[視点]

M2Mシステムを活用した付加価値創造とイノベーションの本質

2013/10/01
(火)
稲田 修一 東京大学 先端科学技術研究センター 特任教授

イノベーションを生み出す考え方

〔1〕ICT分野の発展トレンドの理解

ICT(情報通信技術)分野は、ICT自体の急速な成長期を終え、次第に成熟期に移行している。成熟期の技術は、利用分野との協業で展開されることが多くなる。例えば、

  • スマートグリッド=電力+ICT
  • スマートカー=車+ICT
  • スマートヘルス=健康管理+ICT

などである。

多くのM2Mシステムは、その利用者のビジネスモデルのイノベーションに直結しているため、利用者側も戦略的な取り組みを行うことが多い。したがって、その構築はパートナーシップ的な考えで進めることが重要である。

また、集められるデータから得られる情報が新たな付加価値をもたらす鍵となることが多くなる。したがって、どのようなデータを集めるか、集めたデータからどのような価値を引き出すかを模索することとなる。このため、M2Mの構築に当たっては、デバイスメーカーやシステムベンダは、利用者の支援側に回ることが多くなろう。

このようなビジネス展開を考えると、先進的なM2M利用者と協業してデバイスやシステムを開発し、その成果物を多くの利用者に使ってもらうという発想が必要である。ICT分野の発展トレンドが、利用者主体になっているという変化を理解し、その変化に適合した仕組みを構築することが明日の競争力につながるのである。

〔2〕イノベーションの本来意味への回帰

イノベーションは「技術革新」と訳される。しかし、イノベーション論を確立したオーストリア出身の経済学者、シュンペーター博士は、この言葉をもっと広い概念でとらえている。

彼の定義では、イノベーションは、「新しい技術の発明だけではなく、新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革」なのである。つまり技術だけでなく、新しいアイデアが重要なのである。M2Mで集積したデータをどう活用するか、それはまさにアイデアが問われる世界である。

従来の訳語から来ているわけではないだろうが、日本人のイノベーションのとらえ方には技術偏重のきらいがある。前節で述べたように、ICTは成熟期に移行している。この段階においてICTに期待される役割は、利用者側における課題の解決や新たな付加価値を考えることである。デバイスやシステムを提供するだけではなく、それによって可能になる課題解決力や新たな価値創造力を提供することが重要なのである。

多くの経営者が、デバイスやシステムの提供は利益がでないと嘆いている。でも嘆く前にどうしたらイノベーションを起こすことができるのか、それを誘発する仕組み作りや考え方が何であるのか、基本に立ち戻って考えてほしい。

デバイスやシステムのみに価値を見出すのではなく、それを利用者のニーズに合わせた形で提供し、利用者側の課題解決や価値創造に貢献する最も効果的なパフォーマンスをもたらす仕組みづくりを含めて、デバイスやシステムの価値を考えるという発想をもつ必要がある。イノベーションの本来の意味に立ち戻り、新たな付加価値が創造できる領域、新たな変化をもたらす領域を見出して、デバイスやシステムの利用を進化させる、そこに我が国の未来があると感じるのである。

【インプレスSmartGridニューズレター 2013年10月号掲載記事】

〔参考文献〕

  • 『M2Mの最新動向と国際標準2013』、インプレスビジネスメディア、2013年
  • EnOcean(エンオーシャン)社ホームページ(https://www.enocean.com/en/home/)

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