[特集]

3.11震災時にも発電し続けた「仙台マイクログリッド」

─ 東北復興へ期待高まる日本初の品質別電力供給システム ─
2014/06/01
(日)

5.仙台マイクログリッド(品質別電力供給システム)の各種設備

次に、現地取材をとおして見た仙台マイクログリッド(品質別電力供給システム)の各種設備を簡単に見てみよう。

〔1〕エネルギー源をミックスして有効利用

写真2は、60°の傾きをもって設置された太陽光発電用パネル(30.2kW、多結晶シリコン。京セラ製)である。ここでは、太陽光発電用パネルと接続されたPCS(パワーコンディショナー)から直流400V(428V)の直流電圧を交流に変換して6,600Vまで昇圧し、コージェネと同じように東北電力からの受電電力とミックスして使用している。この他に2カ所の太陽光パネル(計3カ所)が設置されている(前出の写真1、および表3参照)写真3は、新設された100kWのリン酸型燃料電池注4富士電機製:FP-100)である。低圧ガスを利用し、発電効率は48%となっている。この燃料電池は210Vで発電し400Vに昇圧され、さらに、トランス(変圧器)で6,600Vに昇圧されて、東北電力の受電電圧の6,600Vと合わせ、太陽光発電やコージェネと同じようにミックスして使用されている。また、燃料電池から出る温水(90℃)を、有効活用している。

〔2〕 排熱を利用したコスト削減

仙台マイクログリッドでは、燃料電池やコージェネなどの排熱を利用して温水を、エネルギーセンターから370m離れている「せんだんホスピタル」に供給し有効利用している(写真4)。送り出しの温水は90℃であるがホスピタル側で何も使わないでそのまま送り返すと、往復しても0.5〜1.0℃程度しか温度が下がらない。このため、吸収式冷凍機も効率よく運転することができる。 コージェネの冷却には、独自の井水(井戸水:地下250m)設備を利用しているため、水道料などにおいて大幅にコストを削減している。井戸水は飲料用にも使用されているが、これによって大幅にランニングコストを下げている。 写真5は、出力350kW×2台設置されたガスコージェネレーションシステム〔GE。ヤンマーエネルギーシステム(株)製:Ene Power EP350G〕である。ミラーサイクル方式を使用しているため、発電効率は40.5%とかなり高い効率を実現している。また、非常用発電機(通常10時間程度が限界)と異なり、常用・防災兼用のガスエンジンのため、燃料さえあれば長期の発電も可能であり、事実、東日本大震災時の長期停電(3〜4日)にも大活躍した。 ガスの燃料費の単価を下げるため仙台市のガス局と交渉し、せんだんホスピタルも含めてすべて含めて一括購入とし、100万m3(立方メートル)以上使用する条件でガス単価を下げることに成功した(写真6)。 以上のほか、電力品質のコントロールルームに設置された制御サーバ(HP製DC48V給電)には、仙台マイクログリッドの電圧や電流、波形のデータが集められ解析されている。また、制御サーバでは、発電機の運転管理のほか、制御・計測、インバータなどの一括管理も行われている。さらに、震災時にも活躍した制御弁式据置鉛蓄電池〔古河電池(株)製。容量300×2Ah(10時間率)〕のほか、地下250mから汲み上げる自家用井戸ポンプ(写真7)は、水を浄水し各施設に送水され、大きな経済効果を挙げている。

*          *          *

以上、仙台マイクログリッドのシステムを見てきたが、東北電力からの電力供給をベースとしながらも、燃料電池や再生可能エネルギー(太陽光発電)、コージェネレーションなどをミックスして連携させた、品質別電力供給システムの実証とその後の実用化の展開は、「災害に強い電力システム」として、大いに期待が高まっている。一刻も早い東北復興に向けて、仙台マイクログリッドのようなシステムが普及することを願いたい。

◎Profile

廣瀬 圭一(ひろせ けいいち)
 
株式会社NTT ファシリティーズ
エネルギー事業本部 技術部長
 
1992 年3 月 新潟大学大学院工学研究科修士課程 修了
1992 年4 月 日本電信電話( 株) 入社
2005 年4 月 ( 株)NTT ファシリティーズ 研究開発本部 主任研究員
2014 年4 月より現職(エネルギー事業本部 技術部長)
IEC SBM SG4(1500Vまでの直流配電システム) 日本代表委員、IEC SC22E(安定化電源) 国内委員長
2010 年5 月 電気学会 電気学術振興賞 論文賞
2013 年6 月 エネルギー・資源学会 学会賞
2013 年6 月 電気設備学会賞 学術部門 論文賞
 
 
峯田 喜次郎(みねた きじろう)
 
日比谷総合設備株式会社 東北支店
執行役員 東北支店 支店長
 
1972 年4 月 日本電信電話公社 入社
1998 年3 月 ( 株)NTT ファシリティーズ 東北支店 設備担当課長
2002 年5 月 東北支店 建築ソリューション担当課長
2003 年4 月 東北支店 FM 事業部長
2006 年7 月 ( 株)NTT ファシリティーズ東北 FM 事業部門長
2010 年7 月 日比谷総合設備( 株) 東北支店 営業部長
2011 年5 月 東北支店 支店長
2012 年7 月より現職(日比谷総合設備( 株) 執行役員 東北支店 支店長)

 


◆表3出所
日比谷総合設備(株)「学校法人栴檀学園 東北福祉大学エネルギーセンター視察資料」、2014年4月28日
※ 30°39 枚:太陽電池パネル(モジュール)を30 度傾けて39 枚設置しているという意味。

▼注4
リン酸型燃料電池:PAFC、Phosphonic Acid Fuel Cell
 

 

 

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