[標準化動向]

急拡大するM2M市場!3GPPにおけるMTC(M2M)デバイスの標準化完了へ

2014/03/01
(土)
SmartGridニューズレター編集部

「リリース12」の標準化:4つの方針をベースに標準化

リリース12の標準化は、本記事の冒頭に示した4つの要求条件をベースにして、本年(2014年)9月の標準化完了を目指して標準化が進められている。3GPPでは、MTCデバイスについて、前述した4つの特徴があるシンプルなデバイスというように位置づけ、それに合わせたいろいろなメカニズムが次々に策定されている。

リリース11までは、どちらかというと、数多くのMTCデバイスのネットワークへのアクセスを、ネットワークの中でどう扱うかという点に注力した面があった。

次に、リリース12の標準化について、4つの側面から解説しよう。

〔1〕リリース12①:消費電力を少なくする

リリース12に関しては、現在、まさに標準化の審議が行われている最中であり、リリース12のワークアイテム(作業項目)として審議されているものは、大きく4つのカテゴリーに分かれており、そのうちの1つがデバイスの消費電力を少なくしようということである。

普通の移動機(UE、スマホなどの端末)とは、現在の移動通信の場合、ほぼ1秒から2秒ごとに1回、ページング(呼び出し)を行うことができるようになっている。すなわち、端末側は、自分に対してネットワークから呼び出しがないかということを、連続的に受信するのではなく、間欠受信(DRX: Discontinuous Reception)によって見ている。それによって、電力消費を少なくなるように工夫している。しかし、例えば1秒に1回呼び出しを確認するのではなく、1時間に1回、あるいは2日に1回しか呼び出しが必要でないMTMアプリケーションもあると考えられる。間欠受信の頻度はそのままバッテリーの消費につながるため、例えばバッテリーで動作させるガス用のスマートメーターなどの場合は、なるべく間欠受信の頻度を下げることが電池の消耗を少なくするために必要である。このため、電池を3年もたせる、あるいは5年、10年もつようにというような目的のもとに、消費電力を抑える方法が審議されている。

〔2〕リリース12②:小さなデータを頻度少なく通信

2つ目が、前述のMTCデバイスの前提として、小さいデータ(例えば数百バイト)を、頻度が少なく通信するデバイスであるということに対して、何が問題になってくるかである。移動通信システムでは、データを送信するためには、待ち受け状態から接続状態に移行する必要がある。このときに、多くのシグナリング(制御信号)を必要としてしまう。

極端な場合、MTCデバイスのデータを送信するための無線回線での通信のほとんどが、制御信号の通信となるようなことになってしまい、それが通信のオーバーヘッドになってしまう。そこで、数多くのMTCデバイスを収容しようとする場合に、このようなオーバーヘッドがボトルネックとなってしまう。そこで、シグナリング(制御信号)のオーバーヘッドを少なくするような方法が検討されることになった。

例えば、あるMTCデバイスが、30秒後にもう1回、データを送信してくることがネットワーク側でわかっていれば、そのデバイスを待ち受け状態を落とさないまま接続状態にさせておいて、その次のデータの送信を完了してから待ち受け状態に移行させれば、シグナリングの量は少なくて済む。このため、MTCデバイスがどのようなデータやトラフィックを利用しているのかネットワーク側で情報を持ち、さらにこの情報をうまくネットワークで処理して最適にMTCデバイスを制御しよう、というアイデアが検討されている。

〔3〕リリース12③:ローコストデバイス(低価格化)

3つ目が、ローコストデバイスの作成である。これは、デバイスコストを非常に小さくして、MTMサービスの利用者が、MTCデバイスを数多く運用できるようにしようということである。MTCデバイスの場合、多くのデータを処理したり、送受信したりしなくてよいため、例えばスマートフォンのようにハイパワーなCPUが入っている必要はなく、安価なチップセットでも通信が実現できるようにする仕組みが考えられている。

