IEEE(および相互接続性)規格の試験
ここまで、Wi-SUN規格を中心に説明をしてきたが、次にIEEE(および相互接続性)規格の試験方法について解説する。スマートメーターの無線評価・試験については、各国で規制に基づいた試験や通信性能の保証検査が行われており、これらによって、計測システムの社会的信頼性などが保証されている。
〔1〕IEEEの802.15.4g-2012の規格試験
最初にIEEEの802.15.4g-2012の規格試験について解説する。Wi-SUNアライアンスは、クローズドなメンバーシップの団体であるため、Wi-SUNアライアンスの試験基準の具体的な項目名を示してその詳細を説明することはできない。そのため、その元になっているIEEE 802.15.4g規格の中の物理層の要求項目(リクワイアメント)と測定項目を挙げて説明していることをお断りしておく。
IEEEの802.15.4g-2012の規格仕様書のうち、第18章が物理層の変調方式の章となっており、18章の18.1という節が表3で示したFSK(Frequency Shift Keying、周波数変調。周波数に0、1の2値を割り当てる方式)方式(2GFSK)となっている。
(1)送信系の試験項目
まず、送信系の試験項目を図6に示す。
図6 送信系の試験:IEEEの802.15.4g-2012の規格試験(18.1.5 MR-FSK PHY RF requirements)
〔出所 アジレント・テクノロジー、「Agilent Measurement Forum 2013 最新動向を考慮したスマートメーターの測定技術」より〕
具体的には、上から順に、Frequency devia-tion tolerance(周波数偏移の許容値注5)、Zero crossing tolerance(ゼロ交差偏差注6)などの変調性に関する試験。
さらに、Radio frequency tolerance(キャリア周波数許容偏差注7)、Transmitter sym-bol rate(送信機のシンボル速度)などのキャリア(使用周波数)の周波数精度やクロック(動作周波数)の精度、それからChannel switch time(チャネル切り替え時間)とTransmit spectral mask(送信スペクトルマスク注8)、最後に、Rx-to-Tx turn-around time(受信機から送信機への折り返し時間)というものが定義されている。
図6に示した各ブロックで、変調精度や周波数、あるいはクロックがどの程度正しいのか、基本的にはベクトル・シグナル・アナライザの機能をもったスペクトラム・アナライザ(波形解析装置)で測定する。チャネル切り替え時間や送信スペクトルマスクに関してはスペアナ、受信機から送信機への折り返し時間は、スペクトラム・アナライザとベクトル信号発生器(信号源)の両方の計測器によって計測される。
(2)受信系の試験項目
次に、図7に受信系の試験項目を示すが、図7の上から受信機の感度試験や受信機への妨害波対策、受信機の最大入力レベルの測定である。
図7 受信系の試験:IEEEの802.15.4g-2012の規格試験(18.1.5 MR-FSK PHY RF requirements)
〔出所 アジレント・テクノロジー、「Agilent Measurement Forum 2013 最新動向を考慮したスマートメーターの測定技術」より〕
さらに、受信機のED(Error detector、誤り検出)やリンク品質表示(LQI)の測定注9、クリア・チャネル・アセスメント注10などの測定が行われる。
▼ 注5
周波数偏移の許容値:アナログ的に言えばFSK(FM)変調の変調度が許容範囲にはいっているかどうかということ。
▼ 注6
ゼロ交差偏差:FSK変調のシンボルの変化タイミングが、シンボルのちょうど中間の時点から前後にずれいていないことを確認している。
▼ 注7
キャリア周波数許容偏差:中心周波数が設定したチャネルの中心からずれていないことを確認している。
▼ 注8
送信スペクトルマスク:送信しているチャネルに隣接している帯域に不要な電波を出力していないかの測定。
▼ 注9
リンク品質表示(LQI)の測定:受信機の電波環境のインジケータに対する試験のこと。
▼ 注10
クリア・チャネル・アセスメント:Clear channel assessment(CCA)。送信機が送信しようとしているチャネルを評価して、他の送信機器がそのチャネルで送信を行っていないかを確認する機能をもっていることを確認する。