチメディアデータなどであり、例えばアマゾンのリコメンデーションサービス注1などはバーチャルデータを用いて実現されている。一方、後者は、実世界のセンサーネットワークにつながれたセンサーから生み出され収集される温度や湿度、加速度、照度などのデータのことである。すなわち、後者のリアルデータが、M2Mで扱うデータとなる。

センサーネットワークからM2Mへ

M2Mのベースとなるセンサーネットワーク(システム)は、温度センサー、湿度センサー、照度センサー、人感センサーなどといった多様なセンサーがネットワークに接続され、取得したセンサーデータを収集し、分析や制御などを行うシステムである。

一方、2000年初頭頃から‘ユビキタス’(Ubiquitous)という用語が普及し始めたが、このユビキタスにも2つの定義がある。

ユビキタスの意味として「いつでも、どこでも、誰とでもつながる」が広く捉えられてきたが、ユビキタスにはもうひとつ「リアルとバーチャルの融合」という意味もあった。しかし、この時期に‘センサーネットワーク’という用語が登場し普及し始めた。M2M、CPS注2、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)といった言葉は、このユビキタスの延長線上の用語として理解することができる。

また、最近、M2MやIoTという言葉がいろいろなところで使われ始めているが、これらはインターネット(1969年)を源流としてCPSや中国の物聯網(ウーレンワン)注3などと、多少の語源的な違いはあれ、ほぼ同義語なものである。

これまでの解説から明らかのように、M2Mは、基本的には次のような要素で構成される。

(1)各種のセンサーと

(2)これらを有機的に結合するセンサーネットワークであり

(3)そこに流れる情報は、基本的には人間の行動に起因した情報ではない

コマツのM2Mシステム「KOMTRAX」に景気予測の付加価値

それでは、M2Mの具体例としてどのようなものがあるのだろうか?

身近には、街のあちこちやオフィスビルなどに設置されている自動販売機の缶コーヒーなどの在庫状況を、携帯電話網を介しては遠隔から把握するシステムが普及している。

一方、企業におけるM2Mシステムとしてコマツ注4のKOMTRAX(Komatsu Tracking System、コムトラックス。図1)は、M2Mの代表例として有名なもののひとつである。

図1 コマツのKOMTRAXシステム

図1  コマツのKOMTRAXシステム

〔出所 http://www.komatsu-kenki.co.jp/service/product/komtrax/ をもとに作成〕

コマツは、世界各国に販売している建設機械に通信モジュール(例えばGSM注5モジュールなど)を設置し、コマツの建設機械のデータをすべて集め、建設機械の稼働状況を把握している。もともと通信モジュールを付けた狙いは、建設機械が盗難された場合に、遠隔から強制的に建設機械の動作をストップさせることにあった。

しかしその後、これを発展させて、コマツの販売代理店などが建設機械の消耗品の交換時期などを顧客に提案するというような付加価値を付け始めていった。さらに、建設機械のCO2の消費量も測れるため、代理店を経由して効率的な運転方法などを顧客に提案することも可能となった。このようにして、KOMTRAXに関するサービスが進化・発展していった。

ところが、建設機械などのメンテナンスや保守などのためのKOMTRAXシステムは、建設機械の稼働データを収集して分析することによって、景気の予測にも使える可能性がでてきた。これは、建設機械の稼働が多ければ公共事業がたくさんあるということであり、景気がよいことの指標にもなるためである。すなわち、KOMTRAXから上がってくるデータと経済(景気)の動向を相関付けられる可能性があることから、話題を呼ぶようになった。

このように、もともと盗難防止や機械のメンテナンスなどを目的にスタートしたKOMTRAXシステムが、景気予測のような、新しい別の分野にも使えるというのが非常に面白い点である。

なお、コマツは、2013年4月から2016年3月まで(2013〜2015年度)の新たな3カ年の中期経営計画「Together We Innovate GEMBA Worldwide」注6を発表し、新たなスタートを切った。同社は既存事業において、これまで取り込めていなかった潜在需要をもつ分野については、他社との積極的な協業も選択肢に入れて強化を図っていく。さらに、装着配車台数が2013年3月末時点で30万台を超えた「KOMTRAX」は、機能と活用方法を今後も進化させ、「KOMTRAX Plus」(コムトラックスプラス。鉱山機械管理システム)、および2013年度に導入を予定している、部品の状態や交換履歴の把握を可能にする「KOMTRAX Parts」(コムトラックスパーツ)とともに、さまざまな情報の「見える化」を実現していく。

これらに加えて、進化するKOMTRAXを最大限に活用することで、速やかな部品供給やサービス活動を実施するとともに、レンタルや中古車の循環事業やリテールファイナンス事業も含めたバリューチェーンを拡大し、顧客の満足度を高めていくことになった。


▼ 注1
リコメンデーションサービス:これまでの顧客の買い物の傾向を分析し、顧客の好みに合わせたお勧めサービスのこと。

▼ 注2
CPS:Cyber-Physical Systems。スマートグリッドやセンサーネットワーク(物理網)からの実際のデータと、IT(インターネット、サイバー網)が密接に結合したシステム。

▼ 注3
物聯網(ウーレンワン):中国の戦略的な産業振興策(2011〜2015年)を実現するための情報通信技術のひとつ。具体的には、RFIDやセンサーを利用したセンサー技術と情報通信網(インターネット)を組み合わせたネットワークのこと。

▼ 注4
登記社名は株式会社小松製作所。1921年創立。

▼ 注5
GSM:Global System for Mobile Communica-tions、欧州が中心になって開発した第2世代の携帯電話システム。事実上の世界標準となって広く普及している(日本ではサービスされていない)。

▼ 注6
http://www.komatsu.co.jp/CompanyInfo/press/2013042515133912756.html

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