[特集]

3.11震災時にも発電し続けた「仙台マイクログリッド」

─ 東北復興へ期待高まる日本初の品質別電力供給システム ─
2014/06/01
(日)

3.日本初の「品質別電力供給システム」

この仙台マイクログリッドは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が、新電力ネットワークシステム実証研究計画の一環として、2004〜2007年度の4年間で実施した実証試験プロジェクト「品質別電力供給システム実証研究」であり、NTTファシリティーズ、NTT建築総合研究所(現:NTTファシリティーズ総合研究所)、仙台市、および東北福祉大学の4者が受託して構築したシステムである。 このプロジェクトは、「品質別電力供給システム」を実フィールドで運用し、同システムの電力供給の信頼度、運用性、経済性などを検証・評価することを目的としてスタートした。

〔1〕「品質別電力供給システム」とは

仙台マイクログリッドの「品質別電力供給システム」とは、日本で初めて需要家のニーズに応じた複数の品質の電力を、同時に供給できるシステムである。 具体的には、東北電力からの電力をそのまま使用する標準品質のほか、図3に示すように、品質A、品質B1、品質B2(現在は停止。品質Cを追加、後述)、品質B3、直流(DC)というように、5つの電力品質が規定された。例えば、主な内容を見ていくと、図3に示す品質Aの電力の場合は、落雷等によって生じる電圧低下現象、いわゆる「瞬低(瞬時電圧低下)」の回復や停電時での供給、供給電力の波形(周波数)の乱れなどに対して補償されている品質の電力が供給される。提供場所としてはMRIが設置されている診療所、あるいはサーバが設置されている研究所などがある。 また、直流は、電圧が300V(基本設計時点がかなり以前の2004年のため。現在は380〜400Vが主流)で、LED照明、サーバ、換気扇用のファン(排熱・吸気の両用)などに使用されている。なお、品質B2は、実証実験終了後、供給を停止しており、新たに品質C(非常用発電装置による給電品質)が追加され、その供給対象は病院(精神科および内科病院)となっている。図4に、この品質別電力供給システム(仙台マイクログリッド)の具体的なシステム構成と、その後、常用発電装置の集約化を目指して追加され、供給を開始した品質Cを示す。 この図4から、品質別電力供給システムが、東北電力からの電力供給を受けながらも、自前の燃料電池(MCFC)やコージェネレーションシステム対応のガスエンジン発電装置(GE)、太陽光発電(PV)などと連携させて、5つの電力品質を実現していることがわかる。 このシステムによって、消防法で義務付けられている非常用発電装置の設置を、このシステムのGE(常用発電タイプ兼防災認定型)で兼用できることを実証するため、フィールド試験を実施し、実証することができた。さらに、停電発生時を想定し、系統図のC負荷(建物防災設備)が停電後に投入され(図4の青の直線部分)、GEから正常に供給されること、および他の給電品質に異常がないことを実証することもできた。図5は、仙台マイクログリッドが、東北電力からの電力、仙台市ガス局からの都市ガス(中圧)によるガスエンジン(コージェネレーション)、さらに、太陽光発電、蓄電池などをミックスさせ、災害時のライフラインの確保(安定的な電源確保)を実現していることがわかる。 このシステムは、東日本大震災時でも運転できたことが実証されたとともに、今後、起こりうる大規模災害(地震)・計画停電などが発生しても、都市ガスの供給によって、電気や水などのライフライン確保と熱利用による給湯・冷暖房を行うことが可能であることも実証された。

〔2〕東北電力との契約を個別契約から一括契約へ

図6は、仙台マイクログリッドの実証実験を開始するにあたり、国見ケ丘キャンパスにおいて、東北電力からの電力と仙台市からの都市ガスの両方のエネルギーを採用・活用しているシステム構成を示す。 従来は、図6の右側に示すように、キャンパス内のせんだんの里や感性福祉研究所、室内練習所などの建物は、東北電力と個別に契約して電力供給を受けていたが、電力を一本化して一括購入し、電力料金を低減させるとともに、仙台市からの都市ガスも一括購入することで運用コストの低減を実現してきた。 さらに、自前で設置した、燃料電池や太陽光発電およびガスエンジンなどの発電電圧を、東北電力からの受電電圧と同じ6,600Vに昇圧し、これらを連携させてミックスして利用している(図6左上参照)。 このような創意工夫によって、需要家側の特定エリアにおける新しい電力ネットワークを構築し、従来、東北電力と個別に契約していた計2,000kW(1,916kW:約2MW)を、850kWと半減以下にさせ、電力コストの低減を図っている。 同時に、表1に示すように、発電に伴う排熱の利用や高効率な発電設備を使用することによる省エネとともに、二酸化炭素や窒素酸化物などの削減によって環境保全にも大きな効果を挙げている。 表2に、電力料金も含む東北福祉大学の現在のシステム運転内容を示す。

〔3〕実証研究終了後の品質別電力供給システム

この品質別電力供給システムは、実証研究終了後、東北福祉大学へ譲渡されるとともに、2008年度からはNTTファシリティーズが、設備保守業務を受託している。 実証研究終了後にはいくつか変更が行われたが、主な変更点は次の通りである。

  1.  GE(ガスエンジン)・MCFC(燃料電池)をコージェネレーションとしての熱利用開始
    ⇒ これによって、総合エネルギーシステムへ変貌させた。
  2.  GEを非常用発電設備兼用とし、病院(新設)の非常用設備へ品質Cを供給開始
    ⇒ これは、発電装置をエリアで共有する試みである。
  3.  品質B2(仙台高校・浄水場)の供給を終了
    ⇒ DVR600(直列補償装置)は、他の大学へ転用した。
    ⇒ 仙台高校へは、手動による品質Cの供給が可能となった。
  4.  MCFC(溶融炭酸塩形燃料電池)を撤去
    ⇒ 国内代理店が取り扱いを中止し、セル交換が不可能となった。

◆図3出所
「品質別電力供給システム(仙台マイクログリッド)の3.11 災害時の挙動について」、2014年1月10日、NTTファシリティーズ
※品質C:供給対象は病院(精神科および内科病院)が新たに追加された。また品質B2 は、実証実験終了後、供給を停止している。

◆図4出所
「品質別電力供給システム(仙台マイクログリッド)の3.11 災害時の挙動について」、2014年1月10日、NTTファシリティーズ

◆図5出所
日比谷総合設備(株)「学校法人栴檀学園 東北福祉大学エネルギーセンター視察資料」、2014年4月28日

◆図6出所
日比谷総合設備(株)「学校法人栴檀学園 東北福祉大学エネルギーセンター視察資料」、2014年4月28日

◆表1出所
日比谷総合設備(株)「学校法人栴檀学園 東北福祉大学エネルギーセンター視察資料」、2014年4月28日

◆表2出所
日比谷総合設備(株)「学校法人栴檀学園 東北福祉大学エネルギーセンター視察資料」、2014年4月28日
※CGS: Co-Generation System、コージェネレーションシステム。熱併給設備。ガスあるいは石油などの一次エネルギーから電力と熱(温水)というように2 種類以上の二次エネルギーを取り出して利用する設備。

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...