[オラクルのスマートグリッド戦略]

オラクルのスマートグリッド戦略─前編─

― 統合ITベンダによる新しい電力システム改革 ―
2013/08/01
(木)

電力システム改革推進室の設立

同時に日本オラクルは、2013年4月25日より、エネルギー会社、電力会社、新規参入を検討している会社、または官公庁や自治体向けに、専任組織である「電力システム改革推進室」を新設し(図3)、支援体制を整えることも発表した。

図3 電力システム改革を支援する新体制:電力システム改革推進室の設立

図3 電力システム改革を支援する新体制:電力システム改革推進室の設立

Yuji Shibayoshi

この後ろには、オラクルコーポレーションの中に「ユーティリティー(公益)グローバル・ビジネス・ユニット」という公益分野の専門部隊が控えている。このたびの発表では、日本オラクルで電力システム改革を推進していくという立場の人間と、オラクルコーポレーション側のユーティリティーグローバル・ビジネス・ユニットの立場で、ともに連携して電力システム改革を推進していくという。

同推進室では、オラクルの電気・ガス・水道などの公益業界に特化したアプリケーション「Oracle Utilities」注3のほか、オラクルのERPパッケージ「Oracle E-Business Suite」やグローバル経営統合「Oracle Hyperion Enterprise Performance Management System」などのソフトウェアと、オラクルのデータベース・マシン「Oracle Exadata」やアプリケーション高速実行基盤「Oracle Exalogic」などのエンジニアド・システムズ(ソフトウェアとハードウェアを最適化したシステム)を組み合わせた統合ソリューションを提案していく〔詳細は9月号の「後編」で解説〕。

このような統合ソリューションを導入することによって、「料金・顧客管理」や「メーターデータ管理」をはじめ、「停電・配電管理」「マイクログリッド」「資材調達管理」「発電・送電設備保全管理」「設備計画の策定」「電気事業会計」「電力管理会計」「カンパニー制の導入によるグループ経営管理」などが実現可能となる。

日本の電力供給システムに対する具体的な提案

また、図4に示すように、「小売および発電全面自由化」分野においては、今後の日本の電力供給システム構築において、すでにいくつかのソリューションが考えられている。ここでは特に、電力小売事業者や現行の電力会社、または新規のPPS注4の小売参入企業に対してのソリューションの提供を視野に入れている。例えば、具体的なソリューションとして、「料金計算請求」や「顧客サービス」「メーターデータ管理」それらを実行するためのデータベースまたはオラクルのデータベース・マシン Oracle Exadataや、ハードウェアシステムも含めた提供の形態となる。

図4 これからの日本の電力供給システム:小売および発電の全面自由化へのソリューション提供(朱赤の部分)

図4 これからの日本の電力供給システム:小売および発電の全面自由化へのソリューション提供(朱赤の部分)

また図5に示すように、「発送電分離」分野においては、ビジネスの対象は既存の電力会社向けとなっている。

図5 これからの日本の電力供給システム:発送電分離分野へのソリューション提供(朱赤の部分)

図5 これからの日本の電力供給システム:発送電分離分野へのソリューション提供(朱赤の部分)

まず、発電の分野(図5の最上部)の効率化ということで、「発電設備保全」「資材調達管理」などの効率化、コストダウンなどのソリューションの提供がある。

また、送配電の分野(図5の上から2段目)では、「停電管理」や「マイクログリッド」関連の製品があり、これまですべて手づくりで作られていたシステムを、発送電部門が電力会社から分離された際に、今後どこまで手づくりでシステムを作り、どこまである程度アプリケーション(既存のアプリ製品)を取り入れてシステム作りをしていくのかという点での提案を考えているという。

さらに、送配電部門は各種の設備をもっているので、「設備管理」の効率化が可能な発電設備保全のソリューション提供も想定している。

それ以外については、電力会社の個別の課題が考えられる(図5の左側)。例えば「人事管理」または「電気管理会計」対応の会計系のシステム、東京電力が2013年4月から行っている「カンパニー制」にどう対応していくか、などである。

電力会社の管理会計は、実は電力会社にとって今まで最も苦手な分野であった。これは、例えば欧州が電力自由化になることになった際に、

  1. これまで国営だった電力会社が、管理会計というものにどのように対処していったか
  2. どのように経営を変えていったか

というように、単なる製品の提供だけでなく、経営の目線あるいは考え方の変化も含め、さまざまな情報提供とともにソリューションの提案を考えている。

オラクルは、システム基盤からセキュリティのシステム管理といったテクノロジー系のものから、業務系、メーターデータあるいは料金計算系、または顧客向けのコールセンター、マーケティングといった分野、またそれらの情報を使って分析していくようなビジネス・インテリジェンス注5用ソフトウェアまで、全包囲網での製品群を揃えている。

図6に、Oracle Utilitiesソリューションの概要を示す。

図6 Oracle Utilitiesソリューションの概要

図6 Oracle Utilitiesソリューションの概要


▼ 注3
Oracle Utilities:電力・ガス・水道など公益業界向けに特化した料金顧客管理や自動配電管理、メーターデータ管理、作業管理など、配電から小売業務までを支援するソリューション群。詳細は、www.oracle.com/goto/utilitiesを参照。

▼ 注4
PPS:Power Producer and Supplier、特定規模電気事業者。

▼ 注5
ビジネス・インテリジェンス(BI):企業の業務システムなどから蓄積される膨大なデータを、蓄積・分析・加工して、ビジネス上の意思決定に活用する手法や技術。

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