OpenADRによるDR通信制御の例
〔1〕OpenADR 2.0bは国際標準プロトコル
図3は、早稲田大学・EMS新宿実証センターで行われている、電気事業者を中心とするDR(デマンドレスポンス)通信制御(OpenADR 2.0b)と、スマートハウスのHEMSを中心とする宅内通信制御(ECHONET Lite)の基本構成例を示したものである。
図3 早稲田大学・EMS新宿実証センターでの自動DR実証実験の基本構成
出所 スマート社会・電力自由化に向けた取り組み最前線セミナー、石井英雄「デマンドレスポンスと分散エネルギー資源の統合に向けて」、2016年3月9日
OpenADR(Open Automated Demand Response、自動デマンドレスポンス)とは、自動化されたデマンドレスポンス(電力の消費削減)の標準仕様のことで、電力会社(あるいはアグリゲータ)とオフィス・家庭などの需要家との間で、料金表示や負荷制御スケジュールの通知をするための通信メッセージ交換などを行うプロトコルである。これはOpenADRアライアンスによって策定され、OpenADR 2.0a とOpenADR 2.0bがあるが、OpenADR2.0bは国際的に認知された標準注5となっている。
一方、OpenADRのバージョン2.0aは、サーモスタットなどの単純な機器用の仕様で、2.0bはアグリゲータなどによる本格的なDRサービスをサポートしており、日本も含めてOpenADR 2.0bが広く使用され始めている。
〔2〕OpenADR 2.0bとHEMS
具体的なメッセージのやり取りは次の通りである。
電気事業者(あるいはアグリゲータ)が、需要家に節電を要求する場合、デマンドレスポンス(DR)に関する国際標準であるOpenADR 2.0bに基づいたDR信号(例:何時から何時まで電気の使用量を何キロワットに下げてくださいというような信号)を送る。
このDR信号を受信したスマートハウスのHEMSは(DR信号を変換し)、HEMSに接続された各スマート家電機器(例:エアコンや照明機器)に対して、DR信号の内容に基づいた節電をECHONET Liteによって対応して処理する。
〔3〕インセンティブ型デマンドレスポンス実証試験注6
また経済産業省は、2015年4月から2016年の3月の1年間にわたり、OpenADR 2.0bを用いてインセンティブ型実証試験を、東京、関西、中部の電力エリアで、21企業・団体のアグリゲータが参加して実施した。その目的は、国内のDR可能量に関する評価(ポテンシャル評価)、ネガワット取引に関するガイドラインの検証などであった。
この実証試験では、表1に示すユースケース「UC-1」〜「UC-7」のうち、UC-1に示すアグリゲータDRという方式が採用され、系統運用者に対して、アグリゲータが仲介し、さまざまな需要家がデマンドレスポンスを行うというモデルになっている。
表1 デマンドレスポンスタスクフォース(DR-TF)がまとめたユースケース
出所 スマート社会・電力自由化に向けた取り組み最前線セミナー、石井英雄「デマンドレスポンスと分散エネルギー資源の統合に向けて」、2016年3月9日、http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/shoujo/smart_house/pdf/007_s12_00.pdf
そのほか、表1に示すUC-4の「ネガワット相対取引」の方式も、今後の典型的方式と考えられる。
〔4〕DRインタフェース仕様書の策定
JSCAスマートハウス・ビル標準・事業促進検討会では、今後デマンドレスポンスを利用する事業者などがOpenADRを容易に実装できるように、デマンドレスポンス(DR)の標準インタフェース仕様書を作成している。現在は「1.1版」が最新版注7になっている。
このDR仕様では、電力供給事業者側と電力消費者側(需要家、アグリゲータ)間のデマンドレスポンスに関する通信仕様が規定されている。
▼ 注5
国際標準:IEC/PAS 62746-10-1。PAS:Publicly Available Specifications、公開仕様書
▼ 注6
インセンティブ型デマンドレスポンス実証試験:デマンドレスポンス・アグリゲータと電力会社が需要抑制に関して契約を締結し、電力会社の依頼に基づきデマンドレスポンス・アグリゲータが需要抑制を行い、その対価として電力会社がインセンティブ(報酬)を支払うというデマンドレスポンスを実施し、その有効性に関して、経済性を含めて調査・分析を行うという実証試験。
デマンドレスポンス・アグリゲータとは、工場、事業所などの複数の需要家を束ねて、デマンドレスポンスによる需要抑制量を電力会社と取り引きする事業者のこと。
▼ 注7
「デマンドレスポンス・インタフェース仕様書 第1.1版」、2015年6月24日、JSCAスマートハウス・ビル標準・事業促進検討会、
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/shoujo/smart_house/pdf/007_s13_00.pdf