[期待高まる「洋上風力発電」とNEDOの戦略!]

期待高まる「洋上風力発電」とNEDOの戦略!≪前編≫ ―稼働した日本初の「銚子沖」と「北九州市沖」の実証実験をみる―

2013/09/01
(日)
SmartGridニューズレター編集部

風力発電と固定価格買取制度(FIT)

一方、再生可能エネルギーの普及・促進を目指して、政府は、2012年7月1日から「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)注3」をスタートさせた。

FITとは、再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)を用いて発電された電気を、一定価格で電気事業者(例:東京電力など)が買い取ることを義務付けた制度である。

その買取価格は、2012年度は表6に示す通りであり、これは毎年度見直される。

表6 再生可能エネルギーの調達価格(買取価格)・調達期間(買取期間)

表6 再生可能エネルギーの調達価格(買取価格)・調達期間(買取期間)

〔出所 http://www.enecho.meti.go.jp/saiene/kaitori/dl/2012setsumeikai.pdf

このうち、表6に示すように風力発電については、

  1. 20kW以上の風力発電設備の場合は、kWhあたり23.10円(買取期間:20年)
  2. 20kW未満の設備の場合は57.75円(買取期間:20年)

と、20kW以上の風力発電設備は太陽光発電に比べて、安価な買取価格となっている。

2013(平成25)年度に政府によって見直された買取価格は、表7に示すように太陽光発電のみ42円⇒37.8円となり、そのほかは据え置きとなった(表6と同じとなった)。

表7 2013年度の固定価格買取制度の見直し(注:太陽光発電のみ表のように見直された)

表7 2013年度の固定価格買取制度の見直し(注:太陽光発電のみ表のように見直された)

〔出所 http://www.meti.go.jp/press/2012/03/20130329001/20130329001.pdf

このような再生可能エネルギーの総発電電力量に占める割合を示したのが、図9である。図9(水力を除いている)からわかるように、再生可能エネルギーは2012年度時点で、総発電電力量の1.6%しか導入されていないことがわかる。

図9 我が国の再生可能エネルギー導入割合

図9 我が国の再生可能エネルギー導入割合

〔資源エネルギー庁:『再生可能エネルギーの拡大』総合資源エネルギー調査会 総合部会 第4回会合 資料2、平成25(2013)年6月27日〕

図9の右端の棒グラフを見ると、2012年度においては、バイオマスが0.5%、風力が0.5%、地熱が0.3%、太陽光が0.4%となっている。太陽光が0.4%と低いのは、太陽光の設備容量としては多いが日照時間が少ない(発電量が少ない)からである。

いずれにしても、日本の再生可能エネルギー(水力除く)の総発電電力量に占める割合は、まだ1%前後で推移しているのである。

世界の陸上の風力発電と洋上の風力発電の導入量

図10に、2012年時点における世界の陸上の風力発電と洋上の風力発電の導入量を示す。左側の折れ線グラフ(赤色の折れ線グラフ)が、全世界の陸上風力の累積発電量(導入量)を示している〔目盛りは図10左側の(GW)〕。

図10 全世界の累積の風力発電の導入実績(2012年現在)

図10 全世界の累積の風力発電の導入実績(2012年現在)

具体的には、陸上風力の累積発電量は277,072MW(=277GW))である〔注:1GW=1,000MW〕。

一般的に原発1基分の発電量は1,000MW (1GW)とよく言われるため、これを原発に換算すると、全世界では原発277基分(277,072MW÷1,000MW)の風力発電が導入されたに等しいと言われている。

一方、図10の黄緑色の折れ線グラフが、全世界の洋上風力の累積発電量(導入量)を示している〔目盛りは図10右側の(GW)〕。

具体的には、洋上風力の累積発電量は5410MW(=5.4GW)である。すなわち、原発に換算すると5基分が導入されていることになる。

また、図10の右に示す円グラフは、洋上風力発電の導入量の国別シェアを示している。この図からわかるように、洋上風力発電の導入量では、イギリスがダントツの1位であり、そのシェアは55%である。次いでデンマーク(17%)、中国(7%)、ベルギー(7%)、ドイツ(5%)、オランダ(5%)と欧州諸国がシェアを獲得していることがわかる。日本は0.5%と低く、まだこれからであることがわかる。

