[標準化動向]

急拡大するM2M市場!3GPPにおけるMTC(M2M)デバイスの標準化完了へ

2014/03/01
(土)
SmartGridニューズレター編集部

「リリース10」で標準化されたMTCのメカニズム(仕組み)

〔1〕国際的に大きなM2M市場へのビジネス機会の到来

そのため、モバイル通信事業者をはじめ多くの端末、半導体センサー、M2Mモジュール、センサー内蔵機器(M2Mデバイス)などのベンダがこの分野に新しいビジネス機会を見つけようと積極的に新しい展開を開始している。さらに近年、具体的には、自動車関連、医療関連、スマートグリッド関連、農業関連などのソリューションとして、国際的にもM2M(Machine to Machine)コミュニケーションへの関心が盛り上がりはじめていることもある。

このような国際的に大きなM2M市場へのビジネス機会に合わせて、3GPP内の審議項目(ワークアイテム:作業項目)として、「MTCデバイスの標準化」が立ち上がり、その審議が開始されたのである。

〔2〕「リリース10」の標準化されたシンプルな仕組み

ここで、前述した3GPPのリリース10の標準化されたメカニズム(仕組み)を見てみよう。3GPPでは、モバイル端末やMTCデバイスのことを基本的には移動機(UE:User Equipment)と呼ぶ。リリース10で標準化された内容は、この移動機(MTCデバイス)が、ネットワーク(基地局)にアクセスしてきたとき、自分自身がMTCデバイスであることを宣言をするようなインジケーター(標示)を組み込んだ仕組みとなっている。

前述したとおり、MTCデバイスのトラフィックは急を要さないとことが前提であるため、前記インジケーターを上げてきたデバイスがアクセスしてきた場合、もしその時点でネットワークが混雑している(ふく輳している)ような状況であれば、ネットワーク(基地局)側から、データ送信の機会を例えば10分程度遅らせるような指示を、MTCデバイスに出せるような仕組みになっている。リリース10では、このようなシンプルなメカニズムが標準化され、他の仕様とともに2011年6月に標準化を完了した。

「リリース11」の標準化:ネットワークへアクセスする前にストップ!

〔1〕報知情報を全MTCデバイスに送信

さらに、リリース10の機能を拡張するため、新しいワークアイテムが立ち上がり、3GPPのリリース11の審議が開始された(2013年6月完了)。このリリース11では、MTCデバイスがネットワーク(基地局)にアクセスする前に、ふく輳制御ができるようなメカニズムが検討されることになった。

普通、移動通信ネットワーク(セルラーネットワークとも言われる)というのは、「報知情報」という形で、制御情報を常にネットワーク圏内の全端末に報知している。それを待ち受けしているような移動機(端末)は、常に最新の制御情報を受信して、その制御情報に従って動くシステムになっている。すなわち、移動機は自身のデータを基地局に送信する前に、まず基地局からの報知情報を受信してから送信を行う、というシステムになっているのである。

この報知情報には、例えば端末に対する命令のようなものが入っていて、MTCデバイスに対して、あなたは、今、基地局に「アクセスしてよい(アクセス許可)」あるいは「アクセスしてはいけない(アクセス禁止)」という情報を入れることができる。これは、次のような仕組みで行われている。

〔2〕報知情報の仕組み:0から9までの数字をランダムに

すなわち、移動機(MTCデバイス)には、モバイル端末と同じように、MTCデバイス内に装着されているSIMカード注1の中には、「アクセスクラス」というものが割り当てられている。具体的には、図5に示すような「0から9までの数字(アクセスクラス番号)」がランダムに割り当てられている。

図5 SIMカードの中に配置されたアクセスクラス番号「0〜9」(ランダムに配置)の例図5 SIMカードの中に配置されたアクセスクラス番号「0〜9」(ランダムに配置)の例

その0から9までの数字ごとに、端末に対して「アクセス許可」、あるいは「アクセス禁止」というアクセス制御命令を報知情報に入れることができる。MTCデバイス(端末)は受信した基地局からの報知情報の中のその部分を見て、例えば自分のアクセスクラスが「6」だとした場合、このアクセスクラス「6」が、報知情報の中で「今、許可されているのか、禁止されているのか」を判断する。「許可されているのであれば」、基地局にアクセスするというようなメカニズムとなっている。

これまでも、普通の移動機(スマートフォンや携帯電話)用にそのようなメカニズムがあったが、これをMTCデバイス専用に設けたのである。

これによって、ネットワークがふく輳(混雑)しているときは、例えば「0から9まで」、すべて、アクセスが禁止されることもあるし、さほど混んでなければ、「0から5まで」禁止あるいは「0と1」だけ禁止される、というようにネットワーク(基地局)側で制御することになる。

〔3〕「リリース10」と「リリース11」の違い

先ほど説明した「リリース10」の場合は、MTCデバイスが基地局にアクセスしてしまってから、そのMTCデバイスに対して「今、ネットワークが混雑しているから待ちなさい」と言われるパターンだったのに対して、「リリース11」(2013年6月標準化完了)は、MTCデバイスが基地局にアクセスする以前から、報知情報で制御するようなメカニズムを入れたというのが最大の特徴なのである。

このメカニズムは、図4に示すアクセス網側にある基地局の容量と、もう1つ、移動交換局などがあるコアネットワーク側(こちらもふく輳する)の容量の両方が関係している。例えば、コアネットワーク側にある移動交換局の下には、アクセス網側の複数の基地局が接続されている。このため、すべての基地局から一斉にMTCデバイスのアクセス情報がコアネットワーク側に上がってくると、それを束ねるコアネットワークは大きくふく輳(混雑)することになる。

図4 移動通信ネットワークの基本構成図4 移動通信ネットワークの基本構成

このように、例えばコアネットワークがふく輳したときには、配下の基地局に対して、「移動機のアクセスを禁止しなさい」という情報(コマンド)を出し、最終的にはアクセス制御命令を、移動機(MTCデバイス)に送信できるようにして全体の制御をする、というメカニズムになっている。

なお、参考までに、図6に、リリース11(Release 11)の『タイトル:MTCのためのシステムの改善』の技術報告書(3GPP TR 23.888、V11.00)の例を示す(TR:Technical Report、技術報告書)。

図6 3GPPのリリース11(Release 11)のタイトル:MTCのためのシステムの改善図6 3GPPのリリース11(Release 11)のタイトル:MTCのためのシステムの改善〔出所 http://www.qtc.jp/3GPP/Specs/23888-b00.pdf#search='3GPP+TR+23.888'


▼ 注1
SIMカード:Subscriber Identity Module Card)、WCDMAやLTE方式の携帯電話で使われている、電話番号を特定するための固有のID番号が記録されたICカードのこと。このSIMカードは、端末を契約した移動通信事業者の通信ネットワークに、登録するためのものである。このため、端末を別の移動通信事業者に契約を切り替える際には、SIMカードを交換する必要がある。このため、GSMAやETSIなどで書き換え可能なSIM(eSIM:embededSIM)の標準化が行われている。

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