銚子沖と北九州市沖の洋上風力発電の実証実験の比較
これまで国内の風力発電は、陸上を中心に展開してきたが、将来、風況や立地の制約などの面から、陸上風力発電の適地が減少すると予想されているため、今後、風力発電の導入拡大を図るためには、膨大な可能性とよい風況が期待される、洋上風力発電への展開が必須となってきている。
そこで、NEDOは表1に示すような、「銚子沖」と「北九州市沖」の洋上風力発電の実証実験を開始した。
表1 銚子沖と北九州市の洋上風力発電の実証実験の比較
洋上風力発電のメリットとデメリット
洋上風力は陸上風力に比べて、
- 安定した強い風による効率的な発電が可能であること。
- 土地や道路(例:80〜90mもあるプロペラなどの輸送)の制約がなく、洋上に適した大型風車の導入(輸送も含む)が比較的容易であること。
- 景観、騒音の影響が小さいこと。
などのメリットが挙げられている。その反面、前編で解説したように、洋上風力は海上で設置工事をするため陸上風力の比べて非常に高い建設コストがかかってしまうというデメリットがある。また、日本の場合、陸上風力は、山などの影響で風がどんどん弱まっていき、さらに風自体もそのような複雑な地形のため乱れて安定していない面もある。
さらに、陸上の場合、80m程度の長さをもつような超大型風車のブレード(プロペラのこと)は、トンネルや道路幅の制限などのためトラックでは運ぶことができない。現在では発電容量3MW(=3,000kW)の風車が日本では最大のものであるが、これより大きい風車を設置しようとすると、輸送できなくなってしまう。
なお、図1に、1〜7MWの風力発電の最大出力電力(MW)とロータ(ブレード)の直径の関係を概略的に示す。図1から、風力発電システムの出力電力が大きいほどロータの長さも大きくなることがわかる。
図1 風力発電の最大出力電力(MW)とロータ(ブレード)の直径の関係
〔出所 NEDO「focus NEDO」、2012年No.47、15頁〕
風力発電と太陽光発電の設備利用率(稼働率)の違い
〔1〕ウィンドファームを単位とした展開
現在、陸上風力の場合の最大容量(最大出力)は、3MW(=3,000kW)であるが、洋上風力の場合は、海外では、5MW程度の最大出力がターゲットになっている。実際に洋上で導入されているのは3.6MWのものが多いが、だんだんとその最大出力も大きくなってきている。日本の洋上風力の北九州沖が2MW、銚子沖は2.4MWとなっている。
このように見ると、1基当たりの洋上風車の最大出力と太陽光発電の最大出力とは、ほぼ同じ程度の設備容量である(注:設備利用率は洋上風力30%以上、太陽光12%)。
ただし、洋上風力発電の場合は建設コストが高いので、洋上に風力発電を1、2基設置するのではなく、スケールメリットを生かして30〜50基などという、かなりの大規模で設置していかないと採算が合わなくなってしまう。このように、大量に群で導入される場合は「ウィンドファーム」(風車群。複数の風車を導入した場合の呼称)と呼ばれる。
陸上風力の場合においても、現在では発電設備のコストダウン等を目指して、ウィンドファームを単位とした風力発電を展開しているケースが増えてきている。
〔2〕発電設備の稼働率:太陽光10%、風力30%
さらに、発電設備の設備利用率の面から見ると、太陽光の場合は12%程度である。このように低いのは、太陽光の場合は夜間は発電しない(太陽が出ていない)からである。
例えば、メガソーラー(MW級の出力を備えた太陽光発電)は発電能力として、現在1M〜数MWの発電能力(定格出力)であるが、実際に発電しているのはその12%程度(設備利用率12%程度)で、約90%は発電していない。これに比べて洋上風力発電の場合は、夜間でも風は吹いているので、条件が良ければ稼働率は30%以上(設備利用率0%以上)となり、太陽光発電の場合の3倍程度になる。
〔3〕6600Vで電力会社と接続
また、前編の図5(2013年9月号)に示したように、陸上風力でも洋上風力でも発電電力を送電するのは、電力会社の電力系統(電力システム:送電線)である、例えば6600Vの配電系統に接続するときは、その電圧に合わせて変電所の設備で昇圧あるいは降圧している。今回の銚子沖および北九州市沖の実証実験の場合、両方とも地域の電力系統(配電系統:6600V)に接続されている。
銚子沖の場合は、東京電力の6600Vの配電系統に接続されている。銚子沖の発電システムの場合、内部で690Vの発電電圧を内部で2万2,000Vに昇圧しているが、陸上変電所では逆に降圧し、電力会社の電力系統の6600Vに変換して送電している。
一方、北九州市沖(発電電圧660V)の場合は、最初から内部で6,600Vに調整して出力しているため、昇圧も降圧もせずに、そのまま九州電力の電力系統に接続している。
〔4〕景観や騒音等の環境問題
そのほか陸上風力では、景観や騒音の問題がある。とくに陸上風力の場合には、低周波騒音問題(100Hz以下の騒音を低周波騒音という)がある。例えば、環境庁の調査では、陸上風力発電設備の近傍測定点において、(環境状況にもよるが)2Hz、25〜31.5Hz、50〜63Hz、160〜200Hz、400Hzの低周波騒音があることが報告されている注1。
これに対して洋上風力発電の場合には、3km沖というように陸から遠くなる(離岸距離が大きくなる)ため、騒音の影響が少ないので、大きな発電容量の風車を設置することが可能となる。