[スペシャルインタビュー]

国際標準である「KNX」がいよいよ日本市場へ進出

KNX 協会会長 Heinz Lux(ハインツ・ラックス)氏に聞く!
2014/01/01
(水)

欧州発の住宅(家庭)とビルのエネルギー機器を制御できる規格「KNX」が、2014年2月27日、その普及促進のための組織“KNX National Group Japan” を設立する。日本ではECHONET Lite、米国ではSEP 2 については耳慣れているが、ISO/IEC の国際標準となっているKNXについては、その詳細は日本ではあまり知られていないのが実情だ。
KNX National Group Japan の設立に先駆けて2013年10 月24日、横浜ベイホテル東急で“KNX National Group Japan Kick-Off meeting” が開催された。KNXは果たしてどのようにして日本市場に食い込んでいくのか、この機会に、KNX協会会長のLux 氏に、KNXの詳細や日本市場への取り組みをお聞きした。

KNXとは?
― 世界で唯一の家庭とビル両方を制御できる国際規格 ―

Heinz Lux

─ 新谷:日本ではまだあまりKNXが知られていませんが、KNXという言葉を耳にしたことがある方でも、欧州で用いられている「ビル制御のための通信プロトコル」と認識している方がほとんどではないかと思います。私自身もそうだったのですが、実際にお話をうかがい、Hager(ヘイガー)KNX研修センターを見学させていただいて、KNXに対する認識を新たにした次第です。

 本誌にも、スマートグリッド関連の標準規格に関心をお持ちの読者が多数いらっしゃいます。そこで本日はLuxさんに、KNXの本当の姿をご紹介していただこうと思います。

 最初に、KNXとは一言でいうとどのようなものなのでしょうか?

Lux:KNXは、ビルの制御だけではなく、家庭とビルの両方の制御を行うことができるオープンな国際規格です。

 ご存知の通り、ホームオートメーションの規格やビルディングコントロールの規格はたくさんありますが、家庭とビル両方の制御を行うことができる国際規格は世界でKNXただ1つしかありません。

─ 新谷:両方の制御を行うことができる規格は世界で1つしかないということですね。それでは、KNXはどのようにしてできたのでしょうか。

Lux:KNXは、それまで十数年来欧州で培われてきた設備系オープンネットワーク標準のEIB(European Installation Bus)をベースとして、ホームオートメーション標準のEHS(European Home System)、およびフランスで生まれた冷暖房空調設備(HVAC)ネットワーク標準のBatiBUSが集大成されたものです。したがって、元は欧州で用いられていた、主にビル制御のための通信プロトコルであったことは確かですが、EIB、EHSという名称に共通するE(欧州)を捨ててKNXとなった時点から欧州以外への普及をめざし、今や世界124カ国でKNXが使われています。

─ 新谷:KNXは何かの略称なのでしょうか?

Lux:当初、欧州で使われていた3つの標準EIB、EHSおよびBatiBUSをつなぐものというニュアンスでKonnex(コネックス)と呼ばれていましたが、その後KNXとなりました。これは、特に何かの略称というわけではありません。

KNX協会とKNX National Group
― 世界36カ国300以上の企業がKNX協会員 ―

Takayuki Shintani

〔1〕KNX協会について

─ 新谷:さてKNX協会注1についてですが、どのような組織なのでしょうか?

Lux:KNX協会は、1999年に設立された、KNXという規格の開発・普及を図る団体で、現在では世界36カ国300以上の企業がKNX協会員となっています。また、単にKNX仕様を整備するだけでなく、KNX製品を用いたホーム・ビル制御システムの設計・テストツールの開発や販売も行っています(表1)。

表1 KNXの概要

表1 KNXの概要

〔出所 KNX協会のホームページより〕

─ 新谷:営利団体なんですか?

Lux:はい。ベルギー国内の営利組織(Profit-oriented Organization)注2として登録されています。KNX協会の収益の1/3はKNX協会員からの会費収入で、残りの2/3は、KNX関連のツールからの収益です。ツール関連の収益は、更なるツール開発・改良のために使い、KNX協会のその他の活動は会費収入で賄われていますので、事実上は非営利団体と思っていただいても良いと思います。

─ 新谷:KNX協会の組織について教えていただけますか?

