[特集]

スマートグリッド時代になぜ直流が注目されるのか?

― 家庭から次世代データセンター、直流送電まで ―
2013/11/01
(金)

具体的なデータセンターの電源構成

図4 「石狩データセンター」の全体完成予定図(8棟のうち手前の長い2棟分が完成している)

図4 「石狩データセンター」の全体完成予定図(8棟のうち手前の長い2棟分が完成している)

〔出所 http://ishikari.sakura.ad.jp/

次に、データセンターにおける直流方式電源の特徴を具体的に見てみよう。

図4は、東京ドームの約1.1倍という広大な敷地(北海道石狩市)に設置された、さくらインターネットの「石狩データセンター」の全体完成予定図である。2011年11月に完成予定の8棟分のうち2棟が完成しているが、世界で初めて高電圧直流(HVDC注6)給電システムに対応したデータセンターである。

このデータセンターは、高電圧直流(HVDC)給電システムである「HVDC 12V方式」(サーバは直流12Vで動作)を採用。これによって、従来型のデータセンターを100とした場合、石狩データセンターの消費電力は、図5に示すように、

  1. 外気冷房(北海道は気温が低い)の効果と新たなAC方式による給電で60%と下がり、
  2. HVDC 12V方式を導入した場合には、そこからさらに10%程度下がり、半分の50%まで低下している

など、大幅に削減できるようになった。

図5 従来型に比べ50%も電力を削減した「石狩データセンター」の効果

図5 従来型に比べ50%も電力を削減した「石狩データセンター」の効果

〔出所 http://www.sakura.ad.jp/press/ 2011/0509_hvdc.html

新世代の直流電源「HVDC 12V方式」の仕組み

〔1〕従来のAC方式は3回も変換

次に、HVDC 12V方式の仕組みを簡単に見てみる。

高圧直流電圧(HVDC)を用いて12Vを提供するHVDC 12V方式は、従来のAC方式での給電システムと比較して、IT機器部分での電力損失が少なくなるため、電力の利用効率のよい方式となっている。さらに、高価なUPS注7やサーバ内部の電源ユニットが不要となるなど設備構成がシンプルであるため、コスト面でも大きな優位性をもつ給電システムとなっている。

従来のAC方式では、安定した交流電源を確保するために受電設備にUPSを設置しており、UPS内部の蓄電池(バッテリー)はDC方式で稼働している。このため図6に示すように、

  1. まずUPS部でAC ⇒ DC ⇒ ACと2度のAC-DC変換が行われ
  2. さらにサーバ内部(図6の右側)の電源ユニットでも再度AC- DC変換が行われる

など、合計で3度ものAC-DC変換が実行される。このような変換時には必ず電力損失が伴うため、AC方式での電力効率は70〜80%にとどまってしまうのである。

図6 直流方式(HVDC 12V方式):電力効率改善と設備投資の低減を同時に実現

図6 直流方式(HVDC 12V方式):電力効率改善と設備投資の低減を同時に実現

〔出所 http://www.sakura.ad.jp/press/2011/0509_hvdc.html

〔2〕HVDC12V方式:変換は1回のみ

これに対して、今回のHVDC 12V方式では、図6の下図直流方式に示すように、ACで受電した電力をPS(Power Supply)ラックでHVDC(高電圧直流。直流340V)に変換する。それ以降は、直流のまま一気にサーバまで電力供給を行うため、AC-DC変換は1度限りとなる。

そして、高電圧のHVDCは集中電源が設置されているサーバラックで、12Vまで降圧され、各サーバに給電される。この結果、HVDC 12V方式では、総合的な電力利用効率は90%以上となり、従来のAC方式と比較すると画期的に高い電力利用効率を実現できるようになった。

図7は、図6の下図の直流方式の図をより回路的に表したものである。図を見ると、受電した交流電力をPSラックで整流(直流340Vに変換)して、DC12Vサーバラックに送り、停電時には、蓄電池(288V)から給電していることがわかる。

図7 HVDC 12V(直流方式)の具体的な回路例

図7 HVDC 12V(直流方式)の具体的な回路例

〔出所 さくらインターネット「新直流給電システムへの挑戦」、2013年4月17日〕

〔3〕直流化によるメリットとデメリット

(1)メリット

このように、データセンターを直流化することによって、「設備投資は低くなる」「電力効率もよくなる」「故障ポイントも減る」という、3つの大きなメリットがある。

(2)デメリット

①市場のサーバの課題

一方、データセンターを直流化にした場合のデメリットの1つは、交流のコンセントをもつサーバを直流対応の装置に変える必要があることである。市場には、交流用のコンセントをもつサーバが主流のため、そのようなサーバはそのままではすべて使えない。これが大きなデメリットとなる。

②顧客の持ち込みサーバ

さらに問題になるのは、データセンターは自前の統一したサーバだけでなく、顧客のサーバを預かるビジネスもしている。このため、顧客が交流用のサーバを購入し、そのサーバをデータセンターへ持ち込むときに直流用に改造する必要がある。このため、これがハードルの1つになる。

なお、さくらインターネットでは、顧客のサーバを預かるビジネスにおいては、交流でそのまま対応できるようになっている。

(3)HVDC導入による効果

以上のように、HVDC導入による効果のメリットとデメリットを解説してきたが、メリットに着目してHVDC導入による効果を整理すると、次のようになる。

  1. 直流・交流の変換回数が削減できることから効率性が改善できること。
  2. 構成がシンプルで系統連係も容易なことから信頼性が向上すること。
  3. 設備の数を削減できるため投資コストを抑制できること。
  4. サーバのAC電源が不要となるため、発熱源やノイズなどを削減できること。

▼ 注6
HVDC:High Voltage Direct Current、高電圧直流。石狩データセンターでは、500ラックのうちの約20ラックが直流環境となっている。

▼ 注7
UPS:Uninterruptible Power Supply、無停電電源装置。

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