具体的には、移動機に要求されるデータ処理の容量を少なくしたり、あるいはナローバンド(狭帯域)通信を行うということである。例えば、現在、LTEの通信ではシステムの帯域幅は20MHz幅を最大としているが、MTCデバイスの場合は、20MHzの帯域を全部を使用するのではなく、その一部しか使用しないことも可能である。すなわち、20MHz帯域幅の中心の1MHz幅のみを使用し、簡易LTEのような仕組みにして低コストなMTCデバイスを実現することが検討されている。

さらに、3GPP標準規格では、移動機(UE)のカテゴリーが定義されている。例えば、移動機は実現可能な通信の速度で、150Mbpsクラスの移動機、300Mbpsクラスの移動機というなカテゴリーに分かれている。しかし、MTCデバイスの場合、多くのデータを処理したり、送受信したりしなくてよいため、例えば、要求される通信速度が1Mbpsといった低速の移動機(UE)のカテゴリーを定義してデバイスのコストを下げる、というようなことも検討されている。

図7 簡易LTEの場合の使用周波数の帯域幅の例(簡易LTE:1MHz幅の例)図7 簡易LTEの場合の使用周波数の帯域幅の例(簡易LTE:1MHz幅の例)

〔4〕リリース12④:カバレッジ(通信可能範囲)の拡張

4つ目が、カバレッジ(通信可能範囲)の拡張である。このニーズは、欧州で検討されている。欧州の場合、一般に、地下室にガスメーターや水道メーターなどのスマートメーターを設置しているケースが多い。無線通信の場合、地下室に無線機器がある場合は、電波の減衰によって、電波が通りにくいため通信がしにくくなる。

当然、データサービスの提供のためには、地下室にあるスマートメーター(MTCデバイス)でもセルラーのネットワークとの通信を可能にする必要があるので、電波の減衰の問題を解決しなければならない。通常は、電波の減衰には、移動機の送信電力を上げることで対応するが、この方法では、特別な電子部品と相応の電力消費が必要となってくる。それでは、前述のローコスト/ローパワーの要求条件と相反していることになってしまう。要するに、通常考えられる方法では、ローコスト/ローパワーという要件と、カバレッジを拡張するということは相反していることなのである。

この問題を解決するために、移動機の送信(上り通信)方法として、送信データに非常に大きな冗長性を持たせ、複数の送信スロット(例:100スロット)で送信し、それを基地局の受信側で復号処理することで、大きな電波の減衰があっても通信を可能にすることなどが考えられている。

この4番目の課題(カバレッジの拡張)は、かなりハードルの高い課題であり、ひき続き検討されている。

図8 カバレッジの拡張:地下室のスマートメーター(ガスメーター)を通信可能にする図8 カバレッジの拡張:地下室のスマートメーター(ガスメーター)を通信可能にする

今後の展望:oneM2M標準とMTCデバイスの相互接続

以上、3GPPのMTCデバイスの標準化動向を大局的に見てきた(この他もいろいろと審議されている)。現在、M2Mに関して新しい標準化組織である「oneM2M」(2012年7月設立)においても、oneM2Mアーキテクチャモデルやその心臓部となる共通プラットフォームの審議が行われている。このようなoneM2Mによる共通プラットフォームの標準化と、この共通プラットフォームに接続される3GPP標準のMTCデバイスがどのように連携し展開していくのか。

oneM2Mから見れば、oneM2M共通プラットフォームには、Wi-Fi、Bluetooth、ZigBee、WiMAX、WCDMA、LTEなどに対応した多様な通信デバイス(M2Mデバイス)を介したネットワーク接続が想定されているため、簡易LTEによるMTCデバイスによる通信は、単にその中の1つということになる。とはいえ、今後モバイル通信の主力となっていくLTE関連のデバイス、とくに簡易LTEが、oneM2Mのプラットフォームなどとどのように連携していくのか、今後が注目されるところである。

(注:ここでは、3GPPの標準化動向を中心に解説したが、兄弟組織である3GPP2でもM2Mの審議が行われているので参考にしていただきたい。)

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