[特集]

スマートグリッド時代になぜ直流が注目されるのか?

― 家庭から次世代データセンター、直流送電まで ―
2013/11/01
(金)

HVDC+太陽光発電による複数電源で省エネを実現

さらに石狩データセンターでは、再生可能エネルギーである太陽光発電も取り入れる計画である。太陽光発電からの電力は直流であるため、電力会社に売電したり、あるいは交流機器を動作させたりするためには、パワーコンディショナー(パワコン)で直流を交流に変換するのが一般的である。しかし、パワコンで直流から交流に変換する際、必ず10%程度の電力損失を伴うため、利用効率は90%程度にとどまってしまう。

これに対して石狩データセンターでは、HVDCと太陽光発電をあわせて利用することによって、太陽光発電からの直流電源を電力会社に売電することなく、直接データセンターで利用する実証実験なども行っている(図8)。これによって、パワコンによる直流-交流変換による電力損失を抑えることが可能となる。

図8 太陽光発電を導入した場合の石狩データセンターのイメージ

図8 太陽光発電を導入した場合の石狩データセンターのイメージ

〔出所 さくらインターネット「新直流給電システムへの挑戦」、2013年4月17日〕

また、パワコンは高価な機器であり、10〜15年で交換が必要となるため、パワコンレスとすることによって、設備コストの削減と信頼性の向上も実現できるとともに、地産地消型の直流電力供給が可能になる。

欧州および中国で活発化する直流送電

ここまで、交流電力の環境下での直流給電について見てきたが、一般家庭やオフィス、データセンターなどに、電力会社から直流で送電されるようになれば、AC-DC変換する必要もなく、効率的に電力を利用できるようになる。直流送電については、すでに世界各国で実用化されているので、ここで特徴的な直流送電の動きを見てみよう。

〔1〕日本では2カ所で直流送電

関係者以外にはあまり知られていないが、日本でもすでに東日本と西日本の2カ所で直流送電が行われている。

(1)東日本では、津軽海峡を経由して、北海道(函館変換所)〜本州(青森県・上北変換所)間を結ぶ「本州北海道連係線」(略称:北本連系)が直流送電を行っており、電源開発が運用している。これは、1979年に運転が開始され、送電電圧は直流±250kV、送電距離は167kmとなっている

(2)西日本では、瀬戸大橋を経由して、四国(徳島県・阿南変換所)〜本州(和歌山県・紀北変換所)間を結ぶ「紀伊水道直流連系線」が直流送電を行っており、関西電力、四国電力、電源開発が運用している。これは2000年に運転が開始され、送電電圧は直流±250V、送電距離は100kmとなっている。

ここでいう連系線とは、電力会社間で相互に高電圧の送電線網を接続し、予期しない事故などによる発電所の停止などによって電力事情の逼迫が生じた場合に、電力会社間でお互いに電力の融通を行って補う仕組み(電力会社間の連系)のことである。

このような直流送電は、

  1. 電力会社間の系統(電力システム)の連系によって、発電所の建設を抑えることができ(不足分は他の電力会社から融通されるため)、電力コストを削減できること
  2. 直流送電線の本数が交流送電線の場合より少なくできるため、建設費のコストを安くできること
  3. 連系相手の系統で周波数の擾乱(じょうらん。乱れ)が発生しても防止できることや、事故時に異常電流が発生しても、接続相手への影響を防ぐことができること

などの利点を備えている。

そのほか、交流送電の場合は、送電線間で「静電容量」(コンデンサのようなもの)が発生し電気が漏れ(リーク)てしまうなどの現象が起こる。そのため、並列にした長距離の海底送電線などの場合は、送電線間の距離が狭くて済み、電力のリークが少ない直流送電が行われている。

〔2〕活発化する欧州や中国の直流送電

直流送電については、日本だけでなく世界各国でも熱心に取り組まれている。例えば、地球温暖化対策に向けて、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーを積極的に推進する欧州では、「欧州スーパーグリッド」などの直流送電プロジェクトなどを走らせている。これによって「温室効果ガスの排出量を20%削減する」「再生可能エネルギーの割合を20%に増大させる」「エネルギー需要を20%削減する」など、欧州の「20-20-20」(EU 20-20-20 Targets)戦略実現の一端を推進している。

また、国土の広い中国では、長距離・大容量の送電網の敷設が国家的な課題となっており、今後新設される長距離送電線の大半は直流送電を導入する計画となっている。すでに2009年12月には、中国の雲南省と広東省間で、送電距離1,373kmのUHV注8の直流送電網の運転が開始されている。これに続いて2010年7月には、四川省と上海市間に1,907kmと、世界最長のUHV直流送電網(送電電圧:±800kV)の運転が開始された。さらに、4万㎞に及ぶUHV基幹送電網を整備する計画が推進されており、現在急ピッチで開発が行われている。

超電導直流送電システムを視野に入れた今後の展望

本記事では、「直流か交流か」を巡る最新の状況を概観してきたが、国際的に見ると、送電効率の向上や運用コストの削減、再生可能エネルギーの急速な普及などを背景に、今後、家庭やオフィス、データセンターから送電網に至るまで、直流化への流れが急速に進展していくものと推測される。

さらに、さくらインターネット、中部大学、住友電気工業、千代田化工建設などは、経済産業省から「高温超電導直流送電システムの実証研究」の委託事業を受け、北海道石狩市の石狩湾新港地域において、将来の長距離送電システムを実用化するための技術的課題などの実証研究をスタートさせている(2013年4月〜2015年3月の2年間)注9

IEC(国際電気標準会議)をはじめとする国際標準機関においても直流に関する国際標準化も活発化してきており、目を離せない状況となってきている。

◎取材協力

田中 邦裕(たなか くにひろ)氏

田中 邦裕(たなか くにひろ)氏

さくらインターネット株式会社 代表取締役社長

1978年 大阪府生まれ。
1996年 国立舞鶴工業高等専門学校在学中にさくらインターネットを創業。

当時国内ではまだ珍しかったレンタルサーバサービスを開始。高専卒業後に法人化し、1999年にさくらインターネット株式会社を設立。そのほかインターネット業界発展のため、各種団体に理事や委員として多数参画。


▼ 注8
UHV:Ultra High Voltage、送電電圧±800kV

▼ 注9
http://www.sakura.ad.jp/press/pdf/20130617_choudendo_pamphlet.pdf

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