Lux:ベルギーのブリュッセルにあるKNX協会自体はそれほど大きな組織ではありません。私、Heinz LuxがCEO(最高経営責任者)を務めており、同僚のJoost Demarest氏がCFO兼CTO(財務担当最高責任者 兼 最高技術責任者)です。その下にセールス&サポート、マーケティング、およびシステム&ツールの3つの部門があります。我々は国際的な活動のみに携わっており、地域的な活動は、KNX National Groupによって執り行われます。ベルギーにも、KNX協会とは別にKNX National Groupという組織が存在し、我々とは別に、代表者が存在します。

─ 新谷:KNX協会と各国のKNX National Groupとの役割分担をもう少し詳しく説明していただけますか?

Lux:KNX協会の役割は、KNXを用いたシステムおよびKNX仕様を改善し普及を図ることです。もう1つの役割は、ETS(Engineering Tool Software)という、KNX製品の製造業者が提供するあらゆるKNX製品を用いてホーム・ビル制御のシステムを作ることができるツールの開発・改良・販売です。さらにKNX研修センター、KNX製品、およびKNXパートナーの認定も協会の役割です。

 一方、KNX規格を皆さんに使っていただくよう、KNXの存在を世界各地でアピールするのも非常に大事です。KNX協会内にもマーケティング部門がありますが、KNX協会はKNXを技術面から普及促進するための組織であるのに対して、KNX National Groupは、地域の実情に即してKNXをマーケティング面から普及促進するための組織ということができます。

〔2〕KNX研修センターとKNXパートナー

─ 新谷:「KNX研修センター」はKNX協会の組織ではないのですか?

Lux:技術系の教育を行う機関がKNXのトレーナーとしての教育を受け、KNXトレーニングを行う設備条件を満たしていれば、KNX研修センターとなることができます。

─ 新谷:「KNXパートナー」という言葉も出てきましたが、KNXパートナーというのは何なのでしょうか?

Lux:KNXパートナーとは、KNXに関する教育を受け試験にパスした人のことです。KNX研修センターには、KNXトレーナーの資格をもったKNXパートナーがいなければなりません。

─ 新谷:KNX研修センター、KNX製品、KNXパートナー認定・KNXロゴ発行作業だけでなく、研修センター向けの教育マニュアル作成もKNX協会の役割と考えてよろしいですか?

Lux:はい。BasicコースとAdvancedコースの2種類の研修マニュアルのほかに、トレーナー研修コース用のマニュアルも作成して販売しています。そのほかに、ハンドブック注3もあります。また、KNX本来の仕様書も用意しており、KNX協会員には無償提供していますが、会員以外への販売も行っています注4

 さらに、定期刊行物としてKNXの適用事例や、新会員・新製品紹介、KNX関連イベント等の情報を提供するKNXジャーナルを年2回発行しています。

〔3〕“KNX National Group Japan Kick-Off meeting”の目的

─ 新谷:今回の“KNX National Group Japan Kick-Off meeting”の目的についてお話しいただけますか?

Lux:各国の市場がどうなっているのかは、KNX協会よりその国のKNX協会員のほうがよく知っています。したがって日本でKNXを広めるには、日本の実情に即してKNXをマーケティング面から普及促進するための組織であるKNX National Group Japanを立ち上げる必要があるのです。そのため、本日(2013年10月24日)17時から、横浜ベイホテル東急のプリンスの間で、その発足会を行う運びとなりました。

 KNX National Group Japanは、日本のKNX協会員(ダイキン、パナソニック、富士通ゼネラル)や日本に拠点のある海外のKNX協会員(ABB、Wago)、KNXパートナーなどが参加して活動を開始することになると思いますが、これは、日本国内の企業でKNX製品を扱ってみようかという企業からのコンタクトポイントとなるものです。このKick-Off meetingでは、KNX National Group Japanの役割や目標を共有し、当面の事務局設置など、KNX協会での準備状況を説明して、2014年2月27日の公式な活動開始に向けての第一歩としたいと思っています。

 このように、KNX National Groupの立ち上げを支援するのも、KNX協会の役割の1つです。


▼ 注1
KNX Association、http://www.knx.org/

▼ 注2
KNX協会の正式名称である「KNX Association cvba」の最後のcvbaは有限責任協同会社を意味し、商法上は営利企業のカテゴリーに入る。

▼ 注3
KNX Handbook for Home and Building Control

▼ 注4
KNX協会のホームページ(http://www.knx.org)から購入可能。

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