国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と日立造船は2018年8月10日、独自開発の「バージ型」浮体を採用した浮体式洋上風力発電機の実証機が完成したと発表した。バージ型浮体は、日本周辺海域の水深に合わせてNEDOが開発したものだ。
図 完成した実証機
出所 日立造船
日本周辺の海域でも洋上風力発電設備の導入が少しずつ進んでいるが、海底に基礎を建設し、そこから支柱を伸ばす「着床式」のものばかりだ。NEDOは、日本近海で洋上風力発電設備を導入可能な海域を調べたところ、海底に基礎を建設せずに海上に浮かせる「浮体式」設備を導入できる海域面積が、着床式を導入可能な海域のおよそ5倍に達するとしている。
2017年10月にはスコットランド北東部で世界初の商用浮体式洋上風力発電所「Hywind Scotland Floating Wind Farm」が完成し、運転を始めている(参考記事)など、浮体式洋上風力発電所の建設が本格化しつつある。ヨーロッパの浮体式洋上風力発電所では「スパー型」と呼ぶ、支柱を海底に向かって筒状に伸ばしたような形の浮体を利用している。そしてスパー型の浮体は、水深が100m程度の海域でなければ利用できない。
NEDOの調査では、日本周辺には浮体式洋上風力発電設備を導入可能な海域が大きく広がっている。しかし、その海域のほとんどが水深50~100mであり、スパー型をそのまま利用することは難しい。
バージ型浮体は鋼製の矩形に近い形をした構造物で、スパー型に比べると横方向の面積を取るが、浮体自体の厚みは10mで、そのうち海中に沈む部分は7.5m程度で済む。日本近海に広がる比較的浅い海域でも利用できる形だ。今回完成した実証機は、出力3MW(3000kW)の風力発電機を搭載しており、海底に9つのアンカーを設置し、9本のチェーンで浮体をアンカーに係留する。
図 バージ型浮体式洋上風力発電システム実証機の各部の寸法
出所 日立造船
実証機は北九州市沖15km、水深50mの海域まで曳航して、海底に係留する。陸上の電力系統と連係し、試運転の後に今秋から2021年度までの予定で実証運転に入る。
図 実証機の設置予定地点
出所 日立造船
今回の実証機開発では、日立造船が浮体の設計、製作、設置工事を担当し、グローカルが風力発電機の選定と係留機構の開発を、エコ・パワーが環境影響評価を、丸紅がコスト分析と関係各所との交渉を担当した。さらに、東京大学が実証機の性能評価と研究成果や洋上風力発電事業の意義を社会に発信する役目を担う。電力系統との連係協議と電力品質評価は九電みらいエナジーが担当する。