ようやく「完全自由化」へと漕ぎつけられた
私たちのように、通信とエネルギーの融合領域などの関連技術を扱う者にとっては、電力小売全面自由化の知らせは、まさに待ちに待った朗報であった。デマンドレスポンス(電力の需給管理)関連のビジネスの可能性が議論され始めた2004年4月から契約電力500kW以上が自由化対象となり、さらに翌年の2005年4月から、契約電力50kW以上が自由化対象となり、その結果、全電力の62%程度が自由化された(2013年時点)。
しかし、契約電力50kW未満の低圧、電灯といった、小規模工場やコンビニ、一般家庭を含む電力は、長い間自由化の対象外であった。このほど、2016年4月からようやく完全自由化へと漕ぎつけることができた。
しかし、これでやるべきこと、やりたかったことが自由にできるようになった、ということではなく、今後もさまざまな取り組みを通して、スマートコミュニティの構築に進まなくてはならないと考えている。また、電力の完全自由化が行われるとはいえ、基本的なところでは課題が残されている。例えば、よく言われているように、提供される電力のうち、太陽光や風力などの再生エネルギーに基づく電力がどの程度含まれているのか、というような、環境負荷という視点からの選択ができず、現時点では、ほぼ価格と企業の信頼度の競争になっている。また、当初は、自由化によって「電力供給が不安定になる」「スマートメーターが必要」「生活情報が漏えいする」といった誤解もあったが、今後は、自由化への対応を考慮した契約へと移る家庭が、徐々に増えることとなるであろう。
周辺産業を巻き込んだ新サービスやビジネスを生み出す好機
今回の電力小売全面自由化は、1985年に行われた通信の自由化以来の、大きなインフラ改革である。通信の自由化は、その後の「ネットビジネス」とも言われるように、インターネット関連サービスという新しい大きな市場を作り出した。今回の電力自由化は、それに次ぐ存在となるポテンシャルをもっており、現状の固着化した市場を自由化によって活発化し、周辺産業を巻き込んだ新しいサービスやビジネスを生み出す好機である。これを好機としなければ、また次の起爆剤候補の誕生まで、待たなければならない。
現状では、電力と通信やガスなど他のインフラとの抱き合わせ契約がメインであるが、それに留まらない、さまざまなサービスが今後生まれてくると期待している。間違いなく、この好機をうまく掴めるかどうかが、数年後大きく影響するであろうし、通信の自由化と同様、電力自由化およびそれに伴う関連分野、事業への波及効果およびその範囲には、業種による例外がないと考える。
電力だけではなく、行政・道路・水道・農業・構造物・気象などさまざまなインフラを横断した統合サービスが生まれることが予測され、クラウドやM2M、IoTを束ねることで、スマートコミュニティへと発展させることが次の目標である。
Profile
西 宏章(にし ひろし)
慶應義塾大学理工学部 システムデザイン工学科 教授。1994年慶應義塾大学理工学部電気工学科卒業(1999年、工学博士)。2002年(株)日立製作所中央研究所研究員、2003年より慶應義塾大学理工学部助手、専任講師、准教授を経て、2014年より現職。IEEE 802.3、IEEE P2030 標準化委員、IEEE スマートグリッドビジョンプロジェクトメンバー。アーバンデザインセンター美園スマートコミュニティ事業委員長 総務省「IoT利活用のための共通ICT基盤の研究開発・標準化動向の調査検討グループ」グループ長など