[特集]

スマートグリッド時代に期待されるスマートなパワーエレクトロニクス技術

2013/12/01
(日)

AC-DCコンバータとその役割

次に、AC-DCコンバータとその役割について簡単に説明しよう。

図8に、AC-DCコンバータの代表的な回路構成を示す。

図8 AC-DCコンバータ

図8 AC-DCコンバータ

図9 入力電流iacおよび入力電圧eac波形

図9 入力電流iacおよび入力電圧eac波形

ここでは、最も一般的な昇圧形コンバータ(入力電圧よりも高い電圧で出力を得るための回路)を基本として説明する。入力の交流電圧eacは、入力側の入力フィルタと整流ブリッジを通して、リプル電流注8を直線になるように平滑化することと、全波整流注9を行う。さらに昇圧形コンバータの入力電圧と出力電圧を検出して出力電流の基準値を作り、図9のような力率1(電流と電圧の位相が同じ。ずれがない)の実現する力率改善の制御を行っている。

交流電圧を直流電圧に変換するためには、整流回路とキャパシタの縦続接続による方式もある。しかし、大容量化や並列で多くのコンバータを動かすことによって、力率の低下に伴う効率の低下や高調波注10電流の歪みが顕著に現れることなどを考慮すると、コスト高になったとしてもAC-DCコンバータを備えたほうが得策と思われるようになってきている。

このようにAC-DCコンバータは、電気自動車のバッテリー充電器などにおいても必須の技術であり、今後、新しいスイッチング素子やスマートなパワーエレクトロニクス技術の適用によって、大きな技術変化が期待できる分野である。

DC-DCコンバータとその役割

〔1〕常に安定した直流電圧を負荷側に供給すること

次に、DC-DCコンバータとその役割について簡単に説明しよう。

図10に、前出のAC-DCコンバータ(図8)の後段に直流-直流電力変換器のDC-DCコンバータを付加した場合の構成図を示す。DC-DCコンバータの役割は、AC-DCコンバータによって直流に変換された電圧を、負荷としての電子機器などが要求する電圧に変換する装置であることである。また、DC-DCコンバータは、入力としてのAC-DCコンバータの出力電圧や負荷条件が変わっても、常に安定した直流電圧を負荷側に供給することである。

図10 DC-DCコンバータの役割

図10 DC-DCコンバータの役割

〔2〕DC-DCコンバータの原理

その原理は、図11に示すように、入力エネルギー(直流電圧:Ei)をスイッチ素子SWで高速にオン・オフし、その後、インダクタ(コイル)とキャパシタ(コンデンサ)で平滑することによって、再び直流(Eo)に変換するものである。そのオン時間Tonとオフ時間Toffの割合である「時比率」をスイッチング周期Tsごとに制御し、図11中の式に則って出力電圧Eo(直流)を常に安定化している。式中のEiは入力電圧、rは回路のスイッチング損失や抵抗損失等の内部損失を抵抗で表したものである。Eiが低下したり、負荷としてのコンピュータなどの電流容量が増えて負荷(出力)電流Ioが大きくなったりすると、Ton/Tsを増加させることによりEoの低下を防ぐフィードバック制御を行っている。

図11 DC-DCコンバータの原理

図11 DC-DCコンバータの原理

図11のように、DC-DCコンバータは比較的簡単な回路構成ではあるが、

  1. 高周波(数100kHzから数MHz)でのスイッチング動作
  2. 直流に変換するための低周波領域〔(1)のスイッチング周波数の100分の1程度〕で動作する平滑回路

という2つの周波数領域を混在してもっており、制御のうえでの難しさが存在する。

とくに近年は、CPU用の電源であるVRM(Voltage Regulator Module注11)に代表されるように、負荷の急峻な過渡応答に対応しなければならない場合も多く、ここでも新奇なアイデアであるデジタル制御に基づくスマートパワーエレクトロニクス技術の適用が期待されている。

パワーエレクトロニクスの今後の展開と期待

スマートグリッド時代を迎えて、AC-DCコンバータとDC-DCコンバータの需要はますます増えていく傾向にある。家庭内や商業ビル、あるいは工場などにおけるさまざまな機器を効率良く、しかも省エネで動作させようとすれば、必ずスマートなパワーエレクトロニクス技術を駆使しなければその目的は達せられない。コンピュータシステムにおいてもクラウドで運用するためには、その電源システムもクラウド化され、必要最小限の電源がスマートなパワーエレクトロニクス技術のもとにアダプティブに稼働しなければ、真のクラウド化は実現されない。

電力を情報技術で効率良く運用するスマートグリッド時代のキーとなる技術の1つが、スマートなパワーエレクトロニクス技術である。しかし一方で、その技術自体も高性能な半導体素子(DSP:Digital Signal Processor、デジタル信号処理プロセッサ)の開発などを通じて情報技術の進歩に頼っているという側面がある。

また、スマートなパワーエレクトロニクス技術を備えた最新の電力変換器自体もその特徴である制御部を含んで省エネ化を進めなければならない、という社会からの要請がある。

これらすべてのことを満足させる、複雑で欲張りな技術の展開が今後さらに望まれるようになるが、スマートなパワーエレクトロニクス技術はさまざまな新しい技術を組み込みながら成長しており、複雑で欲張りな要望に応え得ると期待している。

◎Profile

黒川 不二雄 (くろかわ ふじお)

黒川 不二雄 (くろかわ ふじお)

長崎大学大学院工学研究科 電気・情報科学部門電気電子工学分野 教授

1976年3月福岡工業大学工学部電子工学科卒業。1977年4月同大工学部助手。1984年長崎大学工学部助手、2010年より工学部教授。

現在、大学院工学研究科副研究科長及び工学教育センター長。工博。スイッチング電源、高速デジタル制御、太陽光発電システム、照明用電子安定器等の研究に従事。再生可能エネルギーやパワーエレクトロニクスの国際会議委員長等を歴任。IEEEフェロー。


▼ 注8
リプル電流:脈流電流。直線でなく波を打っているような直流電流。

▼ 注9
全波整流:交流のプラスとマイナスの波形を両方ともプラスの直流に変換すること。出力を入力側に戻す操作のこと。

▼ 注10
高調波:50Hz・60Hzよりも高い周波数。

▼ 注11
VRM:Voltage Regulator Module、家庭用電源AC100VをPC内部で使用するCPUに適応した直流電圧(多くは1.5V以下)に変換するための装置。

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...