[特集]

スマートグリッド時代に期待されるスマートなパワーエレクトロニクス技術

2013/12/01
(日)

スマートグリッド時代を迎え、パワーエレクトロニクスが急速に注目を集めている。ここでは、まず直流給電におけるパワーエレクトロニクスとは何かを解説していく。その後、パワーエレクトロニクスが活躍する分野について、データセンターの例を挙げて省エネ化の実現例を紹介する。さらに電力変換のキー技術であるAC-DCコンバータやDC-DCコンバータ、パワーコンディショナー(PCS)などの役割を解説した後、今後の展開と期待について述べる。

スマートグリッド時代のパワーエレクトロニクスとは?

〔1〕問題となっている家庭・商業部門の消費電力

パワーエレクトロニクス(Power Electronics)とは、直流・交流の電力あるいは周波数の変換などを、迅速にしかも効率的に行う技術である。

最近、二酸化炭素(CO2)の削減あるいは東日本大震災のような災害時への対応として、省エネなどの緊急の課題が注目され、政府の閣議決定である科学技術基本計画、経済産業省・技術戦略マップなどでも取り組まれている。

現在、日本の電力消費の状況をみると、産業部門の電力は省エネ化がかなり進んでいるが、家庭・商業部門の電力は1973年に比べて逆に2倍以上に増え、日本の全消費電力の約1/3を占めるほどに増大していることが問題視されている。

家庭や商用ビルにおいても省エネを飛躍的に実施するためには、図1や図2に示すような交流(AC)あるいは直流(DC)配電による家電機器や照明機器はもとより、今後設置が増えると予測される太陽電池やバッテリーのエネルギー管理機器などに用いられる電源や電力変換器を省エネ化することも求められている。

そのため、これらのシステムを設計し駆動するパワーエレクトロニクス技術や、それらを有効に使うためのエネルギー管理技術である、家庭用のHEMS(Home Energy Management System)や商用ビル用のBEMS(Building and Energy Management System)の開発が活発に行われている。

〔2〕DC-DC、AC-DCコンバータの統制

スマートグリッドの一環として、各家庭にスマートメーターやHEMSコントローラを設置し、家庭内のエアコンやテレビなどの家電機器の消費電力を節電する「省エネ」、屋根に設置された太陽光発電(太陽電池)による「創エネ」、余剰電力の「畜エネ」さらには電力会社などへの「売電」、プラグイン機能を備えた電気自動車と家庭の間の「充放電の制御」を行うことなどが考えられている。

そのためには、効率良くエネルギーを創り、各機器へ適切に供給できることが重要となる。場合によってはそれぞれの機器を安全に停止したり、逆に急峻に立ち上げたりする必要も出てくる。

このような背景から、図1に示す電力の変換器注1である、

  1. DC-DCコンバータ(直流-直流変換器)
  2. AC-DCコンバータ(交流-直流変換器)
  3. DC-ACインバータ(直流-交流変換器)

などが、いまだかつてないほどの数が導入されてきている。このため、これらの変換装置を統制して動かさなければならないという事態が生じている。

図1 AC(交流)配電によるHEMS

図1 AC(交流)配電によるHEMS

〔3〕再生可能エネルギーから常に最大限のエネルギーを

DC-DCコンバータやAC-DCコンバータなどの変換器には、もともと、それぞれに接続された各種機器(家電や空調設備)に、安定的に電力を供給するという基本的な働きがある。しかし、このような新しいシステムではこれらの他に、例えば、それぞれ太陽電池や風力発電機などの再生可能エネルギーから、自然環境が変化しても常にエネルギーを最大限に引き出すというような機能が求められている。

太陽光発電の場合、夜間には太陽が沈んでしまうため、発電することは不可能になる。そのため、それを補うために、家庭では商用の交流電力線との接続や他の燃料電池やバッテリーで、電力を補完しなければならない。

このような理由から、新たな機能をもったDC-DCコンバータなどの追加が必要になってくる。当然ながら、それらを統括し制御する機能も追加しなければならない。

このように、スマートグリッド時代を迎えて、これからの家庭や商用ビルに設置される機器の電源システムは、太陽電池などの再生可能エネルギーを含んだ場合は確実に省エネが実現できる。しかし、再生可能エネルギーを含まない場合も省エネを計ろうとすれば必然的に、家庭や商用ビルに設置されたいろいろな機器の連携が求められるようになるため、ネットワーク化が進むことになる。

その結果、システムの構成要素とその運用は複雑になって行くと考えられる。

〔4〕直流(DC)配電システムの検討

そこで、少しでも電力変換器の数を減らし、システムの構築や設計コストの低減やエネルギー管理機能の簡略化を目指して、図2のような直流(DC)配電システムが検討されている。また、図2からわかるようにほとんどAC-DCコンバータを用いる必要がないため、電力変換器の数が減ることになる。その結果、全体の電力効率も改善できるのではないかという期待が寄せられている。

図2 DC(直流)配電によるHEMS

図2 DC(直流)配電によるHEMS

現状では家庭や商用ビルに敷設されている配電システムはほとんど交流(AC)配電であるが、今後は直流(DC)配電が計画されており、国際的な検討が開始されている。しかし、いずれにせよ再生可能エネルギーを利用し、省エネを目指すグリーンエネルギーを実現するスマートグリッド時代には、高効率で統制がとれた制御が可能な電力変換器によって、エネルギー管理システムを実現するスマートなパワーエレクトロニクス技術が望まれることは確かである。


▼ 注1
電力変換器を総称してコンバータという。一方インバータとは、直流電力から交流電力を電気的に生成する(逆変換する)装置のことで、そのうちDC-AC変換を、DC-ACインバータと呼ぶ。

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