とくにイギリスは、国策として沖合に、洋上風力のためのエリア(設置場所)を「ラウンド1」「ラウンド2」「ラウンド3」注4というように決めている。このように、洋上風力発電の設置場所を決めて入札を行い、いろいろなデベロッパーや事業者がそこで洋上風力発電所を建てる権利を獲得し、洋上風車を運営していくという形となっている。このような仕組みで、イギリスは現在の世界の洋上風力発電を牽引しており、2020年までに11〜18GWの洋上風力タービンを設置する計画となっている。

またイギリスでは、特に景観の規制などが厳しいため、陸上風力用の適地がどんどん減ってきており、風力発電は陸上発電ではなく洋上風力発電への傾向が強まっている。さらに、欧州の場合は北海油田注5があるが、現在では、だんだん油の採掘量も減って低迷してきている。このため、北海油田関係の雇用をどうするかという課題が浮上し、雇用面からも北海油田地域に洋上風力発電の建設し推進されている。

今後、日本で洋上風力発電を普及させていくということになると、当然、海外の事例でも明らかになっているように、洋上風力発電は、陸上発電より建設コストがかってくることになる。

例えば、イギリスやドイツでも陸上風力より洋上風力のFIT(固定価格買取制度)のほうが高くなっている。このため、日本も今後欧州のように洋上風力発電のFITが制定されれば(前出の表6は、洋上風力発電ではなく陸上風力発電のFITのみ制定)、洋上風力発電はもっと加速されていくと期待されている。

日本の風力発電の導入実績

次に、日本の風力発電の導入状況を見てみよう。

前出の図6(日本の風力発電の導入実績)に示したように、風力発電の2012年度までの総設備容量は、約264万kW(約1900基設置)であり2000年頃から急速に伸びていることがわかる。この導入実績を都道府県別に見たのが図11のグラフである。

図11 日本の風力発電の実績(都道府県別)

図11 日本の風力発電の実績(都道府県別)

〔出所 NEDO、http://www.nedo.go.jp/library/fuuryoku/pdf/11_pref_dounyuu_ichiran.pdf

当然、陸上風力発電が主ではあるが、図11からわかる通り、風況のよい(風が強い)北海道や青森県(左端)、そして九州の鹿児島県(右端)が圧倒的に多いことがわかる。次いで、福島県や島根県、静岡県が多くなっている。(後編に続く)

【インプレスSmartGridニューズレター 2013年9月号掲載記事】

◎Profile

〓

伊藤 正治 (いとう まさはる)

NEDO新エネルギー部 風力・海洋グループ 主任研究員

2006年4月より新エネルギー技術開発部の風力担当を経て、2009年10月より現職。


▼ 注3
固定価格買取制度(FIT):Feed in Tariff、フィードインタリフ。再生可能エネルギー買取法(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法、略称「再エネ特措法」。2011年8月16日成立)に基づいて、2012(平成24)年7月1日から施行(開始)された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」のこと。年度ごとに見直される。
この法律によって、再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度(略して「全量買取制度」という)が導入され、再生可能エネルギー源を用いて発電された電気の全量を、国が定める一定の価格(固定価格)および期間で、電気事業者が買い取ることが義務付けられることとなった。

▼ 注4
イギリスでは海底の土地は、イギリス王室の資産管理会社であるThe Crown Estat(TCE)が管理しており、ラウンド1〜ラウンド3と順次、入札を行い、事業者とリース契約を行っている。ラウンド1では、開発海域は海岸線に比較的近くかつ水深の浅い場所が選ばれているが,ラウンド3 は海岸線から離れ,より水深の深い場所へ移動している.具体的にはラウンド3の最も遠い区域は海岸線から195km、最も深い区域は平均水深50mとなっている。

▼ 注5
北海油田:英国、ノルウェー、デンマーク、ドイツ、オランダの各経済水域にまたがる「北海」にある、150余りの海底油田・ガス田の総称。大半の油・ガス田は英国とノルウェーの経済水域の境界線付近に存在している。1960年にイギリス、次いでノルウェーや各国が油田の開発を開始した。

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